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行方不明と進軍3

「うむ、まずは非礼を詫びよう。我の名は四天王院(してんのういん) 美里だ」

「秘書の四天王院 美舞ですぅ」


 第三学区警備魔法科総監督教授の四天王院 美里は、幼さの残る――――いや、幼さのある小さな腕で頬杖をつく。その背後を美舞が直立している。

 さきほどの光景を見て、美里がどれだけ怖い人間なのか思い知ることができた一同。だが、その原因がデザート(犯人は美舞)がなくなっていただけという事実に、海斗達は溜息を吐きそうになった。


「それよりも、美里ちゃんが呼んだんでしょ?」

「うむ。今回の警備魔法科の失態。さすがに目をつぶっているわけにもいられないからのぅ。それよりも美舞」


 美里は瞳を鋭くして美舞を睨みつける。


「我のことをちゃん付けで呼ぶでないと何度言えばわかるのじゃっ!」

「痛っ!? 美里ちゃん……」

「だから、そう呼ぶなと言っておるじゃろうが!」


 総監督教授の美里は、ちゃん付けで呼ばれるのが嫌なのか、美舞を何度もハリセンで叩いた。

 叩かれた美舞は涙目になって、なにやらブツクサと呟いている。

 この二人を見ていると仲が良い姉妹なんだな、と海斗は思った。


「それで、私達に総監督教授とやらが一体何の用なんですか? さっさと要件を済ませてください」

「あ? なんだ、道理で見たことがあると思ったら、お主はレベル九の中で一番の問題児の小石川 桜子じゃないか」


 問題児、という言葉に笑顔が固まる桜子。心の中で海斗は、桜子は確かに問題児だなと思ったが口にしない。

 安良里や紅葉は黙り込んで、美里を見つめている。反対に杉沢なんかはビビリ過ぎて携帯のバイブレーション並みに震えていた。

 桜子は口元に手を当てて微笑む。


「問題児? それは私よりもお姉様の方が問題児ではないでしょうか?」

「おい、桜子。アタシを問題児呼ばわりか? どう見ても桜子の方が――――」

「何を言っておるのじゃ。学園トップの小石川 紅葉は、問題児という枠では収まらん。そやつを例えるのなら恐竜じゃ」


 うんうん、と首を何度か頷ける美里。紅葉を見下す桜子に、その桜子を睨みつける紅葉。なんだか、桜子も紅葉も変わらない気がしていた海斗だ。

 そんな中、安良里が口を開く。


「ですが、我々には彼女達――――レベル九の力を借りる以外に調査する術がないのです。桜子と紅葉の力を使わせてください」


 すると、キョトンとした顔で美里は言った。


「何を言っておるのじゃ。安良里、お主は何故、小石川家の問題児と恐竜を使いたがる。他のレベル九がいるじゃろ。此奴らは派手に力を振るうバカビッチ同然じゃぞ」

「……こんなおチビさんにバカにされると暴れたくなりますね」

「……クソチビめ」

「なんか言ったか?」


 桜子と紅葉は以後、怒りを鎮める苦しみに耐えながら黙り込む。

 杉沢がビビリながらも、美里に他のレベル九をどうするのかを問う。


「で、ですが、他のレベル九は現在帰省中で、誰を呼ばれるおつもりなんでしょうか?」

「……まぁ、お主がわからんでも無理はない。我と同じ総監督教授の力を借りようという話じゃからな」


 その言葉に誰もが首を傾げる。


「総監督教授?」

「ああ、問題児と恐竜のお主らでも知らんじゃろうが、この島の中心。魔法学園の百階層タワー、通称魔法科大学の理事長兼総監督教授じゃ。今回はそのお方の力を借りれるのじゃ」


 その言葉に紅葉は顔を強張らせた。


「ま、魔法科大学に総監督教授なんているのか? 初めて聞いたぞ!」

「無理もない。お主はレベル九であっても、第零学区(・・・・)の人間ではないからのぅ」


 初めて聞いた言葉に、誰もが息を飲む。本来、魔法科の話は一般人に秘匿扱いだが、海斗は家族が第一学区でかつレベル九の二人がいるから知っていたが、第零学区という言葉は初めて聞いたのだ。

 第一学区が、主に魔法を使った特殊戦闘部隊の育成。第二学区は通常戦闘、軍隊などでの共同戦闘を学ぶ。第三は警備、第四は災害を宥める精霊魔法科。第五は回復救護、第六は精神魔法、第七が特殊運動魔法、つまりアスリート。第八食料や、建築物などモノを作る魔法科。第九はその全てになりきれなかった魔法少女の卵だ。

 多くの魔法科が存在する中で、第零学区が何を学ぶ機関なのか海斗は知りたかった。その質問に答えるように、美里は口を開く。


「――――第零学区は、魔法を扱った犯罪者に対しての戦闘と殺害を学ぶ、超エリートの学区じゃ。今回、起こった事件はそれほど危険なのじゃ」

「まぁそうは言っても、基本的に生徒のレベルは八で、個人情報すら公開できない学区の人間ですから。もちろん、基本的に第零学区の人間でもレベル九はその総監督教授一人しかいませんよ」


 美里の言葉に付け足すように美舞が答える。

 つまり、魔法犯罪は零学区の人間が片付ける、そう言いたいのだろう。そういう事を考えると、桜子や紅葉は裏舞台で活躍する人間としては選ばれなかったに違いない。

 海斗は二人の性格を考えると、確かに派手好きな二人には向いていないと思った。


「……それで、実はもう一件聞きたいことがあるのじゃが」


 そこで美里は言いにくそうな顔をして海斗を見つめる。


「僕、ですか?」

「そうじゃ。お主、もしや聖剣エクスカリバーを宿していた小石川 海斗ではないか?」

「は、はい」

「……そうか、実はな、もう一件はその総監督教授がお主に対してあることを要求しているのじゃ」


 気が気でないのか、美里は視線を海斗から逸らして、美舞に目線を向けた。すると、美舞は代わりに言うといわんばかりに首を縦に振る。


「そのですね、実は第三学区の人間では今回の事件は片付けられないと感じ、第零学区に応援を要請したところ、あることを条件にと言われてしまいまして」

「あること?」

「はい」


 まさか、海斗の身体を隅から隅まで調べさせろとか言うんじゃないだろうかと思った海斗。全身の冷や汗が浮き上がる。

 そんな海斗を気遣ってか、皆海斗のことを心配して見守った。


「えとですね、他のレベル九の小石川 桜子さんと、紅葉さんは今回の事件にはこれ以上関わらないでください、とのことです」


 美舞が言うと、一瞬静寂が訪れ、桜子と紅葉が同時に叫んだ。


「「はぁ!?」」

「……じゃからの、その総監督教授が言うのには、お主らがいると事件解決には支障が出ると言って聞かなくてな」


 美里が付け足す。彼女自身も、本当は桜子と紅葉が不必要だとは思っていないのだろう、いや必要不可欠だと感じているのだが、それがその総監督教授の要求ならば呑む以外はないと思っているのだろう。


「ちょ、ちょっと待ってくださいです! 私や安良里先生ならまだしも、桜子さんに紅葉さんはレベル九ですよ? 絶対に私なんかより、戦力にはなるです」

「いや、今回はお主らには本来の業務として警備にあたってもらうのじゃ。第零学区の総監督教授は、海斗と二人で攻め込むと言って聞かないのじゃ」


 重い空気が広がる。つまり、海斗は馬原がいる場所に総監督教授とやらと二人で攻め込まなければならないらしい。完全に死亡フラグが立ったなと思った。

 納得がいかないのか、桜子や紅葉は何が何でもその要求を取りやめるように言うが、美里も美舞も何も答えない。

 そんな中、安良里と杉沢は二人で見つめあって、首を傾げていた。どういうわけが分からないのだろう。


「わかりましたっ! なら、その総監督教授とやらを私がぶち殺せばいいんですよねっ! 今すぐ、その人を呼んでください!」

「アタシも我慢の限界があるっ! 未来の夫――――もとい可愛い弟だけを事件解決に向かわせるわけにはいかないんだよ!」

「ええい! お主ら少し腹落ち着かんか!」


 喧嘩が始まりそうな場面で、一瞬、全員が固まる。

 二回のノック音が響き、誰もが扉を見つめた。

 すると、美舞がどうぞと呼ぶ。

 扉はゆっくりと開いた。


「失礼しますわ」


 ゆっくりと扉が開き、海斗は目を見開く。桜子も紅葉もさっきまで騒いでいたのに、急に言葉がでなくなる。杉沢と安良里も、黙り込む。


「少々、準備の時間が必要でしたので遅くなってしまいましたわね」


 その子は、新雪(しんせつ)のような真っ白な長い髪を揺らし、雪女のように整った顔で微笑む。見た目は中学生くらいだろうか、あどけなさが残るが、真っ白なメイド服のようなドレスを着る女の子は最早、テレビの中にいるかのような別次元の可憐さを見せつける。

 海斗の姉の髪飾りは秋の紅葉。一人目の妹は桜の花びら。もう一人の妹は雪の結晶だ。

 その人物は雪の結晶の飾りをつけて、海斗にクールに微笑む。


「さ、海斗お兄様。(わたくし)と一緒に学園の平和を取り戻しましょう」


 海斗は言葉が出てこず、桜子も紅葉も喉を詰まらせている。そんな中、美里が言った。



「……お主らも知っているかもしれんが、彼女が魔法犯罪対策科第零学区の総監督教授。小石川 雪那じゃ」



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