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プロローグ

 日照りがただでさえ長い空を、夜闇に照らしてから数時間経ったとある島の学園屋上で、暑い中黒いコートに身を包んだ女性が呟いた。


「あなた達、本当にレベル八の警備生じゃないの?」


 女性は絹のような白い髪の毛を振り払い、片手に持ちかまえていた大剣を一振りする。

 声に余裕の色を滲ませる彼女を前に、レベル八の警備生――――魔法少女達四人が悔しそうに奥歯を噛み締め、這いつくばっていた。

 レベル八。それは魔法少女を育成するこの学園では、最高峰のレベル九の次に優れているとされている女子生徒達だ。そんな彼女達を黒いコートに身を包んだ女性は、まるで赤子の手を捻るかのようにひれ伏せさせた。

 自分自身に過信しているわけでもないのに、名も知れぬ謎の女に負けた事に悔しさを隠せないレベル八の四人。

 これで仕上げと言わんばかりに、女性は大剣を空に向け叫んだ。


「あなた達を殺したら、レベル九達は来るかしらね!」


 空に向け、掲げられた大剣が太陽の如く光出す。

 あまりにも眩い光を向けられ、少女達は双眸を両腕で覆う。


「これで終わりよ。星光・滅剣ホーリー・ラストブレイドッ!」


 刃が光を徐々に増していき、その刀身を上回る魔力が空に向け放たれる。それは魔法の刃であり、射程距離を大幅に増した脅威的な力でもあった。

 四人の魔法少女は自らの非力さに悔し涙を浮かべ、この魔法少女学園島を守れなかったという事実を痛感させられる。

 高々と掲げられた剣の光は、雲を貫き先端が見えなくなっていた。

 そして、刃渡り何百メートルかも分からぬ光の剣が少女達に降り注いだ。


「くっ」


 一人が瞼を閉じ、己の最後を確信し最期を待った。

 他の三人も同じように、皆涙を浮かべながらも光の剣が叩き落とされるのを待つ。

 四人の少女達は瞼を閉じたまま、口を紡ぎ命が燃え尽きるその瞬間を待ったが、光の剣をいくら待っても降り注いでこなかった。

 恐る恐る瞼を持ち上げると、最初に写ったのは満開の桜を思わせるかのような腰までの髪の毛。

 彼女は片手を光の剣に向けて掲げ、背筋を伸ばして立ち止まっていた。


「何かが光ったと思ったら、聖遺物(レジェンド)を勝手に持ち出した輩が暴れ出したんですね」


 彼女は呟き、目前の黒いコートを羽織る女を見つめる。

 黒コートの女は、光の剣を止めた彼女を視界に入れると、一歩後退して言葉を吐いた。


「レベル九――――小石川(こいしかわ) 桜子(さくらこ)ッ!」


 桜子はニヤリと妖艶な笑みを漏らし、掲げた掌に魔力を込める。

 押し止められていた光の剣は、突き飛ばされたかのように押し返されると光は消えた。

 黒コートの女は、桜子を睨みつける。


「貴様が来るとはなッ!」

「私じゃ不満でもあるんでしょうか? 最も、レベル九の中では私がまだ一番マトモ(・・・)だと思いますけど?」

「レベル九がマトモ? 笑わせないでくれたまえ! 我々にとって貴様らは全員異質だッ!」


 逆キレしたかのように喚いた女が再び光の剣――――星光・滅剣を桜子に向けて振るう。

 だが、桜子は避けもせず、瞬きすらもせずに呟いた。


風塵・乱破(エアリアル・ブレイズ)


 瞬間、大剣を構えていた女ごと強風が襲い、彼女の身体を宙に浮かす。

 その隙を逃さずに、桜子は両手を固く結び、指鉄砲を作る。合わさった人差し指の向く先は、風で宙に浮いた女だ。


風塵・光線(エアリアル・レーザー)ッ!」


 桜子が叫んだ時、指鉄砲の先端から嵐が凝縮されたかのような威力を持つ光線が放たれる。

 宙に浮いた黒コートの女は防ぐ術がなく、大剣を防御の代わりに使用した。

 だが、風塵・光線は凄まじく、大剣と接触するとその刃をガラスのように砕く。

 防御を失った黒コートの女の腹部に、風塵・光線は命中する。そのまま、彼女の身体を貫く事なく遥か彼方へと女の姿を消した。


「ふぅ」


 一先ずボランティア活動を終えた桜子は、額に溜まった冷や汗をハンカチで拭うと、這いつくばっている四人の魔法少女達に視線を向ける。

 すると、彼女達は地面からゆっくりと起き上がり、桜子に頭を下げた。


「ありがとうございます、桜子様。まさか、このような事態になるとは……」

「仕方がないですよ。これも最近頻繁に起こっている聖遺物(レジェンド)の喪失事件ですし。学園島の平和を守るのなら安い奉仕ですわ」


 桜子は警備生のレベル八の魔法少女達に微笑んだ。

 ここ最近、魔法少女を育成する、ここ魔法少女学園島では持つだけで強大な力を得る事ができる聖遺物(レジェンド)が次々と紛失されていた。今回のような事件は、夏に入ってからもう五件。盗まれるのは決まって剣型の聖遺物である。

 そして、その度に現れるのは今も退治した筈の黒いコートの女だ。

 彼女を捕まえようとすればするほど、必死になって逃げるので桜子は撃退する際は、捕まえるのを諦めていた。

 何とかしなければならないのは、主に警備生であるレベル八の仕事であり、桜子のような学園最高峰のレベル九は特に仕事はなかったりする。だから、ボランティア活動なのだ。

 この問題は、レベル八の魔法少女警備委員会とレベル九の一部の人間の間だけで解決しようとしている事案なので、下手に公に出すのは躊躇われている。

 もし、このような問題が内部で発生していたと政府に知られると、夏季休暇期間中は学園島からの帰省は禁止され、また外部からの人間の来訪も禁止される。

 そのような場合に陥ったら、桜子はとても面倒なのだ。

 その理由というのも、桜子の愛する一歳年上の義兄が来週には訪れるのである。

 桜子としては、いち早くこの事件を解決したかった。


「桜子様、どうされるんですか?」


 レベル八の一人が問う。


「どうするも何も、お兄様が来る前には片付けましょう。それに布石は打っておいたわ。明日、学園に残る生徒を隅々まで調査して、腹部に私の風塵・光線を受けた生徒を探し出しましょう。そうすれば、犯人は見つかる筈よ」


 桜子は風塵・光線の威力をかなりセーブしていた。というのも、通常の威力であれば人間の腹部くらい容易く貫く事ができるのだが、ここ魔法少女学園島でも人殺しは犯罪者となる為、威力を通常のまま放つ事はできない。

 それに、威力をセーブして放ったとしても、痕はくっきりと残る筈だ。

 夏季休暇中の生徒はほとんど帰省しているし、犯人を特定するのは厳しくないと桜子は考えていた。


「それでは、明日に備えて今日は休みましょう」

「はい!」


 桜子の言葉に、レベル八の警備生は元気な返事をした。

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