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シュールナンセンス掌編集

日常の必需品

作者: 藍上央理

「日常の必需品」



 日常の必需品はハサミなんです。

 そうなんです。私は初めて知りました。

 ごくつまらないことから知ったんです。

 私はある小さな会社の事務員をしています。

 私は毎日コピーを取ったり、お茶をくんだり、書類をホッチキスでとめたり、まぁ、ごく普通のいろんなことをしています。

 ハサミはそういう仕事のなかでいろんなことに使われていました。

 私にとって、いままで日常で必要なもののといえば、財布とハンカチとティッシュと口紅かなんかだと思ってたんですけど、違ってたんですね。

 その日、私はハサミでチョキチョキ書類を指定の大きさに切り分けて、ホッチキスでとめてたんです。

 もう夕日が仕事場の窓から差し込んできていて、灰色の事務室はアカネ色に染まっていました。それはぽうと気持ちのよくなる時間でしたから、間違いに気付いたのは、夕暮れて部屋の灰色がうっすらと暗い窓ガラスに映るような時刻だったでしょうか。

 私はその日、残業してたんです。こんな作業をする人が私くらいしかいなかったので。

 すると今日に限って主任がやって来たんです。お茶を入れてくれるような人ならいいんですけど、小言をくれるような人なので、間が悪いなぁと思いました。

 ああ、いやだとホッチキスでパッチパッチとめていると、案の定、「あら、やだ! あなたページが間違ってるじゃない! それにこの切り方! いったい、なんなの! こんなんで、あした、みなさんの前に出そうって考えてたの?」と、叫ばれてしまったのです。

 「ページをそろえるくらい小学生にだってできるんじゃないの」 

 で、ムカッとしました。

 「長方形に切ればいいだけなのに、なんで台形になるのよ」

 1mmずれただけなのに、と私はムッとしました。

 「最初からやり直さないと、恥ずかしくて書類として認められません」

 気がつくと、主任の胸にハサミが。

 私は主任がそれほど憎かったわけではなかったんですけど、そのままチョキチョキと切ってしまいました。

 ちょうどよく主任の形に空間を切り終えて、それをたたんで、ホッチキスでとめました。

 なじみのない空間がひとつ生まれましたが、それはもう主任ではないんです。

 というわけで、私にとって日常の必需品はハサミなんです。

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