やめて、そんな目で見ないで!!
昼御飯を食べ終えた二人は、レンドリックとルノーに挨拶をして帰ることにした。
門まで送ると言うルノーと喋りながら歩くと、あっという間に門についた。
「メリッサちゃん、これで夕食後のデザート…皆の分を買ってくれるかな?」
そう言ってルノーは、メリッサの手に銅貨四枚を置く。
「日持ちするお菓子あればレンドリック隊長の分もよろしくね。
なんのお菓子かはメリッサちゃんとアイリちゃんが食べたいものにして。
久々にヘレンさんの料理食べるから、そのお礼もかねてるから気にしないでね。
遠慮せず食べる気でいますからって伝えておいて。」
そこまで言うとルノーは、じゃあまたね~と中に入ってしまった。
「流れるように用件とお金まで置いて去っていくってすごいね。」
「お母さんがあまり気を使わなくていいような言伝まで用意してる。」
「さすがだね…」
「ね~」
笑い合いながらアイリとメリッサは仲良く手を繋いで歩き出す。
デザートのお菓子はメリッサがオススメする洋菓子店に向かうことにした。
「そうだ、メリッサちゃんが良いならだけど…」
お店の前に着いたとき、アイリはとある提案をしたのだった。
室内には紙をめくる音、サインをする音、印を押す音がひたすら続いていた。
暫くして、音が止む。
「終った。
アル、ちょっと休憩しようよ。」
ユナカイトは斜め後から仁王立ちで見守るアルベイルに微笑んで言った。
「気にせず続けてください。
後、書類は三山はありますから。休憩とってたら明日の朝までに仕事が終わらないでしょう。
いいですか?ユナカイト団長…貴方が仕事全部終わらせなければ休みをもらえる団員も休めないんですよ?
私は夜は帰りますが、朝イチで来て仕事がちゃんと済んでるか確認して、城に提出せねばならないのです。
皆がどんなに大変か自覚してますか?」
殺気すらこもったアルベイルの笑顔にユナカイトは顔を引きつらせた。相当お怒りらしい。
「夜はレンドリックが付きっきりで側に居てくれますから。
ユナ…くれぐれも逃走をしませんように。」
「お茶のひとつも飲みたいよ!」
「粗相したいならいくらでも飲ませてあげますよ?」
ユナカイトはその場に縛り付けられていた。
比喩ではない。
椅子にぐるぐるんに縛り付けられているのだ。
暴言をはいて見下し発言をした近衛騎士予定にストレス解消…ゲフゲフ、教育的指導をしているうちにレンドリックが止めに来て、打ち合い稽古をユナカイト的には楽しんでいた時にアルベイルが戻って来て蹴り飛ばして止め、執務室に引きずって文字通り椅子に縛り付けて仕事をさせて今に至るのだ。
「なんか食べたい!
いや、携帯食じゃなくって!!
あったかいものが食べたいんだよ、アル!!
分かるだろ?!」
すかさず携帯食を取り出したアルベイルにユナカイトは抗議の声を上げた。
「はっはっは、その台詞はマトモに仕事をした方が言うのですよ?
携帯食、けっこうじゃないですか。
貴方がざっと読んで印やサインをするだけで済むようにした書類を作った我々は携帯食にかじりつきながら夜明かししたんです。」
朗らかに話すアルベイルだが、目が全く笑ってない。
「うわぁ…大人なのに…」
「下働きとして恥ずかしいです…」
執務室に似つかわしくない子どもの声が聞こえた。
半開きの扉からルノー、メリッサ、アイリがこちらを顔半分出して見ている。
「ノックしたんですが、返答がないので開けさせてもらいました。」
ルノーが困り顔で言うと、アルベイルは殺気を押し込めて尋ねた。
「こちらこそ気付かずすまないね。
ルノー副隊長…で、アイリやメリッサ嬢が居るのは何故かな?」
「アイリちゃんがユナカイト様が休憩に食べられるようにと様子見がてらお菓子を差し入れに来てくれたんです。」
「差し出がましいとは思いましたが、ユナカイト様に自分が不在の間に使う用としてお金をたくさん下さったので、それで差し入れを買ってきました。
それをお渡ししようと思いましてルノーさんとメリッサちゃんに付き添ってもらいました。
アルベイル様のお口に合うかは分かりませんが街で評判のお菓子です。
よければ召し上がってください。」
頭を下げてからアイリがアルベイルにラッピングされた焼き菓子の詰め合わせを渡す。
「おや、これはエリザベールが美味しいと言っていた店のものじゃないか。ありがとう。」
「いえいえ、お店はメリッサちゃんが教えてくれて私は買ってきただけですし、お金はユナカイト様のですから。
でも、喜んでもらえて嬉しいです。」
そう言ってから、メリッサの方を見てにこーっと笑うアイリ。
メリッサも同じくにこーっと笑顔を返し、手を繋ぐ。
その様子は大変可愛らしく、和んだ。
「あの、アルベイル様…
アルベイル様がお城に書類を持っていく間はルノーお兄…あ、ルノー副隊長さんがユナカイト様の側でお手伝いするって聞きました。
今日はお父さんの代わりにルノー副隊長さんがうちのお姉ちゃんを迎えに行くことになってるんです。
我が儘なのは分かってるんですが、規定の時間で帰れるようにしてほしいんです。
ユナカイト様を見ているのならアイリちゃんとお手伝いできると思ってるんですけど…だめですか?」
おずおずとメリッサが提案した。
アルベイルは感動した。
そして、侮蔑の視線をユナカイトに向ける。
「ユナ…お前が毎回逃げたりするせいで、迷惑がかかると団員の家族にも認識されてると理解しましたか?
休憩なんてしたらルノー副隊長は帰れなくなり、エルサ嬢は怖い思いをしながら夜道を歩き、アイリ達からは軽蔑されますよ。」
「ちょっと…いえ、かなり良心が痛む…ね、うん、仕事…するよ…?
だから…、えっと二人とも安心して?
ほら、俺はいいから遊んできなよ。」
じっ…と、曇りのない眼で少女二人がユナカイトを見つめる。
なんだか信頼は皆無だ。
信用ならない、と瞳が語っている。
「そんな目で見ないで!!
俺がちゃんとできる人間だってみせるから!!
ルノー、追加の書類を…うわぁ…ぐっ…くれるかい。」
レンドリックが見終わった書類の厚さに戦きながら、ユナカイトはペンを握って言った。
「はっはっは、頑張ってくださいねユナ。
二人ともそこのソファーとテーブルを使っていいですよ、居てくれるだけで良いですから。
あ、トイレ行きたいと行ってもルノー副隊長か私、もしくはレンドリック隊長が来るまでは放置して良いですから。」
「「はーい」」
笑顔でアルベイルに言われ、アイリとメリッサは早速こぢんまりとしたソファーに並んで座るとテーブルにノートを広げた。
「私達は宿題しようね。」
「うん!」
「ユナカイト様も頑張るみたいだから私達も頑張ろうね。」
「ウンソウダネ。」
ユナカイトは頑張ってないような気がしてついつい棒読みで返してしまうアイリだった。
「では私は出来た分を城に持っていきます。」
「自分は追加の書類を持ってきますね。」
笑顔でアルベイルとルノーが一旦退室をして、後には仲良く宿題をする少女達と泣きそうになりながらサインやら印を押すユナカイトが残されたのだった。




