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ドワーフ自治区編 決起 04

アクセスありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。



 茜は自分が異世界に飛ばされたことをなんとなくではあるが理解していた。

 理解はしたものの、さてどうすればいいのかは全く分からない。

 日本に、自分の家に帰る方法がわからないのはもちろん、今まさに行くあてがない。

「だったらとりあえず俺と一緒にベル村に来ないか」

「うーん」

 横を歩きながら話しかけてくるドガ。

 その声を聞きつつも、悪あがき的に茜は自分のスマホを確認する。

 電波は圏外。

「その板からさっきの音を出してたのか? どういう仕組みなんだ?」

 スマホなど見たことも触ったこともないドガが興味深げに覗いてくる。

「どういう仕組みなのかはあたしにもよくわからないわ。それに、もうすぐ使えなくなるし……」

 エルフたちをだますのに音楽を再生しすぎたせいで、電池の残量が少なくなっていた。

 茜は写真データフォルダを開き、自分や家族、友人の写っている写真を探す。

 1年前の秋に茜の父と玲奈の母が再婚し、一緒に暮らし始めた記念に撮った写真を画面に出す。

 それをしばらく凝視した。


 なんとしてでも戻る手段を探し出す。玲奈、父、義母、そして融が待つ家に帰る。

 目に涙がこみ上げてきそうになるのをぐっとこらえ、茜は強く決意してスマホをしまった。

「そうね。お言葉に甘えてご一緒させてもらうわ。ここから遠いの?」

「歩いて休んでを繰り返して、まあ10日もかからないと思うぞ」

 徒歩で10日。一回の女子高生である茜にとって楽な道のりではない。

「比較的暖かいから寝るのはどうにかなるとしても、食べ物はどうするのよ」

「仲間が渡してくれた金が少し残ってるよ。二人分の路銀と考えれば十分だろう。街道になにか売って歩いてるやつがいてくれることを祈ろうぜ」

 茜は胸が詰まる思いであった。その金は、ただでさえ金に困っているドワーフたちがなけなしの手持ちをかき集めたものなのだ。 

 しかし現実問題としてここでドガの申し出に甘えておかなければ、何も食べられずに行き倒れることは確実である。

 ドガの気持ちはもちろん嬉しい。しかし茜は歯ぎしりをしたくなった。

 恩を着せたくてドワーフたちを助けたわけではないのだ。

 変にプライドが高いのである。面倒臭い性格をしているとも言える。

「わかったわ。とりあえず借りておきます。ちゃんと返すんだからね! いくら使ったか覚えておいてよ!」

「へいへい……ってどこに行くんだ? そっちは川だぞ」

 苦笑しているドガを置き去りに、茜は靴と靴下を脱いで道の横を流れる広く浅い川に入って行った。

 気温は暖かめであるとはいえ川の水は冷たい。

 そんなところで一体何をしているのか、ドガには茜の行動の意味が分からない。


 茜は河原にある大き目の石を抱え、水面に露出した石めがけて力いっぱい振り下ろした。

 ガゴンと大きな音が鳴り、石の下に隠れていた小魚が気絶して浮かび上がる。

 蟹も驚いて這い出してきた。

「川に魚がいたのが見えたのよね。上手く行ってよかったわ。これ、食べられるかしら」

 獲物を抱えて微笑む茜。ドガもつられて笑った。


 そのあと、茜は仰天することになる。

 枯草や枯れ枝を集めて焚火の準備をしたドガ。

 彼が燃料に手をかざしてなにごとか呟くと、途端に火が点いて草や枝が燃え出したのだ。

「嘘……」

 魔法だ。原理も何もわからないがこれは魔法だと茜は思った。

「ん? そんなに珍しいか? ドワーフなら最初に火炎魔法を覚えるのが当たり前だけど、人間族は違うのかな」

 なんでもないことのようにドガは言う。

 少なくとも彼らドワーフにとっては、当たり前のことなのだろう。

「少なくともあたしの知ってる人間は誰一人、手から魔法の火をを出せないわね」

 謎の気功エネルギーを出そうと日夜トレーニングしている男を一人知っているが、茜はそのことを思っていても口には出さない。

「まあ、俺たちが使う火の魔法もそれほど高度で強力なものじゃないんだけどな。燃える対象がなければ火は出せないし」

 どうやらドガの使う火炎魔法は、空中にいきなり炎を出せるような代物ではないらしい。

 燃焼可能なものへ着火するだけの能力なら、摩擦熱による着火法(棒を回して木の板と擦り合せる方法)や虫眼鏡による着火法と基本的には変わらない。

 それらの道具を省略し、時間を短くしただけとも言える。

「手のひらをかざしたところの温度が着火温度まで上昇するってことなのかしら……? 火の魔法というより、局部的な高温の魔法って感じね」

 観察しながら自分なりに分析する茜。

 普段は馬鹿なことばかりしているし言っているように見えるが、教師を目指すだけあって知的好奇心は高いのである。

「なにをブツブツ言ってるのか知らねえけど、とりあえず焼けたから食おうぜ」

「そうね。いい匂いだわ。鮎かしら?」

「その魚は知らないな。違うと思うぞ。その鮎ってのは美味いのか?」

「あたしも良く知らないけど、キュウリの味がするらしいわ」

「どんな魚だよ……」

 ドガの持っていた塩を降りかけられ串焼きにされた魚、そしておまけの小蟹が香ばしく焼き上がった。


 食べ終えた茜とドガは体力が続く限り歩き、夜になって木の根を枕に寝た。

 自分の着ている衣服が暑苦しいので茜はパーカーを毛布代わりとしてドガに貸し与えた。


 起きても歩き、食べ物をなんとか調達し、食べて歩き、寝る。

 父と兄、男二人に囲まれて育ってきた茜は釣りやキャンプ、登山などのアウトドア全般に慣れ親しんでいる。

 だからこの道のりも過酷と言うほどではなかった。

 たまに街道を通りすがるドワーフや獣人に、金銭と交換で食べ物を分けてもらうこともあった。

 なにより旅の道連れであるドガがいることで、お喋りな茜の気持ちは沈まずに済んだのだ。

 茜はドガにいろいろなことを聞いた。

 ドワーフとはどういう種族なのか。どんな暮らしをして、どんな仕事をして、どんな食べ物が好きなのか。

 ドガはその中でどんな仕事をしていたのか。家族はいるのか。

 エルフとは、獣人たちとはどんな種族なのか。

 このあたりでは人間族は珍しいと言うがどこに行けば会えるのか。


 反面、茜は自分のことをドガに聞かれても答える口はやや重かった。

 特に家族、親や兄弟姉妹のことは話したがらなかった。

 話してしまえば寂しさや辛さが一気に溢れ出てしまうかもしれないと思い、心の中に押し込めたからである。


 良く晴れて気温も高くなったある日の昼間。

「もう限界だわ!」

 そう叫ぶなり唐突に茜は着ている服を脱ぎ捨てた。

「ななな、なんだどうした! なんでいきなり脱ぐんだ!!」

 あわてて目をそらすドガ。

 種族が違う女の裸に興奮などしないつもりでいても、若い女がいきなり恥じらいもなく、太陽の真下で服を脱いだという事態に理解が追い付かない。

 そんな驚くドガをしり目に、茜は道の横を相変わらず流れている川に飛び込んだ。

 風呂もシャワーもない旅に茜の我慢が爆発したのだ。

「あー冷たいーーーーっ! でも気持ちいいーーーーーっ!」

 ばしゃばしゃと浅い川の中で水浴び、水遊びを楽しみ解放感に浸る茜。

「上がったら絶対寒いから、今のうちに焚火を用意してちょうだい!」

 勝手なことを要求する茜に対し、ドガは腹も立たない。

「風邪ひかんうちに切り上げろよー」

「っていうかドガも来なさい! いい加減二人とも汚れすぎだわ! ごっしごし洗ってやるから覚悟して! っていうかあたし一人でこんなことしてると、すっごくバカみたいなのよ!!」

 なにを勝手な、と思いながらドガは茜に催促され服を脱いで川に引きずりこまれた。


 さらに数日の移動を経て、茜とドガにとって騒がしくも退屈しない旅路も終わり、ベル村に到着する。

 そのとき、ドガは村の中央広場に見慣れない馬車が停まっているのを見た。

「獣人の商人か……? 前まで来ていたやつとは違うな」

 エルフ帝国に組み込まれる前のドワーフの村々には、獣人やゴブリン、ダークエルフの商人たちが頻繁に訪れていた。

 最近はめっきり少なくなり村の稼ぎも減ったが、それでも全く来なくなったというわけではない。

 しかし今まで馴染みにしていた商人ではない、見知らぬ獣人がその隊商を率いていた。

「うわ、あの男、でかっ!! プロレスラー!?」

 茜はその獣人を見て、体躯の巨大さに驚いた。目測で2メートル以上ありそうだと。

 大きな体に分厚い胸板、太い腕。もみあげから顎に繋がる豊かな髭。

 見た目は人間とそう変わらないが、質量が圧倒的であった。


「イイ儲け話を持ってきたんだが、村の代表者はいるかい?」

 熊の獣人、北方肉食系獣人集団の一つで頭目を務める男、コーダ。

 彼が大金を抱えてドワーフ自治区のベル村を訪れた。

 

 異世界から飛ばされてきた人間の茜と、北方から商談に訪れた獣人のコーダ。

 この二人を招き入れたことにより、ドワーフ自治区の運命は大きく変わっていくことになる。

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