仮面と風
薄黄色いシャツを着こなした少年は、通りに面したショーウィンドウを見つめていた。微粒的な雪が降り始めた夕頃、その店のショーウィンドウには茶黒いシルクハットケースが展示されていた。少年は雪を気にすることもなく、はたまた通りを行き交うことを目的とした通行者も、色とりどりの自動車の縦列も、少し先のレストランから流れてくる暖かいオニオンスープの匂いさえも、彼の気を引くことはできないでいた。
それほどまでに、彼はシルクハットケースが欲しかったのだろうか?
否。ここまで記してきて、私は一つの事実を故意に記し忘れていたことを思い出したように振る舞おう。それは彼の顔についてだ。
彼は仮面をつけていたのだ。
彼はショーウィンドウ越しに、仮面を、そしてその仮面越しに自分を、凝視していた。この際、仮面の性質は問題にならない。ボール紙で作られていたとしても構わないし、軽い金属製だったとしても話は進む。仮面に最低限の細工として空けられた眼と鼻のための穴。そこから覗かれる彼の部分は、全体とのバランスを失して、むしろ浮き上がるように顔の部分を担っている。穴がなければ彼は生命を維持できまい。仮面に殺されてしまう。表情は微細になる。可動性の暖かみと硬直性の恐ろしさ。顔の表象......表情の捨象。意識の先と面。
彼は考えなければならない。
これは誰なのか。その部分は何なのか。僕はどこへ行ってしまったのか。僕を僕たらしめているのは......。
ちょうど街灯の火が消えかけるほどの強い風が吹いた。風は雪と一緒に彼の仮面を嬉しそうに取り上げると、仮面を冷たい川の流れに放って行ってしまった。
彼は家に向かって走り出した。