第七話 妖精の謎
色々と、事故やら何やらがあったせいで気付けなかったが、何故キルルは、俺と同じ日本語で喋っていたのだろうか?
近くにあったベンチに座って、その事を訊くと、
「それは私が妖精だからです。私達は固有の言語を持たず、相手との『交信』によって情報交換、つまるところ会話をしているんです。妖精同士だと殆ど音だけが飛び交ってる状態になりますかね。たまたま相手が人間だから、私が人間の言葉を話しているように聞こえるだけなんですよ」
などと懇切丁寧に説明してくれた。つまり人間からすると、妖精があたかも言葉を発していると錯覚してしまう訳だろうか。
「でもお前、さっきから言葉話す度に口動いてるのはどうしてなんだ?」
「えへへっ、単なる真似事ですよー。意外と大変ですけど」
「……あっそう」
紛らわしいな、おい。
「ってか、そうなると周りに人間以外がいた場合、ソイツらにも言葉が届いてるって事になるのか?」
「うーん、そうなりますねー」
小さな手で顎のような部分に手を当てそう言う。何て便利な生き物だよ、妖精。現実世界だと通訳に応用出来るじゃん。
「ところで、結局どこにも行かないんですね」
「え? ああ、とりあえず休憩時間になるまでここで休んでるよ。こんなヤツが彷徨いてたら生徒も流石に不審がるだろうし」
「まあ妥当な判断ではありますけど、今は大丈夫ですよ、私が見守っているので」
……実際、それが一番の動きたがらない理由なのだが、こちらの気も知らずにキルルは怪訝な顔をしていた。
「……なあ、お前」
「キルルとお呼び下さい。先ほどから失礼だと感じていたのですが、全然気付かないので自ら断言させていただきます」
「あっ、わり、キルル」
言われて言い直す。まさかそんな事思っていたとは、妖精のくせに。
「キルルはさ、『ホーリル』ってのを見たことあるか?」
「へ? ホーリル?」
「まさか、言葉を聞いたことがないのか?」
「いえ、そうではなく。伝説の魔人って言われてるアレですか?」
「ああ、そうだ」
すると、キルルは手で口を覆い、何かに耐えるようにしながら沈黙。しかし身体はぷるぷると震えているようだった。
俺はその様子に少し苛立ち、
「……何だよ、俺おかしな事言ったか?」
その言葉が引き金にでもなったのか、ぶふぅー! と吹いたキルル。笑いを噛み殺していたらしい。
「おかしいも何も、そんなの幻想の話ですよぷくくっ! 現実に、そんなのいる訳ないじゃないですかあはははははははは!」
遂には覆っていた手を放して笑い転げ始めた。む、ムカつく。確かに俺だってそんな感じの話されて、且つソレを信じてますなんて言われたら笑うかもしれない。ただコイツはいくら何でも笑いすぎだろ。
「う、うるせえな! ちょっと訊いてみただけだろうが!」
しかし、コイツの反応で何となくは察した。要するにこの世界じゃホーリルはいないもの、いわゆる伝説とか幻に近い存在だと認識されてる訳か。現実世界で言うところの未確認飛行物体みたいな感じだろう。
笑いすぎて若干涙目になっているキルルは「ふぅ」と落ち着いて、
「ですがホーリルなんて、存在自体希薄なものなんですよ? 伝説のくせに解説も曖昧で、不明点の多さには定評もあります。数多いる魔法学者でさえ、殆ど調査する事は無いとも言われてるぐらいなんですから」
「……、妖精がやけにそんな世界事情に詳しいのは何故なんだ」
「そんな事より」
「誤魔化しやがった!」
今んとこ一番気になった話題をすっ飛ばしてキルルは、ベンチから立ち上がり飛翔。そのまま俺の肩に到着した。
「そのズボンのポケットに入っているソレ、一体何なんですか? さっきから何か妙な感じなんですけど」
「ポケット?」
はて、何だろう。とりあえず中のものを取り出し、
「ああ何だ、携帯か」
と納得した。そういえば俺の鞄と自転車どこいったんだろう。魔人に吸い込まれ、この世界に召喚(?)されてから全く見かけなかったけど。
「すまほ?」
俺が少し現実逃避じみた回想をしていると、キルルが問うた。
「えっと、何つーか、コレがあれば色んな事が出来るというか、便利な道具なんだよ」
この世界に無いものを説明するのは、なかなかに骨が折れる。まだキルルには俺の素性を明かしてないから尚更だ。
「はあ、とにかく凄い魔道具なんですね」
またも妙な勘違いで切り抜けた。魔道具じゃなくて科学技術による電子機器だけどね。
俺は何となく、この世界で通信出来るのかを試す為にスマホを操作してみ
圏外だった。
うん、もうね、予想通り過ぎて泣けてくるね。そしてすぐに結果が分かるというのが、また何とも言えない脱力感を醸してくるね。
「……、はぁ~~~~~~……」
長ーいため息を吐いて、俺はしばらくベンチに座ったまま時間を過ごした。キルルは不思議そうにこちらを見ていたが。
そうして、十分ほどしただろうか。
「暇だー……」
アホみたいに時間が進むのが遅すぎる事に痺れを切らし、俺はとうとう校内を探索することにした。
「あっ、行きますか?」
「ああ。流石に退屈だからな」
「では私が案内役として、この学校の名所などをお教え致します。いかがですか」
「キルルってそういう役目なの?」
「まあ私が単純に説明したいだけですけどね」
「あっそう。なら、頼もうかな」
こうして、キルルにエスコートされる形で、俺はこの魔法学校を回ることにしたのだった。
うう、遅れてしまった。というのも、基本的に一週間刻みで更新しているので、この均衡が崩れることは避けたかったのです。……見てくれてる人なんてあまりいないでしょうけど。
どうも、鷹宮雷我です。
今回の話は、妖精に関する謎の究明です。何故幽上と同じ言葉を喋っていたのか、とかですね。うん、これから色々面白くなりそうだ。
……。
私情になりますが、もう一つの作品も遅れをとっています。見てる人なんているのかは問いませんが。
今回の後書きはこの辺で。
それでは。