似てない、ってレベルじゃない
「なんだあの人だかり…」
アイリはおののいた。
メリッサに連れられていった彼女の姉の勤めるベーカリーには、黒山の人だかり(9割男性)ができていた。
人数的には30人いるかいないかであるが兵士やら騎士やらのガタイの良い男ばかりで威圧感が半端ないのだ。
さほど大きくないベーカリーの会計カウンターは二つあるが片方にだけ若い男性が群がっている。
それでもすごい早さでさばかれているのだが、後から後から男たちか群がっており焼け石に水状態だ。
入れ替り立ち替りである。
「お姉ちゃん人気なんだ。
看板娘なんだよ。私がいうのもなんだけどとても可愛いの。
お父さんに全然似てない。」
メリッサの父レンドリックは泣く子がひきつけを起こすほどの強面だ。
成人男性でも半泣きにできるくらい迫力がある。
アイリの主の実力派適当大王のユナカイトでさえ夜道の暗がりで振り返られてビビったと言うほどに。
アイリも正直怖いとは思うけど、とてもいい人なので怖さを押し込んで対応してる。
「血の繋がりを疑うくらい似てない。」
メリッサは似てないことを強調する。
よほど似てないのだろう。メリッサが父の事は好きだが似ていると言われる事が嫌であろうというのは薄々わかる。
レンドリックは髪色が同じだからと自分に似てかわいいと紹介していたが…本気でそろそろやめた方がいいと思うアイリであった。
「おねーちゃーん!!」
メリッサが唐突に大声で叫んだ。
「あっ、メリッサ!
ごめんなさい、ちょっといいかしら?」
黒山が割れた。
そこに居たのは可愛い系の美人さんだった。
絶世の、とか、傾国の、というレベルではないが、10人中9人は確実に可愛いね!という感じだ。
目があった瞬間、にっこり微笑まれると同性のアイリでさえドキリとするレベルだ。
「お姉ちゃん、ご飯買いに来たよ。」
「もう少し待ってて!渡すものがあるから。」
パチリとウィンクするメリッサの姉の姿に側に居た男性が胸を押さえて踞る。
自分に向けられなくてもときめかざるおえない可愛さだった。
小悪魔的に可愛いというやつか。
「じゃあすくまでちょっと待ってるね。」
「ええ!さぁお待たせしました。お会計は…」
メリッサの返事を聞くと姉はすぐさま戻り客をさばき始める。
話をベラベラし始める者も居たが、妹が待ってるから…と華麗にスルーし、めんどくさい説明や質問を求められると別な店員に回し…と綺麗にさばいている。
別な店員に回す時は、如何に回す相手が素晴らしいか嫌み無く褒めつつ、聞いてきた客の興味を最大限に引き出すのをさり気無く行う。プロである。
「メリッサちゃん、お姉さん本気で似てないね…」
レンドリックどころかメリッサにすら似ているところが全くない。親子関係や姉妹関係を疑わずにいられないほどだ。
「実は血が繋がってないって言われても驚かないって思ったこともあるよ…ははは…」
「それは相当だね…」
力無く笑い合うアイリとメリッサの二人であった。




