蟻 2
今夜の月は明るい、
雲ひとつないその月は、
いばらと俥達を大きく照らし、
街灯も必要ないほど。
俥の腕や脚は、
先ほどよりも鋭い刃となっていたが、
いばらにはそんなこと関係なく、
柔軟に
向かってくるその攻撃を
刀で器用に受け流していく。
ましてや向こうは3人で掛かってきているが、
特に苦戦する様子もなく、
《…それでは、ただの、戯れだ!!!》
二度三度、
鍔に近い刀身で受けたあと、
思い切りそのまま突き飛ばす。
更には背後に迫っていたもう1人の俥に
眼を切らず
そのまま後ろ蹴り。
上から迫った3人目の俥は刀を払って
弾いて飛ばす。
そして一旦、
頭部だけの俥の元へ
引き返すように集う3人。
「…やはり、手強い。」
1人の俥がタバコに火をつけ、
頭部に咥えさせる。
「だが、蟻を舐めてもらっては困る。」
「蟻は時として、人をも喰らう。」
3人の俥が互いに向き合い、
変化した腕で
同士討ちのように
それぞれを真っ二つに、
いや、
二つどころではない、
四つにも、
八つにも斬り裂いて
肉塊を無数に作る。
「ならば、人海戦術と参ろうか!」
バラバラになった
俥の肉塊一つ一つが蠢き、
急激な成長を始める。
そして、
生まれる俥、俥、俥…
その俥人形たちに囲まれ、
視線を一周させるいばらの縦に割れた瞳。
「自分の分身を作り、囲む業…複流円…蟻がどこまでやるか、見届けてもらおうか?」
どうやら本体はあの
タバコを吹かす頭部のようだ。
何故なら、
《よく喋る…。》
とっておきを俥が出してきた、
だが
いばらとて、
何も無い訳では無い。
ここまで、
とてつもない妖力を封印していたが、
仕方がない、
と
頭をゆっくり振って、
解放。
しかし凄まじい爆風や
威圧感はまるで無かった。
だが、
それで十分俥に伝わる、
その妖力の凄まじさが。
「…普通、あそこまで妖力を大量に精製できれば、それを抑え込めず身体中から噴きあがり、」
「言ってしまえば、逃げ場を求め無駄に放出し続けるもんだが、」
「その妖力をまた更に別の妖力で抑え込み、肌に張り付かせて…研ぎ澄ませている。」
いばらの身体は、
二重の妖力に包まれていた。
「ならこちらも、全力で行こうかあああああ!!!!!」
分裂し、誕生した無数の俥達も妖力を解放させる!
いばらの妖力にこそ追いつかない、
妖力の垂れ流し状態だが、
100人を超える俥たちの妖力総量も相当なものだろう。
そして、
飛びかかる!!
だが、
それをのんびり見上げて、
刀で
斬りはらう。
すると、
時間差で斬り払った後に
妖力の筋がうまれて、
俥たちを吹き飛ばし、
再生細胞を消滅させた。
《蟻と言ったが間違いだったな…》
《細胞を再生させないように、》
《シラミ潰してやる…だから、シラミか。》
いばらの背後を取った2人の俥が
それぞれ鋭い腕を伸ばし、
突いたが
しゃがみ、
と、同時に上段へ斬り上げて
振り下ろす。
妖力の凄まじさから、
ただの斬りにあらず、
そのあとすぐに妖力が俥のその腕を消滅させる。
2人組は腕の再生ができず、
下がる、
が、
追いかけて
首を斬り、
消し去る
と
同時に
また背後に付いていた3人の胴へ
横切り、
斬られた部分は焼き払われ、
灰をも残さず消滅、
胴と脚だけになる。
更に背後の俥たち、
俥たち、
俥たち!!!
再び肉塊になるが、
今回は違う、
斬られた部分が綺麗に消滅する。
再生、複製が全くできない。
いばらのエンジンも全開で、
身体が火照り、
あたたまってくる。
そして、
俥の人形たちを吹き飛ばしながら、
本体へ迫る!!
頭を掴んで、
いばらが跳び箱のように飛んで
俥の肩へ足を乗せ、
また飛び上がる!
月の明かりが飛翔し、
迫るいばらを照らす!!
「…ふはは、鬼さんこちら…。」
だが、
それは俥の罠だった。
実は、
ランダムに
動いていたように見える俥の人形達が
誘うように配置され、
攻撃、
それを何度かして、
いばらを本体へ正面突破させるように促す。
着地したいばらのその
地面から
飛び出して
両足にまとわりつく俥の人形達!!
一瞬で数十体もの腕や足が
そこに絡みついて集る。
いばらは足元へ目をやったが、
すかさず頭上へ顔を向ける!
叫びながら
宙を舞い、
飛びかかる俥の人形部隊!
しかし、
まだいばらの肝は冷えない。
抑え込んでいた妖力を解放!
全身が緑光の柱となって
夜雲を突き抜けて、
大きく伸びた。
《…さあ、次はどうする?》
その鬼の頭上には何も降らない。
肉片も残らない、
この世から消え去り、
残るは
何人かの人形と、
俥の頭だけとなる。
「…この鬼は、何者だ」
俥の肝が逆に冷える。
どんな手もことごとく、
無茶苦茶な方法で突き返されてしまう。
妖力が切れる事も考えていたが、
どういう訳か
そのような兆しは一切なく、
刀を片手に下構え、
こちらに迫り、
牙を見せて笑ってみせる。
逃げるか?
いや、
逃げようにもここはあのいばらの結界の中。
あんな強い奴の結界を破れるだろうか?
しかし、
先ほどの妖力解放で天井は突き抜けたか?
ならば、
一度引いて…
《…何だ?もう詰みか》
守備に付けていた残りの人形が
妖力の斬撃で
消し炭になった。
《…これからという時に。》
残るは、
俥本体、のみ。
その時だった、
「俥確認、まだ生きてる。」
「…マジ?死んでくれていいのに。」
破れたいばらの結界から
2人を覗き込む2人の影。
いばらも見上げて呟く、
《…増援か。》




