第二話 世界観の相違
アリサが言うには、俺がいたあの場所はちょっと危険らしい。なんでも、後方に向かって少し歩くと森があり、そこには少々荒っぽい生物がいるという。無論、そんな生物だけではないらしいが。
つまり、俺がいたのは森の入口付近に位置する場所という事だ。で、ソレは、普通は森から出てくることはないそうだが、万が一ということがある。だから場所を変えようとアリサは言ったのだ。なんと優しい心遣いだろう。
ちなみに。
もし『ホーリル』とやらが、俺が目覚めたあの場所でなく、その森の中に俺を放ったとしたら。
目覚めた時に、そんな生物が目の前にいたとしたら。
考えただけでもゾッとする。
世間話的にそんな事をアリサに話してみると、
「そうだね、確かに怖いかも。あそこに近寄る人は殆どいないからね。助けなんて来ないかも」
苦笑混じりにそう答えた。
しかしこの少女、一言で言うなら魅力的な容姿だった。
まず目に付くのが薄ピンク色の綺麗なストレートヘア。そして、顔に視線を向けると、透き通っているかのように見える碧眼。身体のラインは服の上からでも分かるほど、すらりと伸びて細い。
と、そんな少女が口を開いた。
「う~ん、少し遠いから、箒で移動しちゃおっか」
「え、マジで?」
正直、嬉しい事だった。だって、箒だぞ? 飛ぶんだぞ? 空を飛ぶとか、人類の夢みたいなモンだろ? …………まあ、夢ってほどじゃないよね、多分。
「うん。ただ、ちょっと待ってて」
そう言うと、何やら呪文らしき言葉を唱えた。すると不思議なことに、どこからか箒が飛んできたのだ。勢いよくこちらに向かってくる様は、まるでジェット機を思わせる。
アリサの近くに来たそれは、ゆっくりと減速し、手前まで到着してふわふわと浮いていた。
「うわ……すっげぇ……」
感嘆の声を上げる。目の前で見せられた光景に驚嘆するのが精一杯だった。むしろそれ以外の反応が思い浮かばない。
「『呼び寄せ』っていう魔法でね。いつどこであっても、頭に浮かべたモノを呼び寄せることが出来るの。……と言っても、本当に何もかも呼び寄せる訳じゃないし、第一、私はまだ上手く扱えてないんだ」
「え? 出来てるじゃねえか」
「まあ、箒ぐらいなら簡単に出来るんだけどね、他はあまり成功したことがないの。特に、大きなものとか」
意外だ。さっきも魔法を少し扱っていたようだから、てっきりかなりの実力者かと思ってた。
「さっ、行こっか」
「あれ、ていうかどこに?」
「うん? あ、言わなかったっけ。魔法学校だよ」
「魔法学校……………………、って何で⁉」
唐突過ぎて思わず納得しちゃうところだったよ! 何その急展開!
「えっとね、私、学校の生徒だから」
いや、そういうことじゃねえよ。
「何で俺もそこに行く必要が?」
「だって、その方が楽なんだもん。君は異世界から来たって事だし、この辺を彷徨かれてもちょっと危なげだからね。学校なら私の目の届く範囲だし」
なるほど、監視の為か。それなら理解……しねえから。むしろ問題大アリだと思う。
「それじゃ学校に迷惑かかるし、俺自身もかなり気不味いんだが」
「だいじょーぶ! なんとかなるよ!」
「なんて信憑性のない励まし!」
この子、ひょっとして天然なのかなぁ。なんか心配だ。
「とにかく、きっと大丈夫だからさ、行こっ。ね?」
くそ、反則だろ、この笑顔。こんなん見せられたあとで断る度胸は俺にはなかった。その結果、箒に乗ることとなった。
二人分の重みにも楽勝だとでも言うように、ぶわっと箒が飛翔する。当然俺の心は歓喜していた。
ふと、アリサが俺にこう訊ねた。
「ねえユウガミ君、君がいた世界ってさ、どんなところなの?」
「うん? ……何て言うか、魔法は存在せず、代わりに科学の在る世界、って感じか?」
「じゃあ科学って?」
うーむ、説明するのは容易なことじゃないんだよな、これが。俺科学者じゃないし。
「……流石に、この世界にも自然現象とか、あるだろ?」
うん、と相槌を打つアリサ。
「それで、通常では有り得ない現象が起こったとする。そういうのを追究して、人々が理解出来る形での解明をする、みたいなモノ、だな。多分」
我ながらかなり良い説明だと自画自賛する。いや本当に分かり易いな。例えるなら、コンセプトが勇者が世界を救う旅に出るロールプレイングゲームくらいの分かり易さだ。
……むしろ理解し難くなった感が否めなくなりました、はい。
「ふーん、原理は違うようだけど、科学って魔法学と類似してるかも」
「へえ、一応そういう概念ってあったりするのか」
「うん。魔法学は、世に溢れた様々な魔法について研究したり、不可思議な現象について調査したり……、言ってみれば、科学と似たようなモノだね」
例え形は違っていようとも、やはり似るところは似るんだと、そう思った瞬間だった。
どうも、鷹宮雷我です。
まだまだストーリーが展開されていないので説明とかは難しいですね。強いて言うなら、今回のコンセプトは「アリサとの対話」です。
まあ、これだけです(みじかっ!)。
それではっ。