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新型と無謀

「ど、どうしたんだよその格好」


先に集合地点の噴水に到着していたチビは、遅れて噴水広場に入ってきたヤマを見るなり困惑した声を出した。


「え?」


驚いたヤマが自分を見直すと、

バイクはライトが割れて傷だらけ、

野戦服は所々破け、体には転けた際の擦傷。

そしてヤマの体の至る所に、銃弾が掠ったような切り傷が大量に見受けられた。


「機甲兵を潰してきたんだよ、4、5体な」


後ろに跨っていた増田がヤマの代わりに答える。

増田も、腕や脇腹には機甲兵に突撃した際の傷が痛々しく残っていた。


「増田軍曹、、、そうだ、柴田さんは?」


チビが問いかける。

その言葉にヤマはあの光景を思い出し、誰にも分からないくらいの小ささでえずいた。


「死んだよ。機甲兵にやられた」


増田が静かに言うと、チビの顔は暗く沈んだ。


「そう、ですか、、、、」


部隊に入って日の浅いヤマとチビは、

柴田を始めとした他の隊員とはまだ深い面識があるという訳ではなかったが、

同じ釜の飯を食った仲間の死という事実に沈痛な思いを感じていた。


「悲観するな、これが戦場だ。俺ら全員が明日死んでもおかしくない世界に生きているんだ」


増田の言葉が厳しい現実を知らせる。


「お前らはどうだったんだ、機甲兵は出たのか」


先ほどとは反対に増田がちびに問いかけた。


「はい、1体だけ、、他の機甲兵は味方の野砲に殲滅されていました」


「そうか、ならここら辺一体は粗方掃除したか。全員バイクに乗れ。

敵の残党がいないか確認行動に移るぞ」


そう、増田が言った瞬間であった。

飛んできた銃弾が増田の肩と強襲隊員である中崎の頭部を襲った。

激痛に顔を歪めた増田が叫ぶ。


「総員退避!身を隠せ!」


咄嗟にヤマは噴水の向かい側に身を隠す。

チビと増田と隊員の町田も上手く退避できたようで、

ちょうど噴水の水を止める縁に4人身を伏せるような状態になっている。

見ると、公園外の正面大通りの建物の影から機甲兵が1体こちらへのそのそ移動しているのが見えた。



「軍曹!」


町田が悲痛な表情で増田に呼びかける。


「俺は大丈夫だ、、肩をかすっちまったがな。畜生、俺らに気づいて1機待ち伏せしてやがったか、、」


増田は苦虫を噛み潰したかのような顔で機甲兵を睨みつけた。


待ち伏せしていた機甲兵は今までの人型と違い、

四本の足で操縦席を支えるアメンボのような形状をしており、操縦席の横には対戦車ライフル2挺が、

操縦席の下には機関銃2挺が付いていた。


増田の肩には、対戦車ライフルによるものであろう掠ったとは思えない程にえぐられた傷が付いていた。



「しかも新型か、、こりゃ厄介だぜ、、、」


「おい、ヤマどうするよ!軍曹は負傷してるし、バイクには乗れないし、、」


チビが言う。

こちらも伏せたまま小銃で応戦するが、やはり距離が遠いため銃弾は鋼鉄のボディに弾き返されてしまう。


距離を詰めるためにバイクに乗ろうにも、噴水から飛び出してバイクに乗り、発信する間に機関銃の餌食になってしまうだろう。


ヤマは小刻みに拍動する心臓を抑えるために3回深呼吸を繰り返すと言った。


「町田さん、チビと援護をお願いします」


チビと町田の両者が驚いてヤマを見る。


「桐山、何をする気なんだ?」


増田もヤマの発言に若干驚きの色を見せる。


「チビ、手榴弾いくつ持ってる?」


「俺?1つだけど、、、、」


「町田さんは?」


「俺も1つだ」


「その手榴弾2つ、俺が使ってもいいですか」


ヤマの発言にチビはますます困惑する。


「だから、ヤマは何をする気なんだよ!」


「俺が、走って直接あいつの脚部に手榴弾をぶち込んでくる。

2つもあれば前脚は壊せるだろ。あとは操縦士のど頭をぶち抜けばいいだけだ」


ヤマの特攻とも言えるべき作戦に、


「そんなこと無理に決まってる!無駄死にするだけだよ!

見たろ!中崎さんの頭が炸裂するところを!お前もああなっちまうんだぞ!」


チビが懸命に引きとめようと説得する。


「チビ、俺は一回柴田さんが目の前で死ぬところを見た。

どうしようもなくて怖くなって、動けなかったんだ。

もうあんな思いは正直したくない。でも、どうせやらなきゃみんなここで死ぬんだ。だったら、俺は死ぬ寸前まで戦う。そうじゃないと、俺が何のためにここに入隊したか、なんのためにここまで生きてきたかわかりゃしないんだ。」


「で、でも、、、軍曹もヤマになんか言ってやってくださいよ!」


チビが増田に懇願する。

増田は静かにホルダーから手榴弾2つを取り出すと、

ヤマに手渡し言った。


「どうせなら4つ足全部壊して来い。」


「軍曹、、、、てっきり反対すると思ったのに、、」


ヤマはそう言って増田から手榴弾を受け取る。


「俺だってこんな新兵の考えた無謀な作戦は却下したいところだ。だが、今はそうも言ってられない。やると言ってる奴がいるんならそういつに賭けてみるしかないだろう?」


そう言ってにやりと増田が口角を上げる。

その顔は今まで見たことないような大きないたずらを仕掛ける子供のようだった。

機甲兵との距離は、もう20メートルまで迫っていた。


「ありがとうございます」


ヤマもにやりと笑うと、小銃に弾薬クリップを装弾して叫ぶ。


「行きます!!」


ヤマが噴水から飛び出して走る。

最初の目標は、遮蔽物に使えそうな遊具であるジャングルジム。

ヤマは己の脚力の限り疾走すると、それに気づいた機甲兵が対戦車ライフルを放つ。


背中から感じる風圧に冷や汗を感じながらも、ヤマはジャングルジムへ滑り込んだ。


機甲兵が機関銃でヤマを攻撃しようとするも、チビと町田の小銃による援護によって機関銃の照準は噴水側の3人に引き付けられ、石で作られた噴水が機関銃によってぼろぼろと砕け散る。


チビは飛び散る石と銃弾に怯えながらもヤマを守るために引き金を引き続け、援護を続けた。


一方ヤマの隠れているジャングルジムも巨大なライフル弾の猛攻によってその形を崩しつつあった。

このままでは危ない。

そう思って移動を考えていた時、ライフルの銃声が止んだ。


弾切れ。

そう直感したヤマはジャングルジムから飛び出すと機甲兵の足元へ接近し、手榴弾のピンを抜いた。


焦った機甲兵が機関銃をヤマに向け、発射する。

ヤマの脇腹に銃弾が掠るも、ヤマがその足を止めることはない。

ヤマは機甲兵の足元に潜り込むと


1つ、2つ、3つ、4つ。


全ての脚部関節内に手榴弾を差し込んだ。

そのまま爆発を逃れるためにヤマは足元から飛び出す。


大きな爆発音と共に、機甲兵が崩れ落ちる。

ヤマは立ち上がると、操縦席で血を流している兵士に向けて小銃を構えた。


操縦士の睨みつけるかのような眼光に1瞬だけ躊躇う。


ここは戦場だ。躊躇うな。


ヤマは息を止めると、操縦士に向けて小銃を発砲した。

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