出会いはいきなりに。
生ぬるいい目と、広い心でご覧ください。
もうすぐお昼だ…
アイリは木苺を採る手を休め、高くなった太陽を見上げた。
籠いっぱいの木苺を見て微笑む。
これだけたくさんあれば…
アイリ達、使用人にもジャムが回るかもしれない。
ぐうぅぅ…
アイリの腹の虫が騒ぎ出す。
根をつめて木苺採りに勤しんでいたので気づかなかったが、お腹はかなりすいてしまっているようだ。
「ごはんにしよう…」
とりあえず手を洗いに、近くの泉へと向かうことにした。
☆☆☆
アイリは、リンバル王国の片隅にあるシュトーレン領の領主の屋敷で働いてる。
もうすぐ11歳になる。
母は屋敷のハウスメイドだった。
父は知らない。
だれの子と知れない赤子を身ごもった母は、追い出されてもおかしくは無かった。
だが…先代の奥方は慈悲深く、そのまま母を屋敷に置き、母を雇いつづけてくれたのだ。
二年前に母が死んでしまった後も、アイリが下働きとして屋敷に残れたのは、その奥方のおかげである。
「奥方…」
一年前に亡くなった奥方を不意に思い出し、溜息がもれた。
奥様が、いたらどんなによかったろう…
さっきまで昼ご飯に浮かれていたアイリだが、急にトボトボ歩きとなり、俯いた。
また溜息が漏れ、
ぎゅむっ
…なにかを踏んだ。
「ひぎゃっ!」
思わず叫んでとびずさる。
それは手だった。
草薮から男の腕が生えている…ように見えたが、よくよく見ると、ただ単に男が一人倒れているだけだった。
「なーんだ…って違う!
あのあのっ、大丈夫ですか?!」
声をかけかがんだ刹那、ガッと手首を掴まれた。
突っ伏すように倒れた男が顔を上げる。
そして
「腹が減って力がでない!」
堂々と言い放った。
「え…?」
いきなりの事に、硬直するアイリに、なおも男は続けた。
「なにか恵んでくれ!」
グルグル―と腹の虫がこだまする。
男は、びっくりするぐらいの美形だった。
なんて…なんて残念な人…
これがアイリの男への第一印象であった。
あまりにも可哀相になったので、アイリは自分の昼ご飯を分けてやることにした。
とはいっても、まだ子供のアイリの弁当は少ない。
とても男には足りないだろう。
そう思い全部あげようとしたが、男は断固拒否し、二人は仲良く(?)半分ずつ弁当を食べた。
「やぁ、生き返った!」
弁当を平らげると、男はようやく立ち上がった。
お腹がすいて立てないと、寝転がったままだったのだ。
そうなって、初めて男の腰に剣がある事に気付いた。
兵士さんかな?
でも見たこと無いし、こんな美形の人だったらみんなの噂になるし…
アイリの視線に気付いたのか、男は笑って言った。
「ちびちゃん、俺はこの領とは別な所から来たんだ。
知らない顔なのは当たり前だよ。」
「…私、ちびちゃんじゃありません…」
アイリは、ちびちゃんと言われたことにムッとした。
アイリは、小柄で髪は黒く、ぱちりとした目をしている。
よくうさぎやこりすみたいだね、と言われる可愛らしい少女であるが、非常に背丈の事を気にしているのだ。
「ここは、領主様の所有地です。外の方ならお引き取りください。」
ぷいっと横を向き、立ち上がったアイリの手を男がつかむ。
「なにをすねてるんだ?
…あ、ちびちゃん呼ばわりがいけなかったのか?
仕方が無いじゃないか、名前知らないんだし。
俺はユナカイト。ユナでいいよ。
君は?」
「アイリです…」
しぶしぶと名乗るアイリに、何故かユナは満面の笑みを向けた。
その時、遠くから、
「ユナ様ー!どこですかユナ様ー!!」
と、声が響く。
「ここだ。」
すっと、笑みは消え、短くユナが答える。
よく通る声だった。
声の主は、まだ少年であった。ユナの姿を見つけると、物凄いスピードでやってきて膝をつき頭を垂れた。
「報告します。
シュトーレン領主ギミルコーンを捕らえました。」
「え…」
アイリは唖然とした。
ギミルコーン…それはアイリが勤める屋敷の主であり、就任一年にもならないうちに、領民や使用人を恐怖のどん底におとしめた悪の領主。
圧政と悪行をしいた領主の呆気ない最後に、アイリは目をしばたくことしかできなかった。
ユナはロリコンではないです。(一応)
ただ可愛らしいものが好き…
アイリは、動物の赤ちゃんや子供のような愛らしさを持つ子です。