第四話 図書館
「しっかし、これからどうするかなぁ……」
特にやることがある訳じゃないし、とりあえずで散策しようと決めてみたのは良いけども、どこにいっていいやらで、だいたい学校内を歩くっつってもそんな珍しいものは無いだろうし、結果的にやることは無かった。まあ単純に校内を彷徨くぐらいにしておこうかと思う。
そんな風に適当に歩きながら、俺は少し考え事をした。あの扉の事とか、この世界の事を。
先ほどアリサが言ってたように、あの扉、『ホーリル』というモノは魔人と呼ばれる何かであるらしい。アレは一体どういう存在なんだろうか。そして、この魔法が存在する世界。もし、扉の仕業であるなら、何故ここへ飛ばしたのか。
「(って、そんなこと分かる訳ないんだけどな……)」
ふと、自分の歩く先に、校舎よりは小さい、けれど立派に大きな建物があるのが見えた。近付いてみると、そこはなんと「図書館」のようだ。
「へえ、図書館……、ってデカすぎねえかコレ⁉」
そういえば、ここは私立校なんだっけ。しかしなんともスケールがでかい。
レンガ製の簡素な壁であり、丁寧に扱われているのか傷の少ない綺麗な建物だった。窓から中を見ると数え切れない数の本がずらりと陳列されていた。
「あ、そうだ、図書館なら……」
ホーリルについての情報が何か得られるかもしれない、そう確信して俺は中に入ることを決心する。
扉を開けると、クーラーか何かがあるという訳ではないのに、心地よく涼しい風が全身に当たる。そしてその館内の様子に仰天した。
「嘘だろ……⁉」
右から左へ視線を流しても、そこにあるのは無数の本。当然、読んで座るための机と椅子も完全常備されている。さらに奥には、漫画か何かでしか見たことがないような、左右に移動させられる梯子。勿論その裏には二段、三段、四段……と天井まで届かんばかりの本と陳列棚があった。
「――――」
唐突に後ろから声をかけられた。ビックリして振り返ってみると、そこにはこの館内の管理者らしき人がいた。だけど言葉が分からないので上手く対応出来ない。
おまけに茶色のローブを着用し、フードを目深に被っているため、どうにも気味が悪かった。声の高さからすると、女性のようだ。
「あー、え、えっと」
と、俺の言葉が理解出来ない事を知ると、その人は何かを唱えて、ようやく俺の分かる言葉で話した。
「おや、見ない顔だね。侵入者?」
「え、い、いや侵入者って! それはないでしょう!」
何て冗談を言うんだこの人は。思わず本気で否定しちゃたよ。というか第一声がそれってどうなの?
「ふふふ、そうだよね。それで、君は一体? ここの生徒ではないようだけど」
「あ、えと、その」
異世界から来ましたなんて、そうやすやすと言える訳がない、まあアリサには言ったんだけど。それと、まさかここの生徒じゃないなら立ち入り禁止なのか――、そう思ったその時、
「まあ、どんな人でも大歓迎なんだけどね」
その言葉を聞いてホッとした。これ以上は詮索されない、するつもりもないのだろう。
「あの、ここに『魔人』についての本とかってありますか? 出来ればホーリルってのが載ってるのが良いんですけど」
ふむ、と顎に手を当て、館内をぐるりと見回すと、思いついたように歩き出した。疑問に思っていると、不意に立ち止まりこっちを向いて、
「ほら、こっちだよ」
と指示され、慌てて追いつく。まさか今のでどこにあるかとかが判ったのだろうか。
辿り着いたのは奥の梯子のある場所だった。この中から探すのは流石に骨が折れるだろうなとか考えていると、その人は迷いなく梯子を移動させ、登った。
三段ほどの位置に着いたところで、本を抜き取り、ゆっくりと降りてくる。
「これで良いかな?」
そう言って持ってきてくれたのは良いけれども、全然文字が読めなかった。すると、俺の様子を察したのかまた何かを唱えた。そしてその字は俺の知る日本の言葉へと変化していく。
そこには、『伝説の魔人』というタイトルが書かれていた。……ってちょっと待って、どういうこと? 何で場所が判った訳⁉
しかしそんな俺の疑問を汲み取ることもなく、その人は「これで良いかな?」とさっきと同じ言葉を繰り返した。
「……は、はい……」
気圧されるようにそう言った。そしてその人は「また何かあったら言ってくれれば良いからね」と言い残し、カウンターらしき場所に戻ってしまった。
「……」
俺の反応は今や絶句のみ。そうするしかなかった。
とりあえず気を取り直し、近くにあった机に本を置き、椅子に腰掛ける。ぱらぱらと適当にページを捲っていきながら、ようやく目的のページを見つけた。
「これだ……」
俺をこの世界に送った元凶、魔人ホーリル。
俺が見たのと同じような、豪奢で強固そうな扉が、そこには描かれていた。
どうも、鷹宮雷我です。
ようやく、魔人ホーリルについての情報が得られるかもしれない――というところで今回は終わり、続きはまた次回です。
いや、結構いいとこで止めたなー、次回にご期待あれ、って感じですかね? ……あんまり期待されても困るだけなんですけどね(汗)。
それでは、また。