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行方不明と進軍1

 あれから二日が経った。

 衝撃の一日を越えた海斗は、身体が傷だらけになりつつも、第五学区の人々のおかげで、起きると身体が完璧に治っていたのである。

 本来、海斗の身体は白の魔力が通っている為、普通の魔力を扱った方法では治りにくく、治療の方法が限られているのだが、ありとあらゆるアナログ的方法で海斗の身体を治していったのだ。まぁ、ほとんどの傷は白の魔力のサブ能力とも言える高速自然治癒で治ったのだが。

 朝、目が覚めると、やはりというべきか。隣に杉沢が眠っていた。


「う……ん……」


 杉沢はナース服を何故か着用して毎回眠っているのだが、毎朝はだけてしまっているので眼のやり場に困ってる。

 海斗は何気なく、杉沢のはだけている服を着させようと、ナース服を握った。

 その瞬間、目眩が起きる。

 揺れる視界。


「な、なんだ……これ!?」


 頭を抑えるが、頭痛があるわけではない。

 しかし、突然思考が定まらなくなっていた。まるで、何かに気を取られて仕方がないかのような、そんな感じである。

 その時、海斗の言葉で目が覚めたのか、杉沢が起きて海斗の異常に気が付く。


「海斗さん! どうしたんですか!?」


 はだけていた服が更にはだけて、胸元や華奢な肩が見える。

 艶々の肌に、膨らみかけの胸。さらには太股は綺麗な曲線を描いていて、舐めたい衝動にかられる。

 寝癖がついている長い赤髪が、幼さを醸し出して杉沢を魅力的に感じさせていた。


 ――――杉沢さんと、…………したい。


 その言葉が浮かぶと、海斗は杉沢を押し倒していた。


「きゃっ! か、海斗……さん……?」

「……杉沢さん……何でそんなに可愛いんだ?」

「え? ……じょ、冗談で言ってるんです?」


 鼻孔をくすぐる女の子の匂いが海斗を誘惑する。

 昨夜までは平気だったのに、今朝は歯止めが効かない。まるで、海斗は野生の肉食獣である。


「冗談じゃないよ、本当に。できれば、杉沢さんと…………したい」

「…………え」


 杉沢は顔を赤く染め、海斗を見つめた。その瞳は真っ直ぐで、襲いたいと言っているのに怖がってすらいない。

 小さく、プルッとした唇が微かに動く。


「……ぃぃですよ……。わ、私も……か、海斗さんと……し、したい。です」


 両手を海斗の両耳に伸ばすと、杉沢は唇を尖らせる。

 ナース服がはだけ、上半身が露になった。

 胸が露出されるが、海斗は杉沢の瞳から逃げられない。

 己の欲のままに。海斗も杉沢の華奢な肩に手を当て、瞳を閉じた。それと同時に杉沢も瞳を閉じる。

 お互いの唇が触れそうになった時、扉がビシャンッと壊れそうな音を上げて開けられた。


「おはようございますっお兄様っ! 朝立ちしてると思ったので、処理する為に参りましたっ!」


 そこには、二日間来なかった桜子が制服姿で立っていたのである。

 その桜子は海斗と杉沢に視線を向けていた。

 海斗と杉沢は、唖然として固まる。


「……お、お兄様が……! ま、まさかBカップ好きだとは!」

「そこなの!?」

「わ、私Dカップにまで成長しちゃいましたよぉ……。な、なんで私がBカップの時襲ってくれなかったんですか!」

「……悪いけど、出直してくれないかな!」


 なんだ、いつも通りの桜子か。案外、お兄様お兄様とか言ってるけど、別に他の女の子と付き合ったりキスしても良いんだなぁと海斗は思った。なので、怒ってないのかと安心したのも束の間。

 桜子は海斗に近づいて、杉沢と海斗を睨みつけた。


「……お兄様、失礼を承知で聞きますが。何をしようとしていたのですか?」

「え、えーっと……」

「杉沢さん。あなたはお兄様と裸になって何をしようとしていたのですか?」

「え、えーっと……か、海斗さんが、そ、その……わ、私を食べたいって言ったので……」

「なるほど」


 桜子は一度頷いて、海斗に二コリと微笑む。


「お兄様」

「なんだい妹よ」

「覚悟はできてますよね」

「……何の覚悟だろうなぁ。皆目見当もつかないよ」

「フフフ。安心してください。お兄様を少々虐めるだけです」


 数分後。


 海斗はトイレに籠っていた。

 あれから、桜子にバンジージャンプの防具なしをさせられ、死の境目を垣間見たのだ。

 まさかの、直前ストップは本当に死ぬかと思った。


「お兄様、お分かりいただけましたか?」

「ああ、悪かったよ桜子。女の子とこういう事をするのには、まず皆を説得しなきゃいけないんだろ? 前にも言ってたもんな」

「何言ってるんですか?」


 桜子はわけがわからないと言った様子で首を傾げる。


「私が怒ってるのは、お兄様が童貞を捨てようとしているからですよ。私に一番最初に捧げると誓ったではありませんか」

「誓ってないし、妹相手に絶対に欲情なんてしない」

「はいはい、お兄様はそうやって逃げるんですね」


 桜子は海斗の耳をパクリと咥えた。


「はむはむ……(これでどうですか)?」

「何も感じないな」

「仕方ないですね。えいっ」


 桜子は無理矢理、海斗の顔に胸を押しつける。

 だが、さっきのアレはいつの間にか消えて、桜子にいくら何をされても海斗は動じなかった。


「……まさか……お兄様っ」

「ああ、僕は桜子相手に何もしないよ」

「それは私がBカップじゃないからですか!? お兄様は真のBカップマニアだったのですね!?」

「違うって!」


 それから、杉沢に謝罪をした海斗は、桜子を落ち着けるのに時間を割く。




 ◆




 桜子は海斗の退院手続きの為に、病室に現れたようだ。それも安良里と紅葉と喧嘩してじゃんけんで決めて、結局桜子が勝ったらしい。

 海斗、桜子、杉沢の三人は、その足で第三学区へと向かい、魔法警備高等学校へと入る。

 学校見学という名目で海斗は高校に入り、職員に挨拶をしようと思ったが全員忙しなく動いており、とても言葉を交わせる状態ではなかった。

 後から知った事だが、聖遺物盗難で政府からお怒りの電話と、楢滝の暴走に、さらにロイヤル・ナイツの爆破事件。その全てが一般人には伏せている情報であり、今や学園島に入る事もできなければ、出る事もできないようだ。

 つまり、必然的に馬原は逃げるのが不可能になったわけである。

 パソコン室に入ると、赤髪をポニーテールにして黒のライダースーツを着用した紅葉と、紺色のストライプのスーツを着用した安良里が出迎えた。


「まずは、退院おめでとうだね。海斗君」

「ありがとうございます」

「海斗、アタシに会えなくてさみしかっただろ?」

「そ、そうだね。あははは……」


 安良里には普通に返すが、紅葉には普通に返せない。何しろ、桜子の目が痛い。まるで、杉沢さんと一緒にいたから寂しくなかったんでしょ。と言いたいと顔が言っているのだ。


「とりあえず椅子に座ってくれ」


 海斗達は安良里に促されて、椅子に腰を置く。

 安良里は自らが操作する画面を、全員に見せる。


「海斗君と杉沢。君ら二人が休んでいる間に、私達はこうして調べていたんだ。そしたら、気になるのを見つけてね」


 毒々しく告げる安良里を見ると、桜子に何かを吹き込まれたのか勘繰りたくなった海斗だったが、気にせずモニターを眺めた。

 そこには、この学園島の地図が映し出されていて、所々に赤い点が目立つ。


「これは……?」

「このデータは、馬原 秀歌の魔力が使われた場所だ」

「魔力を使った場所?」

「ああ。我々、警備魔法に所属する人間には、魔力追跡を使えるんだ。一般人にはもちろん、政府の連中も知らないプログラムだ」

「つまり、特定された人間が使った魔力の痕跡がわかるってわけですか?」

「そういう事だ」


 海斗はなるほど、と思い口元を片手で覆った。

 魔力を使った場所が分かれば、その後を辿れば馬原の居場所が突き止められるかもしれないと感じる。

 今のところ、逃げようとして失敗に終わってるのか、魔法を使ったのは全部浜辺付近だ。という事は、浜辺から海を渡って本州に逃げようとしてるのか? 海斗は考えてみたが、現在の状況を考えると本州の政府も、魔法学園島の警備勢も犯人を逃がさない為に鎖国状態にしていると考えれる。そうなると、逃走が失敗に終わっているのも頷けた。


「あの……」

「何だ杉沢」


 申し訳なさそうに手を上げた杉沢が意見を口にする。


「もしかして、私みたいに他の人達を脅してる可能性も……あるかもです」


 二日前の事を思い出したのだろう、杉沢は口を濁す。

 安良里はその意見に対して、首を横に振って否定する。


「それはあり得ない。というのも、多分、馬原クラスの人間ともなれば、脅しや恐喝の類は使わないだろう」


 海斗は馬原クラス、という言葉に疑問が浮かぶ。


「あの、馬原先生って強いんですか?」

「どうなんですか?」

「アタシより強いっていうのはないだろ」


 桜子も紅葉も知らないようで安良里に問う。

 呆れた様子で安良里は深い溜息を吐いて答えた。


「……君達姉妹は本当に……。何も言うまいがレベル五の私の数段上で、レベルは八だ。杉沢や緑川と同等と考えていい」

「なるほど、それで聖剣エクスカリバーを持っていたら、レベル的には――――」

「恐らく最高峰の十に到達するクラスだ。もしかしたら、桜子も紅葉も……」


 安良里が言いにくかったのだろうか。言葉を濁すと桜子と紅葉が反応した。


「私が負けるわけがありません。お兄様の聖遺物を使ってでしか戦えないような相手に負けません」

「アタシが負ける? 冗談はやめてよ。桜子みたいな雑魚にもアタシは負けない」

「今の私ならお兄様が見ているという条件でお姉様にも勝てます」

「アタシは海斗が見てるっていうスペシャルな条件で桜子なんざ秒殺だ」


 桜子と紅葉はお互いが気にくわなかったのだろう。火花を散らして喧嘩を始め出した。

 そんな二人をお構いなしに、安良里は続ける。


「バカ二人は置いておいて、昨日。学生ではなく平均レベル七の教諭達を調査に派遣したんだ」

「平均レベル七? それって結構優秀な人材じゃないですか」

「まぁな。まだレベル五の私は、上司から司令塔として今回の事件を片付ける必要があるから参加できなかったんだが……」


 悔しそうに口を紡いだ安良里。

 喧嘩をしていた桜子と紅葉も、黙りこみ重い空気が漂う。

 そんな中、杉沢が口を開いた。


「馬原先生の居場所は特定できたんですか?」


 安良里は首を横に振って口を開く。


「調査員の全てが消息を絶った」

 

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