戦場
一応主人公はヤマです。
輸送トラックから吐き出された6人の兵士たちを待ち受けていたもの。
それは崩れ落ちた建物や機甲兵の残骸、飛び交う銃弾と怒号、そしてあちこちに横たわっている負傷兵や戦死した両軍の兵士であった。
今回の防衛戦で主要戦場となる遠坂町は近年、
大規模な道路の拡張工事を施されており、全体的に車道がほかの街より比較的広くなっている。
そのため図体のでかい機甲兵にとっても侵攻しやすく、
戦況は押され気味となっている。
新兵であるチビとヤマは苦悶の表情となってのたうちまわっている友軍兵士や、
ノイズとなって飛び込んでくる怒号と銃声、なによりミスを犯せば自分も地べたを這いずり息絶えていくという戦場の雰囲気に若干萎縮しながらも、握っているスロットルに力を込めた。
強襲隊は隊列を組みながらの激戦地である中心部へと向かっていく。
瓦礫にまみれたコンクリートを駆け抜け、
ゆるやかなカーブを抜けた次の瞬間。
隊列の最前を走行していた増田軍曹が
突然「散開」のハンドサインを出す。
指示に従い隊列を散開させると、先程まで走っていた場所が強烈な爆風を起こしながら爆発した。
突然の爆風に煽られたヤマは慌てて態勢を立て直し、道路の向かい側に散開したチビが今の爆発によって負傷していないか確認する。
チビも爆発によって体制を崩されたものの負傷はないようで、先ほどと変わらぬ走行を続けている。
安心したヤマが爆発の出処を探すと、道路前方に
ヘパイストスの歩兵小隊がこちらに陣を構えている。
先ほどの爆発は歩兵小隊が放った迫撃砲のようだ。
道路のこちら側に退避していた増田軍曹も敵小隊を確認したようで、「迎撃」のハンドサインを出す。
ハンドサインを確認したヤマはスロットルを離すと
自動小銃を構えると歩兵の一人に狙いを定める。
高速移動しながらもきちりと照準合わせているヤマは、
訓練でない生身の人間を撃つことに一瞬の躊躇いと恐怖を感じながらも
訓練学校で培われた精神力でそれを押さえつけ、引き金を引いた。
一発目は歩兵が隠れていた瓦礫に食い込んだが、
歩兵が攻撃してくる瞬間を狙い、もう一度銃弾を放つと
銃弾は歩兵の胸を貫き、負傷した歩兵は崩れ落ちるかのように倒れた。
他の強襲隊員も迎撃に成功したようで、
増田軍曹は相手小隊の殲滅を確認すると、
「態勢を整えろ!!」
と怒号を放った。
隊列を整えた強襲隊は殲滅した小隊の横を駆け抜けると、
真っ黒な排気を吐き出しながら中心部へと向かった。
「思ったより路面状況が悪い、こけるなよ!」
増田軍曹が叫ぶ。
路面には崩壊した建物の残骸や瓦礫が散乱しており、
走行するには最悪の路面状況である。
しかし、こうして向かっている間にも友軍は消耗しているため、速度を緩めることはできない。
ヤマはタイヤが感じとる僅かな感触に細心の注意を払いながらも、
防衛任務を果たすためスロットルをぐっ、とさらに捻りこんだ。
だが、強襲隊が中心部である公園広場にたどり着いた時には
友軍はヘパストス軍の熾烈な攻撃によって、完全に疲弊しきった状態であった。
強襲隊は広場内に設置された土嚢をバリケード縫うように通り抜けると、
エンジンをかけたまま停車した。
「おい!戦況はどうなってる!?」
「いいように見えるか!?糞虫どもの鉄屑野郎のせいで俺たちは負傷者も運べない状況だ!このままだと、穴あきチーズみたくなっちまう!!」
見ると、広場には多くの負傷兵が横たわっており医療兵が治療にあたるも
あまりの多さに手が回らなくなっている。
治療を後回しにされている兵は、
うめき声をあげながらぐったりと力なく治療をまっている。
先程の増田軍曹と友軍兵士の会話から、戦況はかなり悪い事がわかる。
増田軍曹は戦況を確認すると、すぐに後ろを向き
「今から二手に分かれて敵軍を叩く!町田と知尾と中崎は東側を回れ!
柴田と桐山は俺とこい!中央の噴水で合流する!」
と指示を出した。
「オイラぜってえ機甲兵をぶち壊してくるからさ、あとで壊した数競おうぜ」
チビがおちゃらけたように拳をヤマに突き出す。
その拳は、被弾の恐怖からか敵を撃つ高揚からか小刻みに震えていた。
「そんな余裕があったらな、あんまりはしゃぎすぎるなよ」
ヤマも拳を突き出す。
革の手袋を着けた拳がぶつかり合い、乾いた小さな音をたてた。
「いけるな、桐山」
増田軍曹がごん、とヤマの鉄帽を叩きながら言う。
「どこの軍曹に育てられたと思ってるんですか、いつでも大丈夫ですよ」
「その軽口が叩ければ十分だ、行くぞ!」
その言葉を皮切りに、六台のバイクは獲物を喰らいにいく豹のように轟音をたてながら走り出した。