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聖遺物3

 楢滝が暴走し終え、警備生と共に海斗と秀歌は魔法学園島第三学区魔法学部警備学科の取り調べ室へと連行された。この学園で犯罪を働いた場合、取り調べ室に連行されるのだが、今回は重要参考人として足を運んだ。

 外見は至って普通の高校だが、途中に通った校庭には木製のサンドバックや、鉄棒など肉体的鍛錬をする為の道具が並べられていた。

 海斗は内心でマッチョな桜子を想像したが、すぐに気持ち悪くなって掻き消す。

 取り調べ室は鉄製の部屋で、ドラマで見るような光景と変わらない。

 楢滝に襲われた警備生二人と秀歌と海斗は、パイプ椅子に腰を置いて数秒待つと、スーツを着用した女性が入る。


「全員揃ってるか、杉沢(すぎさわ)

「はい」


 杉沢と呼ばれた警備生は赤髪ツインテールの少女が立派な敬礼をしながら立つ。


「よし、では緑川(みどりかわ)。客人にお茶を出してくれ」

「はい」


 翡翠色のショートカットは緑川という名前のようだ。

 女性に茶を出すように促された緑川は、取り調べ室を出る。その姿を確認すると、女性は海斗達の正面にある椅子に座った。


「初めまして。私はこの魔法少女育成学園第三学区の魔法少女学部警備学科の担任教諭の安良里(あらさと) 玲瑠(れいる)だ」


 紺色で就活生のように長い髪を束ねた女性は自己紹介を済ませる。容姿はキリッとした瞳が力強く特徴的で、胸は大きいのに全体のフォルムは細い、いわば美人教師だ。

 海斗は空かさず、自己紹介を済ませる。


「初めまして、僕は小石川 海斗と言います」

「小石川 海斗君ね、君は観光かなんかで、この島を訪れたのかい?」

「ええ、まぁ、そんな感じです」

「そうか」


 海斗と軽い会話を交わした後、安良里は秀歌に視線を向けた。


「馬原、ここに呼ばれたのは何故だか分かるか?」


 安良里は瞳を細くして、秀歌を睨みつけるようにして見る。

 既に教師同士というだけあってか、面識はあるようだ。

 秀歌はニッコリと微笑んで、首を傾げた。


「皆目見当もつきません」

「……だろうな。馬原と観光客を呼んだのは他でもない。あの現場にいて無傷だった君達に容疑がかけられているんだ」


 厳しい口調で安良里は言った。


「ま、待ってください! なんで、襲われかけた僕まで……」


 海斗が反論をしようとすると、安良里はギロリと犯罪者を睨む目つきで海斗を見つめる。

 その瞬間、海斗の中にある本能が黙れと命令した。


「少し黙ってくれないか」

「…………」


 海斗はあまりにも鋭い視線を受けて、黙る。


「今回、緑川や杉沢に同行してもらったのは他でもない。あの現場にいた者にしか分からないことがあるからだ」


 安良里が口を開くと、お茶を入れた緑川が部屋に入り、各々にお茶を置くと自分の椅子に座った。


「楢滝にってことですか?」

「ああ。正直、緑川と杉沢は疑っていない。君達は襲われた側だからな。だが、小石川 海斗君。君は襲われなかった。さらに疑いたくはないが、馬原。君はあの場に居合わせた。つまり、あそこで魔法を使える可能性があるのは馬原だけだ」


 どうやら、本当に疑われているのは秀歌らしい。とはいえ海斗も疑われるのは、変でもある。海斗は魔法少女ではない。それに、いくら魔法が発達しても、男が魔法を使えるようにはならないのだ。

 安良里は言葉を続ける。


「だがな、小石川海斗君。君も疑われていないわけではない」

「え! でも、僕は男ですよ!」

「関係などない。聖遺物を所持していれば、な」


 安良里の眼光が鋭くなり、海斗の双眸を貫く。

 その時、海斗はマズイな、と思うと、冷や汗が浮かぶ。

 海斗は本来、重要文化財として博物館などに保管される筈の聖遺物を所持していた。それを国などにバレると重要文化財盗難で重い罪がかせられるのだ。

 しかし、海斗はこの聖遺物を持っていなければならなかった。その理由は簡単で、多くの魔法少女が海斗の聖遺物を、喉から手が出るほど強力なものだからである。

 海斗は首を横に振った。


「聖遺物? なんですか、それ」

「知らないのか? 世界各地に散らばる神話などに出てくる物さ」

「そんなものを僕が? あり得ないですよ」

「ふっ、まぁいい。とりあえず、今から調査するから、君からこちらへ来てくれ」


 シラを切るつもりが、海斗の身体は調査されてしまうことになった。

 内心ではかなり焦っていたのは言うまでもない。

 呑気なことに、海斗はこれが犯罪者の気持ちなのかなぁ、などと焦りながらも思っていた。

 安良里は立ち上がり、調査室へと海斗を連行する。

 調査室は取り調べ室の隣室で、鍵を開けた。

 中には真っ白なベットに窓がない湿気の溜まった部屋。取り調べ室の窓がないような感じだ。

 中に入ると、海斗はベットに横たわる。


「……これで、もし聖遺物があった場合、どうなるんですか?」


 海斗は怯えながら問うと、安良里は先ほどの顔が嘘のようにニコリと笑う。


「そうなった場合、聖遺物を調べてどんな能力があるかによるかな」

「そ、そうですか……」


 調査されるのならば安心できるが、もし誤って犯人にされたら、どうしようかと海斗は悩んだ。

 そんな海斗を知らず、安良里はベットに眠る海斗にベルトを締め付ける。


「あの……調査って何するんですか?」

「無論直接調べるのだ。君が暴れないように、拘束しているだけさ」

「そ、そうですか……」


 なんだか、怖いな。


「じゃあ、目を閉じてくれ。電気を消すぞ」

「は、はい……」


 海斗は目を閉じると、電気が消える。

 本当に何をされるのだろうか。

 そう考えると、安良里が海斗の身体に馬乗りする。本当に大丈夫なのかと不安になってきていた。

 しばらくじっと待ち構えていると、突然着ていたシャツを開けられて、冷んやりとして湿った何かが海斗の胸部に触れる。

 ビクンっと身体を動かした海斗は、目を開けると安良里が海斗の身体に舌を垂らして舐めていた。

 目を疑った海斗は、突然の出来事に唖然としてしまっていたが、なんとか言葉を発する。


「ちょ、何やってるんですか!」

「ぺろぺろ」

「……っ!」


 海斗は身体をピクンと動かす。安良里の行動を今すぐやめさせようとするが、彼女は無言で必死に海斗の上半身を舐め続ける。

 抵抗の為、海斗が身体を左右に激しく動かすと安良里は鬱陶しそうな顔をして海斗を、トロンとした瞳で睨んだ。


「勝手に動いてもらっては困る」

「困るのはこっちです! なんで、いきなり僕の身体を……」


 海斗は恥ずかしさのあまり、言葉の途中で口を閉じる。


「これも立派な身体調査だ。あれこれ言われても困るんだ」

「だ、だけど、その……」

「大人しくしててくれ」

「は、はい……」


 やはりきちんとした調査なのか。海斗はそう言われると黙るしかなかった。なにせ犯罪者にされてはたまらない。


「……私ももうじき三十路……。若い男の身体を食べ尽くしたいのさ」

「ほぼ、自分の欲望じゃないですかっ!」

「ええぃ! 私は私の為に、若い男の身体を舐めてるんだ! 何が悪い!」

「僕になんのメリットがあるんですか!?」

「うるさいうるさい! 私だって溜まってるんだ! 教壇に立てば、女子学生の相手をして、職員室に戻れば若い女教師の合コン話を聞かされて、帰ればビールしか頼りはなくて……人生やってられっか!」

「逆ギレですか!?」


 何かとこの安良里も疲れているようだ。

 逆ギレした安良里は、海斗の股間部に手を伸ばした。


「いや、そこはホント勘弁してください」

「ダメだ。こんなに大きくなってるじゃないか。私が指導してあげよう」

「本当になんとかやめてください」

「私も……我慢できないんだよ」


 ズボンのチャックを下ろす音が聞こえる。

 海斗の全身は汗ばんでいた。この女教師に食われる、そう思うと冷や汗が浮かんで海斗の心中を恐怖が支配する。

 このままでは、本当に食われてしまう。そう思った矢先、安良里の手は止まった。


「……これは、なんだ」


 そう呟くと安良里は、下半身ではなく海斗の心臓部に視線を釘づけになる。

海斗はしまった、と思った。

 海斗は、とある事情により胸に聖遺物を宿した青年だ。その聖遺物が抜かれると、色々とマズイことになるのだが、それを説明したとして安良里の手が止まるわけがない。

 安良里は海斗の胸部に手を触れさせると、顔つきが変わる。


「ま、魔力が溢れ出してるだと!?」

「……」


 海斗は諦めて瞳を閉じた。

 そのまま、安良里は海斗の胸から現れた棒を掴む。

 すると、魔力が海斗の胸から溢れ出し、安良里の身を大量の魔力が包む。

 リボンのように飛び散る魔力は紫の輝きを放ち、真っ暗だった部屋を照らす。


「こ、こんなに沢山溢れて……っ!? 若返ったようだぁぁぁ!」


 握った棒を思いっきり、安良里は引っ張る。


「私に……私を……その力で若返らせてくれぇぇぇえええっ!」

「ああああああぁぁぁぁぁあっ!」

「海斗君、君のを私に見せてくれぇぇぇえ!」


 極限のエクスタシーが海斗と安良里を襲う。

 二人は絶叫し、背筋を反らす。

 そして、安良里は両手に魔力が滾る、大理石の如く真っ白な大剣を、海斗から引き抜いた。

 まるで、コンサートの主役と思うかのような存在感を放つ大剣。

 魔法科を学ぶ人間ならば、誰もが知り、誰もが一度は触れたいと願い、誰もが所持したいと思う、伝説の聖剣――――。


「エクスカリバー、だとっ!?」

「……バレ、ちゃいましたね」


 安良里は目を見開き、ベットに縛り付けられた海斗を見つめた。

 海斗は極限のエクスタシーを迎えたことによって、気を失いかけている。


「……僕は、確かに聖遺物を持っています。ですが、犯人は僕じゃ……ない」

「…………」


 安良里は口を閉じ、瞼を閉じそうな海斗を見つめ続けた。


「……そればかりは調べないとわからん。一応預かるが、誰にも渡しはせん。安心してくれ」

「……たのみ、ます」


 最後のお願いをするかのように海斗は、瞳を閉じる。

 安良里は聖剣エクスカリバーを大事に抱え、眠った海斗に微笑んだ。

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