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第五話 秘密

 『伝説の魔人』。

 その本の中に書いてある内容を、分かり易くまとめてみると、以下の通りになる。


 空間扉。通称『ホーリル』。

 正体不明、出所不明の、扉の形をした伝説の魔人。

 魔人の中では非常に希少、というより通常ならば見かけることすら出来ない、幻のようなものであるとされている。

 その扉の先はどこへ通ずるのか、それさえも不明(異空間に通じているとの説もある)。

 どこかに出現しては消失する、ということを繰り返す、空間を超越した存在。

 それを見た者は、扉の中へと吸い込まれ戻ってこない、という言い伝えがある。尚、現代では昔話としてよく語られている。


 これが、この本の中に表記されてあった全てだった。


 ――嘘だろ?


 たった、こんだけ、なのか……? しかも、殆ど解説として成り立ってない。唯一解った事といえば、突然現れて消えるっていうのと、異空間に通じてるかもしれないって、ただそんだけの、役に立たないどころか意味の無い情報だけだ。

 俺はそのページ以外にホーリルについて何か書かれていないか、何度も見返してみたが、結果は、何も出なかった。

 ……まあそうだよな、分からないことの方が多くたって不思議じゃない。むしろそれだけ分かっただけマシかもしれない。なんたってこの世界じゃ、伝説扱いの得体も知れないモノなんだろうから。

 そう考え本を閉じたあたりで、カーンカーンカーン、とHR(ホームルーム)終了のチャイムらしき音が校内に鳴り響く。となると五分程度の休憩時間か。

 図書館でやる事も無くなったし、とりあえず本を先ほどの人に渡してから、俺は外に出た。というか、魔法を使ってくれないと文字が読めないのがかなり不便だな。異世界だから仕方ないんだろうけど。

 さて、当初のように途方に暮れる結果になった、そんな時、遠くでアリサの姿が見えた。うろうろと辺りを見渡しながら動き回っていて、それはどうやら俺を探しているらしい事を悟り、アリサの方へと歩いていく。

「あ、ユウガミ君!」

 アリサが俺に気付き、駆け寄ってくる。そして目の前まで来るや否や、


「すぐ近くにいると思ってたらどうしてこんな離れた場所にいるのかな! まったくもう!」


 何故か理不尽にも怒られた。ついでにそっぽを向いてしまった。いや、これは彼女なりの安否の感情表現なのだろうか。

「わ、悪い。ちょっと図書館見つけたもんだから、つい」

 対し、俺は言い訳じみた謝罪をした。実際事実ではあるが。

「図書館?」

 アリサが食いついてきたので、俺は簡潔に説明してやった。

「ホーリルについて何か情報が得られるかもしれないと思って、ちょっと寄ってみたんだけど、結果は何もなしだ」

「ふ~ん。……ところで、図書館に行ったってことは、あの人に会ったんだ」

「あの人?」

 なんとなく思い当たる節はあるが、……何と表現して良いんだろう。顔の見えない不思議系(ミステリアス)少女? いや少女はありえねえだろ。

「フーノ・エメニトル。あそこの館長さんをやってる人だよ」

 歩きながら話そっか、と自分に都合のいいように校舎の方へ歩き始めた。まあ、授業遅刻とかになったら真っ先に俺のせいだもんな。

「顔が見えないようにフード被ってた人か?」

「そっ。でね、今まで誰もあの人の顔を見たことがないんだよ! 本当に誰一人!」 

「先生も含めてか?」

「そうだよ!」

 うわ、マジか。それは凄いというか驚愕だな。学校の七不思議の一つに含まれるほどの話題なんじゃないかそれ。

「噂では『美麗な顔』だとか、逆に『不細工な顔』だとかって言われてるくらい、色んな噂が学校中に広まってるの」

「もしかしたら童顔ってのも有り得るかもな」

 あはははは、そうかもね、と笑いながらそう話すアリサ。

「……そういえば、そのフーノって人、一発で本の位置を探し当てていた気が……」

 ふと思い出した不思議な行動の事を言うと、ふふ~んと何やら得意げに、

「それもフーノさんの秘密でね、魔法かもしれないし、はたまた本当に、全ての本の場所を熟知してるのかもしれないって話なんだよ!」

 と楽しそうに語った。……本当に本の場所を熟知してる超人的な存在だったなら、一体あの人は何者なんだ、という疑問を拭いきれない俺だった。

 そうしていると、ある教室の前まで辿り着き、「それじゃまた後でね」とこちらに手を振ってアリサは入っていってしまった。

「ふぅ。……さて、と」

 ……ちなみに。

 本音を言うと、俺はここに着くまでの間、周りの視線の痛々しさにかなり困惑し、何より気まずさを凄く感じていた。こんなにも冷や汗が気持ち悪く思えたのは、初めてである。

 その多くの目はこう語っていたように思う、「他校のヤツだかなんだか知らねーが、何でテメェは堂々と校舎に躊躇いなく侵入してんだよ」と。

 一人になった今、その視線はさらにキツく厳しいものへと昇華した気がした。

 ………………。


 とりあえず、このいたたまれない状況を打破する為、全力でその場から逃走しましたね、はい。



 その後。

 二分程経ったあたりでカーンカーンカーン、とチャイムの鐘が虚しく鳴り響くのだった。

どうも、鷹宮雷我です。

はい、いかがだったでしょうか、魔人ホーリルの謎。

……全然理解出来ないですよね。……でもでも、一応存在の究明は出来たと思いませんか? ほら、ホーリルがどういうものかってこと! 何もかも不明ですなんて衝撃展開!

……やっぱダメだ。どう言い繕っても不審がられる気がする。

とにかく、今回はこの辺で。

それではっ。

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