魔眼持ちは今日も勘違いをする
一つ面白い話をしてあげよう
どこにでもあるが
どこにもないような
いつも見ているが
見えてはいない
そんな摩訶不思議な物語
とあるところに少年と少女がいました
少年と少女はとても仲の良い兄妹でした
二人はいつも二人で遊んでいました
しかし兄は生まれつき左目が見えない病気でした
でしたので、左目には常に眼帯をしており、あまり外で活発に遊ぶということはできませんでしたがそれでも二人は絵を描いたり、あやとりをしたりして仲良く遊んでいました
そんなある日
何の前触れもありませんでした
『妹が亡くなりました』
原因は事故死。ビルの屋上についていた古くなった看板が落ちてきて不幸なことにその下敷きになってしまったのです
兄は泣きませんでした
ただただ立っているだけ
そして妹の顔を見ていました
そして兄妹の両親………ん?
え?全然面白くないって?
まぁまぁ、落ち着いて
これから面白くなるんだよ?
仲良し兄妹の妹が死に、残ったのは兄ただ一人
この兄がどう生きていくのか興味はないかい?
そうです!それこそが今回のお話の内容です!
そうでしょうそうでしょう
興味があるでしょう
ならばお話を続けましょう
この 《兄妹》 がどうなったのかを……
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ミーンミンミンミン
蝉たちの人生最後の必死のアピールも少なくなってきたが例年よりは残暑が残っておりまだ夏なんじゃないかと思わせる9月上旬。今日も今日とて学校と学生たちがわらわらわらわらと飽きもせずに学校に集まっていく。
もちろん御多分に洩れず俺も朝の通学路の坂を残暑の影響を受けながら必死に歩いているわけだが。
「あっちぃ……なんだこの汗の量。お日様は照らし具合を間違えてんじゃねぇか?」
ぶつくさ言いながらフラフラ歩き続ける。その様はまるで呪詛を並べながら食べ物を求めるゾンビのようだ。だらしなく中途半端に伸びた髪が目にかかって鬱陶しい。
そんな感じで暑さに耐えつつ歩き続けること10分。我が学校の校舎が見えてくる。
『和鹿屋高校』
通称:ワケ校
生徒中心の学校で独特で歴史もあり、自由な校風が特徴な高校だ。まるでどこかのラノベとかの作品の学校のようだ。
まぁ、それは関係ないにしてもそれなりの進学校で人気も高い。
でもこんなのは能書きばかりで実際入ってみるとそうでもないもんだが。
『おはよーごさいまーす』
校門のところで生徒会が挨拶をしている。挨拶運動とやらで確かに数ヶ月前の朝礼かなんかで週に二回活動するとか言ってたような気もするな。
こんな暑い中、挨拶するなんてご苦労なこったなと横をスルーしようとしたところ目の前に立ちはだかる影が現れる。
「おはよう、古馬 祐也くん」
そう言い俺の前に仁王立ちで立ちふさがりとてもいい笑顔で微笑む女子生徒。向こうはいい笑顔だが俺の顔はきっと引き攣ったぎこちない笑顔になっているだろう。
「り……せ、生徒会長…お、おはようこざいます。じゃ、じゃあ、俺急いでるんでお先に失礼しまーす…」
「待ちなさい」
がしっと肩を掴まれ、たらぁっと今までとは違う嫌な汗が流れる。
生徒会長の 《蒼葉 凛》
歴代生徒会長で最高の支持率を集め、さらに才色兼備の無敵超人の綺麗な青みがかった髪が印象的な《蒼葉 凛》といえば近くの高校にも知られている程の人物だ。
とにかく感じいい熟語がよく似合う。眉目秀麗とか最強無敵とか。二つ目は若干違和感はあるが。
誰が言い始めたのか女王なんて呼ばれているのも聞いたことある。
はっきり言ってそんな人に名前を覚えられているだけでも俺にみたいなクラスヒエラルキー最底辺の人間は喜ぶところなのかもしれないが、まぁ俺は少し縁があり、顔見知りだから覚えてもらってたりするわけだ。
にしてもすごく注目が集まっている。まずいな、早く離脱しなきゃ。
「な、なんですか?」
「今日は持ち物検査なの。生徒会メンバーは最低1個のカバンの中身をチェックしないといけないの。だーかーらー…」
俺はそこまで聞いて逃げようかと考えたがため息をついて諦める。
「チェックさせて?」
「……一応聞きますけど拒否権の行使はできますか?」
「できないわ」
知ってたよ。祐也泣いてなんかいないわ!
しぶしぶカバンを差し出す。別にヤバい物が入ってるわけでもないしな。
「うーん。特に怪しいものはないわねぇ…」
「学校にもってくるのなんて筆箱だけで十分ですよ」
「それはそれでどうかと思うけど………よし、通っていいわよ!いつも通りよろしくね?」
そう言いカバンを返してくれる。
そして俺はそれを受け取り、歩き始め、溜め息を一つ。
厄介ごとが増えたな。ちくしょう。
そう半べそをかきながら歩いていると前の人とぶつかってしまう。
「あっ、すいません」
反射的に出た謝罪の言葉。謝罪じゃなくても何としても頭に『あっ』ってつけてしまうんだろうか。
ぶつかった人の後ろ姿からわかるのは違う制服の女子生徒でピンクの髪が目立ち、整ったモデル体型でおそらく美少女だろうなといことだ。
「あらぁ、こちらこそごめんなさぁい」
振り向いた彼女はやはり相当な美人影響で綺麗な瞳をしていて、独特な間が一個置かれている喋り方が特徴的だ。
「あのぉ……私ぃ転入してきたばかりでぇ、よければ先生のいるところまで案内していただけませんかぁ?」
そしてニッコリと微笑み、綺麗な瞳が顔を覗き込んできたことで目と目があう。一般の、ごく普通の男子生徒ならば恋に落ちているだろうシュチュレーションだ。
「……ごめん。今ちょっと急いでるんだ。だから他当たってくれ」
俺は軽く謝りながら横を素通りして歩いていく。
女の子の方は驚いていたが、まぁすぐに別の子を見つけられるだろう。あれぐらいならいくらでも案内したい男はいるだろうし、なにより
面倒ごとは避けるに限る。
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「よっしゃー、HRはじめっぞー、すわれー」
ガラガラと戸を開け入ってきたのは担任の
『鵜原 京』
名前だけ聞けば男のようだが女性で、女子生徒からも男子生徒からも京ちゃんと慕われている。実際口調から面倒くさがりやだとよく勘違いされるらしいが、面倒見もよくやる時はやるため慕われているのも頷ける。
みんなそれぞれの席についていく。
窓際の俺はいつも通り窓際をボーッと眺めていた。
ちなみにクラスでの俺は別に孤立しているとか虐められているとかいうことはない。
みんなの認識は無口な奴だけど話し掛ければ答えてくれる口べたな奴、ぐらいなものだろうか。
ヒエラルキー最底辺とは言ってみたがこう考えると最底辺というほどのものでもないかもしれないが、まぁ親しい友達とかはいないのでぼっちといったほうが正しいのかもしれない。
「欠席は……沖田だけか…誰か知ってる奴はいるか?」
「なんか電車おくれてるらしいですよ。事故かなんかあったって」
「そうか………わかった。沖田がきたら職員室に来るように言っておいてくれー」
こうしてHRも終わり、さて授業の準備だ……とはいかず
「さて、もう知ってる奴もいるだろうが転校生を紹介する」
うーん、まぁ何としても接触をしてくるとは思ったけどまさかクラスが一緒になるとはな…それとも一緒にさせたのかはわからないが。
はぁとため息が漏れる。
「紹介する。入っておいで」
そう言い、入ってきたのは朝も見かけた目立つピンクの髪の毛で整っている顔立ちはまるで人形の様な雰囲気を醸し出している女子生徒。
「西園寺 美園だ。みんな仲良くする様に」
クラスがザワザワと騒がしくなる。
当然の反応だろう。西園寺といえばここらでは有名な大企業だ。駅前のでかいビルは誰もが目にしたことがあるだろう。
おまけに超絶がつくほどの美少女。
次の瞬間にはすでに歓声と拍手が鳴り響いていた。
『ワーーー!』
『めっちゃ可愛いじゃん!俺にも春が来たか……』
『結婚してくれー!!』
一部ではあるがこんな風に様々な気持ちを叫んでいる。にしても初対面で結婚て……流石は高校生なだけある。
しかも西園寺本人はニコニコと笑顔を崩さぬまま自己紹介をする。
「ご紹介にあずかりましたぁ、西園寺 美園ですぅ。転校初日で不安だったんですけどいいクラスっぽくて安心しましたぁ。これからよろしくお願いしまーす」
これを皮切りにさらにやかましくなる。主に男子生徒が。
「あーあー、うるさいうるさい。わかったから静かにしろ。で西園寺の席だが……」
ここだろう、問題は。
おそらく今までの流れ的にこいつは俺の横に来ようとするだろう。しかし俺の横はすでに横田さん(クラス委員)が、後ろには羽生君(帰宅部)が、前は佐藤さん(料理部)が座ってくれているので何ら問題ないはずなのだ、普通なら。
しかし問題はあいつが普通ではないことだ。おそらく西園寺ならばこの周りのどの席でも譲ってもらえるだろう。厄介だ………
そして案の定西園寺はこちらに向かって歩いてくる。
そして話しかけたのは後ろの羽生君(帰宅部)だ。後ろを取ってきたか。面倒くさいぞ……
「ごめんなさぁい。私ぃそこの席がいいのぉ。変わってもらえませんかぁ?」
「は、はい!わかりました!今すぐ!!」
「先生ぇ、了承も取れたしぃ構いませんよねぇ?」
「あぁ、構わないよー。そんじゃあ今日も一日がんばんなよ。ジャリ共」
そう言うと鵜原先生は教師を後にする。
こうして朝のHRは終了した。
そうして後ろの席を中心にして人が集まってくる。俺はまたため息を一つ。これからどうしようかなぁ……
とりあえずは集まってきた人を避けトイレにでも逃げ込もうかと席を立った時、後ろから声を掛けられる。
「あのぉ、ごめんなさぁい。朝のあった人よねぇ」
俺は呼びかけに応じようか応じまいか、迷うが今この状況で応じなかった場合を想定して渋々振り返る。
「うん、そうだけど……」
「やっぱりねぇ、ハイコレ。朝のお礼ぃ」
そう言って渡されたのは可愛らしい手紙だった。完全に嫌な予感しかしないが受け取り、乱雑にポケットに突っ込む。そうして俺は振り返り教室を出る。
違和感しかないこの教室にこれ以上はいられない。
ったく、面倒ごとがまた増えた。今日は厄日だ。
書かれていた手紙には
『放課後屋上に来てほしい』
とだけ書いてあった。これがクラスの男子連中なら告白だろうかとドキドキしたり、泣いたり喜ぶところだろが今の俺の気持ちは面倒くさいの一言だ。
まぁ、今のアイツ達にそんな気持ちは残ってないだろうが。
そして時は過ぎ今は放課後。授業中やら昼休み中には接触はなく、平和だった。この要求をすっぽかそうかという考えもあったが明日学校がどうなっているかわからないので渋々と向かって今は屋上というところだ。
肝心の西園寺は来ておらず、今は只々寂しく男一人屋上で暇を持て余しているという状況だ。これで来なかった時にゃ本気で怒ろうと心に決めてベンチに腰掛ける。
「あー……そういえば凛から手紙もらってたなぁ……あれも読んどくか」
そう思いカバンの中を開けようとした時にギィッと屋上の扉を開く音が聞こえてきた。
やっと来たかと目を向けるとそこに立っていたのは西園寺美園。心なしか先程見た時よりほうが紅くなっている。走ってきたのだろうか、それは男としては嬉しいけれども、これからの展開を予想するとプラマイゼロであろう。
そんなことを思いながらベンチから立ち上がり西園寺と向き合う。
「あのねぇ、呼び出した理由なんだけどぉ」
「あぁ、わかってる。俺もお前と同じだ。」
「え?」
西園寺は意外そうな顔をしたが構うものかと話を続ける。まぁ自分の考えを先読みされてるなんて思っているはずもないだろう。
「………本当ぉ?」
「ああ、あいにくと嘘はつかない主義なもんでね。さぁ、なんでも聞い……」
ここまで言葉を発した瞬間、柔らかいものが俺に抱きついてくる。いや、西園寺なのは認識しているが理解が追いついていない。
「……は?」
「……やっと、やっと見つけた私の王子様」
少女の瞳はキラキラ輝いており、とても眩しい。王子様?プリンセス?歌とか歌った方がいいのかな。あとすごいラブがパーセントの限界超えてそう。
状況を飲み込めぬまま、俺は夕焼けに染まりつつある空を見上げる。どうしてこうなった、何を間違えた、目を閉じ思い出す。
……駄目だ。頭が回らん。柔らかいもののせいで。とりあえず一回離れてもらおう。
「お、おい。どうした?と、とりあえず離れてくれ」
「いやよぉ。やっと見つけたんだからもう離さないわ」
そういい顔をスリスリしてくる。
あー!やめろやめろ!!男がやられて嬉しい動作にランクインしそうな動作をすんな!
「いや……違うんだ。た、多分お前は何か勘違いをしてる」
「勘違いなんてしてないわぁ。貴方は私のものぉ、私も貴方のものぉ」
重いよ!重い!
本当、今日初めて会った人間に何をここまで感じるものがあるのか不思議でならない。
と、とにかく離れたい。なんとかしなくてはそろそろ色々と限界に近い。
「わかった、とりあえずはそれでいいから一回……」
そう言いかけたところでまた扉が開く。今度は西園寺の時みたいにではなく、元気にバタン!と豪快に開いた。
「祐也!約束破るなんてひどいじゃない!屋上にいるって聞いた……」
そうして目があう。そこにいるのは蒼葉凛。才色兼備の最強無敵の生徒会長。
今は固まっているがこれはかなりマズイ。
「ち、違うんだ!凛!これには深ぁいワケがあってだな!」
「何も違うかなんかないわよぉ?貴方と私はもう離れられない運命共同体、ねぇ祐也ぁ」
「ちょっとややこしくなるから黙っててくれな!西園寺!」
そんなやり取りをしてるうちに生徒会長様の瞳には光がなくなったように感じる。
「へぇ…共同体……」
「いや、だから…」
「いいじゃなぁい。私たち恋人、いや婚約者なんだしぃ」
「へぇ……へぇ……婚約者……」
「いや!だから本当黙っててお願い!」
「なんなら今キスでもしちゃう?」
そこまで言ったところで凛の方から盛大にブチっと何かが切れる音が聞こえてきた。
あっ、これは本気でまずいな、死んだか俺と思うと同時にくっついてる西園寺を力いっぱいに引き剝がし、突き飛ばす。
次の瞬間、衝撃と痛み。
そして赤に染まる。なんの赤かはすぐにわかる。自分の血。そして俺の体を突き抜ける大きな棒、槍。
刺したのはもちろん麗しの学校中の人気者の生徒会長|『蒼葉凛』
痛みに歪む視界。耳鳴りがする耳に声が届く。
「もう!!祐也のバカァ!!!知らない女の子イチャイチャしてぇ!バカバカァ!!」
そして俺に抱きつきわんわん泣いている。
俺に刺さってた槍はいつの間にか消えて残るのは刺された俺の穴だけだった。
「そんなわけのわからん理由で人を刺すな馬鹿」
そう言いアタマを撫でて諭してやる。
そう死なない。馬鹿でかい槍で腹を刺されても死なない人間。
それはもう人間なのではないのかもしれない。
俗に言う化物。
そんな少年の右の瞳は紋章を浮かべ怪しげに光っている。
そんなものを目にすれば大概の人間は今の西園寺のごとくぽけーっとするしかないのだ。
あまりにも現実離れしすぎたことが連続的に起こりすぎて頭がパンクしてしまってるんだろう。。
しくじった何もかも知ってると思って対応してた俺が馬鹿だった。何も知らないとは判断できなかった過去の馬鹿な俺を殴りたい衝動に駆られる。
「あー、西園寺。悪い。さっきの言い直させてくれ」
そう言うとハッとし、何かを見ていた瞳ががこちらに向く。やはり綺麗な色だ。
「俺もお前と同じだ」
だが悪いことにこいつの反応からこいつの今の状態を考えると、また突き落とすようなもんで酷なことをしてるようで申し訳ない。
「------俺も」
でもだからこそ言ってやらねばならないだろう。これからの彼女のために、自分の身を守るために。
たとえそれが------
「《 魔 眼 》持ちだ」
これからの少女の道を茨の道に変えることになったとしても
まずは読んでくださった皆様ありがとうございました。
前々からこんなの書きたい!っていう自分の思いを溜めて溜めてやっと大筋キャラが出来たので書き始めました。良ければこれからもよろしくお願いします。
よければ感想などよろしくお願いします。
「俺に異世界は向いていない」もよろしくね。ボソッ