機甲兵、接敵
二手に分かれた6台のバイクは、破壊する機甲兵を索敵するために公園周辺を高速走行する。
公園の西側を索敵しているヤマも初陣である戦場にいくらか慣れてきたようで、戦場の極限状態でも少しは視野を広く持てるようになっていた。
「2時方向、敵歩兵約3名!」
「迎撃しろ!」
増田と強襲隊員の一人である柴田の会話を聞いたヤマは、2本肩がけしているスリングベルトから一〇〇式機関短銃改を構えると、土嚢の山に潜んでいる歩兵に掃射した。
ばら蒔かれた銃弾は、
歩兵の周りの土嚢や地面を吹きすさび、命中した銃弾は歩兵の胴や脚を喰いちぎった。
「11時方向、敵歩兵2名!」
「10時方向、敵歩兵5名!」
ヤマは自らも索敵を続けながらも、敵兵が潜んでいる地点が報告されたら即座に照準を定め、掃射を行う。
対歩兵、特に自分達が少数の時にはセミオートライフルである二九自動小銃よりもこっちの一〇〇式の方が扱いやすいとヤマ個人は感じていた。
自動小銃より威力は劣るものの、
一〇〇式は残弾数と連射性に優れ、掃射や牽制する事に適していた。
また威力が低いといっても対機甲兵での場合であり、更にある程度弾数を撃ち込めば部位破壊は出来るくらいの強化は行っているため、
歩兵に命中すれば確実にダメージを与えられる性能にはなっていた。
ヤマは弾倉を銃身に叩き込み、金具を引き、照準を定め、引き金を引くという動作をほぼ無心で行う。
その動作はどこか楽しげであり、理性からくる敵を撃つことへの恐怖をかき消しているかのようでもあった。
「やるじゃないか、少しは慣れてきたんじゃないか?」
「ええ、もう楽勝ですよ」
増田への返答も余裕が出始めた時、ヤマの口元が思わずひくつく言葉が耳に飛び込んできた。
「12時方向に機甲兵2体!!」
機甲兵。
こいつらをぶちのめすために俺はこの部隊に志願したんだ。
いきなり訪れた機甲兵の恐怖に体を震わせながらも、ヤマは眼前の動く鉄屑兵器を眼光鋭く睨みつけていた。
立ちふさがって歩哨をしている目の前の機甲兵は構造的にはずんぐりむっくりした体型をしており、右前腕には機関銃、左前腕には散弾銃を備えている。
「距離的には約50m地点に一体、75m地点にもう1体ってところか、、
どっちも人型だな。
桐山!お前は機甲兵とは初戦闘だよな。倒し方を見せてやる。
柴田!桐山と援護を頼む!」
増田が指示を出すと、柴田と桐山はバイクを加速させ
機甲兵の側面へ回り込んだ。
ちょうど足の真横に到着したあたりで、
柴田と桐山は機甲兵の脚部関節に機関短銃を放つ。
引き裂かれた関節の動力チューブが火花を散らし、機甲兵が膝を着くように倒れ込む。
そのまま急速に接近してきた増田が自動小銃を構えると、
倒れ込んだ衝撃によってひるんだ操縦士の頭を撃ち抜いた。
基本的な機甲兵の倒し方は桐山も訓練学校で習ったことがある。
まず援護射撃を行う人間が脚部を破壊し、足を止めたところでもう一人が自動小銃で操縦士を直接狙う。
この倒し方は、実質特殊強襲部隊でしか実現不可能だといえる。
スロットルを離すことによって若干減速するとはいえ、高速走行するバイクの上で正確に操縦士を撃ち抜く事は至難の技である。
では、何故強襲隊には可能なのか?
そこで出てくるのが日本の最後の発見である、
【油に酷似した液体】である。
第二次世界中では使われることのなかった無用の長物であったが、終戦すると同時に綿密な研究が進められ、何か使える用途はないかと探っていた。
秘密裏には人体実験も行われ、人体における効果も調査されていた。
すると、その人体実験で驚くべき効果が現れた。
ある研究所で10人に対して【液体】を服用させると、10人全員が倒れこみ、9人はそのまま眠りにつくかのように死に至った。
研究者達がこの液体は毒なのだろうかと議論を交わしていると、研究対象の1人がすくっと立ち上がった。
驚いた研究者達が研究対象の生き残りを調査するため運動テストを行うと、驚くべき効果が現れた。
研究対象の、筋力・身体能力・五感全てが飛躍的に上昇しており、特に動体視力と反射神経はもはや人間では到達不可能なレベルにまで達していたのである。
この【液体】は歴史的革命を起こすことができると、寝る間も惜しんで研究を続けていると、次のようなことが判明した。
ある一定の遺伝子パターンを持つ者だけが耐性をもち、身体能力が上昇する。
痛覚も若干鈍くなるものの、強い衝撃を受けたり怪我をすれば常人同様に行動不能になる。
精神的効果は一切なく、恐怖や動揺は緩和されることはなかった。
この事から軍上層部は、この【液体】を服用した兵士の部隊を創設することを決定。
効率が悪く、人的道徳に反するといった反対派の意見を押し切り、
適正テストと、テストに合格した兵士を訓練するための教育を急ピッチで作り上げた。
そうして出来上がったのが、ヤマとチビの所属する特殊強襲部隊
である。
同時期にへパストス軍から機甲兵がベイルアウトされ、
猛威を奮っていたことから早期投入された彼らは、改造された大型軍用バイクに搭乗し、
野砲などを使わず、バイクと生身で機甲兵を撃破できる部隊として「鉄屑拾い」「韋駄天」といった渾名で友軍からは信頼され、へパストス軍からは畏怖されるようになっていった。
その部隊の新兵ではあるチビとヤマも、
【液体】の適正テストに合格し飛躍的な能力を備えている。
ヤマは自分がその誇り高い部隊の一員になった事を、目の前でひれ伏した様に破壊されている機甲兵を見ながら実感し、
自分たちに気づいたもう一体の機甲兵を睨みながら、他の2台とともにスロットルを回した。