第71話 暴かれた真実
ハワイの深夜、湿り気を帯びた熱帯の潮風が、輸送機の巨大なハッチから重く流れ込んできた。
輸送機に搭載された八連装重ハイドロ・スクラムジェット。
最新鋭の物理法則を力業でねじ伏せる化け物エンジンが、わずか一時間半という驚異的な速度で、彼らをニューヨークの喧騒からホノルルの静寂へと運び去ったのだ。
キィィィ……と甲高い金属音を立ててタラップが降りる。
カインが重い足取りで一歩を踏み出すと、網膜の端にジュリアン中尉からの電脳指示が走った。
それは久しぶりに感じる、冷徹ながらもどこか「休息」を許容するような、独特の波形だった。
(色々と聞きたいことは山ほどある。しかしながら、お前たちの疲労も限界に近いだろう。明日の14:00に司令部まで来てくれ。それまでは自由時間とする)
(……了解だ、ボス。そうさせてもらう)
カインが呟くと、後ろからラズロが大きなあくびをしながら肩を並べた。
「へっ、あの仕事中毒の中尉が『休め』だってよ。相変わらず自分以外の部下には優しいこった」
「そうよ、ラズロ。あの人……中尉は目を離すと、すぐに自分を犠牲にしようとするの。多分、仕事で自分を痛めつけないと精神が持たないのよ……私と一緒……」
コンラートがランの方に手を置くと、ランはそっとコンラートの手に頬を寄せた。
中尉の指示は続いた。
(それぞれのヴィラにはすでに私物が届いているはずだ。……だが、一つ問題がある。カイン、命令だ。ヘーゼルを貴様のヴィラに泊めろ。……いいな、手は出すなよ)
(……は? 勘弁してくれ、中尉。別の宿泊施設は?)
カインが眉をひそめると、中尉はサングラスを直しながら冷淡に言い放った。
(見張りの必要がある。ここはUPLだ。彼女——いや、彼は軟禁対象ではないが、まだ機密を全て預けられるほど信頼できる確証もない。まずは今夜一晩、貴様の監視下に置く。)
(じゃあ……ラズロは……?)と食い下がるカイン。
(すまないな、ジェシカに空の上から怒られちまうからな)と含み笑いをしているラズロ。
その言葉に、一行から賑やかな声が上がり、それぞれの電脳が賑やかになっていた。
(中尉!私は、家に男を入れるわけにはいかないわよ!)と、ランが毅然とした態度で言い放ち、それにかぶせるようにコンラートが(僕は大歓迎だ! お風呂に薔薇を浮かべようか?生カモミールのバス・エキスもあるんだ。きっと君も気に入ってくれると思うよ。カモン、ヘーゼルちゃん!)と鼻の下を伸ばす。
間髪入れず、ランの鋭い平手打ちがコンラートの頬に炸裂した。
(中尉、コンラートは絶対に危ないですよ。このエロ、男女見境なくなってきたかしら?カイン、近づいてきたらベヒーモスで撃っていいわよ)とランの言葉にカインは真面目な声で答えた。
(分かった。死なないように肩に当てよう)
(バカヤロウ!20mm徹甲炸裂弾のタングステン弾芯に安定化ニトロ弾頭なんて掠っても死ぬわ!)
こうして混乱の中、カインは華奢で小さな少女の姿をした「元・海軍特務准尉」カールことヘーゼルを連れて、自らのヴィラへと向かうことになった。
ヴィラのバスルームから、シャワーの飛沫がタイルを叩く音が聞こえてくる。
カインはソファに深く腰掛け、プルタブを引き抜いた。
キンキンに冷えたビールが喉を焼く。
泥のように眠りたいはずなのに、電脳の端から「彼女」が騒がしく喚き散らしているのだ。
『クゥー、たまらないね、カイン!感覚共有って良いわね。酒の節約になるし二人で楽しめるし』
(……アリア、俺はもう寝たいんだが……感覚共有の眠気はどこにある?)
『うるさいわね! あんなに労働したんだから、これだけで足りるはずが無いじゃない!ビールお代わりよ!』
カインは溜息をつきながら、ヴィラ備え付けのサーバーからジョッキになみなみと黒ビールを注いだ。
(オーケー、分かった、分かったよ。……今日だけだぞ)
その時、バスルームのドアが開き、湯気と共にヘーゼルが出てきた。
オーバーサイズの白いシャツに身を包み、濡れた青髪をタオルで拭う姿は、どこからどう見ても可憐な少女にしか見えない。
だが、その瞳には逃亡生活で培われた鋭い理性が宿っていた。
「……あ、あの、カインさん。アリアさんと……お話ししてるんですか?」
「ああ。……筒抜けか?」
「いいえ、手を握らなければ聞こえません。私も一杯だけビールもらっても良いですか?」
「ああ、構わない、そこのサーバーから勝手に注いでくれ」
「ありがとうございます」
『クゥー、うまい!カイン。ペースが遅いわよ!あら、あれれ?もっと飲みたいはずだったのに……あらぁ……ダメかも……白ワインが……ムリね眠くなってきたわ………………くぅ……くぅ』
(驚いたな……アリアと寝るタイミングが共有されなかったのは初めてだ)
カインの電脳には、穏やかに眠るアリアの寝息が聞こえていた。
カインは苦笑し、グラスを掲げる。
ヘーゼルがカインを見て微笑みながら、「アリアさん、何か言ってますか?」と問いかけた。
「いや……寝たよ……初めてなんだ。寝るタイミングがリンクしなかったのは……」
「不思議ですね、一つの体、二つの精神……寝るタイミングが別だなんて……。もし……アリアさんを……」
カインは首を振りながら手をヘーゼルに向ける。
「いいんだ……俺はアリアを失うつもりはない。例え不健全だと……不自然だとしても、俺は一生を…………この電脳にいるアリアと一緒に生きていく。もし、それが叶わなくなれば、俺はただ死ぬだけだ」
ヘーゼルは少し考えた後、小さな声でカインに告げた。
「アリアさんは私の恩人です。私もアリアさんのためにできる事があれば、何とかしたいと思います。カインさん、もし、アリアさんのことで迷う事があったら、力にならせてください。こう見えても、私、MFCSパーツ開発技師将校でしたから……」
カインはベッドに仰向けで横になっていた。
あと五分でリブートが始まり、強制的に睡眠の世界に引き摺り込まれるはずだった。
ヘーゼルが話した言葉がカインの電脳でリフレインしていた。
「寝る前にアリアの声が聞こえないと言うのは初めてだな……」
UPLという場所は、どうしようもなく欠落した者たちが、最後に行き着く「家」なのかもしれないとカインは思った。
翌日14:00。
UPL本部のリブート・フロア。
ヘーゼルは全裸になると、自らサイボーグフルリブート用カプセルに入り、カプセルに満ちる液体の中、電脳の防壁を全て解いて、UPLに電脳の全てを開示していた。
彼女——カールの過去、養父ガブリエル中佐と開発してしまった『ヴェール』は、完璧なステルス・スキンの開発途中で生まれた望まれない副産物であった。
そしてアシュトン大佐からの逃亡。
大佐が蠍の構成員と疑うに足りる不審な行動の数々。
流れるログに偽りはなく、それは血の通った「真実」の記録だった。
中尉が、カプセルから出て服を着てからリブートフロアからの記録画像が表示されていたブリーフィングルームに姿を現したヘーゼルに、静かに問いかける。
「……君も、赤い蠍を倒す『牙』になれるか?」
「はい、喜んで。……中尉殿」
カールの瞳に迷いはなかった。
中尉は頷き、フロアの隅で抹茶団子を配っていた老医師へ視線を向けた。
「ドクター」
「分かってるよ、中尉。……さて、ヘーゼル。いや、カール。単刀直入に聞こう。……お前さん、男に戻りたいか? それとも、女として生きていくか?」
カールの瞳が大きく見開かれ、そして決意に満ちた。
「私は、アシュトン大佐の目から逃れるためだけにこの姿を選びました。男に戻してください。……あなたなら出来ますよね? ヘンリー・マクドガル教授」
「やめてくれ、その名前は……家族と共に死んだ……」
その名が出た瞬間、室内の空気が凍りついた。
ラズロが「えっ?」と声を上げ、メイシーがグミを噛む手を止める。
「ドクターのそんな名前を知ってるなんて、どうしてだ?」
カールはクスクスと、少女のような仕草の中に少年の不敵さを滲ませて笑った。
「ドクターを知らない換装医師なんて、この世界にはいませんよ」
「カール……ドクターFと呼んでくれんか」
老医師はモノクルを直し、どこか寂しげに、けれど慈愛を込めて微笑んだ。
「もったいないねぇ! せめてボクと一日デートしてから男に戻ってくれよ……こんな美少女を消すなんて……」
コンラートが冗談めかして言った瞬間、背後からランの電光石火の蹴りが炸裂した。
後頭部にめり込む乾いた音。
「おい! お嬢! 蹴りはシャレにならないぞ!」
「あら?手加減したわよコンラート。男女の分別くらいつけないと次は顔面に行くわよ」
「お嬢!お嬢の蹴りじゃ、ボクの美しい顔が消しとばされてしまうじゃないか!」
「大丈夫だ。ドクターに直してもらえばいい」
カインが冷淡に付け加え、殺伐としたフロアに束の間の笑いが漏れた。
三日後。
UPLのメインデスクには、四人目のオペレーターが座っていた。
黒髪を短く切り、本来の姿へと戻ったカール・ウェイ・レン准尉だ。
ボーイッシュな少女のようでもあり、中性的な少年にも見える——その危ういバランスの立ち姿こそ、彼が命懸けの逃亡の末に取り戻したかった自分自身の姿であった。
若々しく清潔な色気を漂わせつつも、コンソールを叩く指先の迷いのなさと、淀みなく流れる圧倒的な知識量は、彼が歩んできた過酷な経歴を雄弁に物語っている。
カインの隣で、ほのかは「たまごクマちゃん」のマグカップを両手で握りしめたまま、ゆでだこのように顔を真っ赤にしていた。
彼女の右側にはカインの放つ野性的な渋い色気、左には談笑し、笑っているカールの放つ水晶のような透明感。
その「美の挟み撃ち」に、彼女の処理能力は限界を迎えていた。
「な、何で……こんな美形ばっかり……。ここ、アイドルグループの楽屋より贅沢な空間ですよ……。私の脳は生身なのに、電脳がショートしそうです……」
その衝撃は、メイシーとノエルにとっても例外ではなかった。
「本当だよ……何これ。下手な乙女ゲーよりビジュアル強すぎんだけど。画面割れるわ……」
メイシーがグミを噛む手を止めて呆然と呟けば、チーフのノエルも手元の資料を落としそうなのを必死に堪えている。
「……中尉とコンラートさんだけでもお腹いっぱいだったのに。そこにカインさんとラズロさんが来て……仕上げにカール准尉だなんて……」
もはや三人は、血生臭い捜査機関にいるはずが、極上の美形男子たちが躍動するミュージカルの演台の上に放り込まれてしまったような錯覚すら覚えていた。
だが、会議の内容は甘いものではなかった。
カールが電脳に描いた図面がブリーフィングルームに映し出され、情報を整理していく。
「状況は繋がった。カールの養父、ガブリエル中佐の一家は、ラズロたちの元上司であり蠍の幹部だったストライカーに消された。ストライカーが中佐一家を組織への献上品にして、己の地位を盤石にするためだったわけだ……その理由は『絵画ロックの解除』。まずはロックをかけた本人に解除させようとした訳だ。しかし、ストライカーは失敗して彼らを殺してしまう」
中尉が足を組み替え、厳しい視線をホログラム画像に投げかけながら言った。
メイシーが新しいホログラムを展開する。
「世界中の組織が『絵』を探してたのは、『蠍』が『絵』を探していたから。蠍の本当の目的の『絵画ロック解除の鍵』なんて事は知らずに、『手に入ったら何か凄い事になる』なんて考えてたんだろ?まあ、蠍に恩を売ろうとか出し抜こうとか……そんなところか?」
ほのかが情報の滝を次々と整理しながら呟いた。
「そんな中で『組織の指示で絵を探していた』のはストライカーと、ゾディアック(十二宮)の一人、Cancerだったんですね。ストライカーから『絵の持ち主であるワンさんから絵を手に入れるように』指示されたのはロシアンマフィアのカシアン・ザブコフ……本物の画商ワンさんは、『絵』を守るために拷問されて殺されたんだ」
カインがアリアの記憶から知っている事を説明し始めた。
「カシアンは、失敗したから組織に消される事を危惧していた。『ヴェール』に繋がる『絵』を知る唯一の人物である『ワン・ウェイファン』になりすまして、『探偵』アリア・シズク・ウォーカーに依頼したんだ。『絵を探してくれ』とな。そうしている間にも、絵の争奪戦は激化していったんだろうな。俺とラズロも、そんなチンピラに画廊で襲われたんだ」
コンラートがケラケラ笑う。
「この二人を襲うなんて、哀れなチンピラだな。お嬢」
「まぁね、見たかったわ。とりあえず聞きなさいコンラート。それで『絵』は、カールの開発した生体擬態外装技術「ヴェール(Veil)」の根幹データの鍵なのよね?その都度スキャンしなければ開けられなくて、スキャンするたびに絵の指定された場所の微細な金属分布を鍵にしてるのね?」
カールが整った顔立ちに似合わず、顔をしかめながら答えた。
「その通りです。ランさん。そして、私の作った『ヴェール』を組織へ横流ししたのは、私の上司、アシュトン・ゾドリゲス海軍特務大佐。……奴はおそらくですが十二宮の一人であり、私の父の仇です。そして——」
カールがホログラムディスプレイに投影した、一枚の静止画。
そこには、以前、アンバーがカインの電脳へ送りつけてきた、「アンバーとキスを交わす『謎の海軍大佐』」の後姿が鮮明に映し出されていた。
それを見た瞬間、いつもヘラヘラと薄笑いを浮かべ、掴みどころのない余裕を崩さなかったコンラートの表情が一変した。
サングラスの奥の瞳が限界まで見開かれ、こめかみに青筋が脈動する。
どこが不具合を起こしているのではないかと疑いたくなるような小刻みな震えが彼を支配した。
カールは、そんなコンラートの異変には気づかぬまま、淡々と解析を続けた。
「……奴は、私の直属の上司でした。……私の電脳アーカイブに残っている、アシュトンのグラフィックおよび背面骨格データを、この写真にレイヤー(重ね合わせ)します」
カールは電脳で操作して、ホログラム上のアシュトンの背後に、ネオンブルーのワイヤーフレームで描かれた「別の男」の後ろ姿を重ねる。
(対象、アシュトン・ゾドリゲス。……アーカイブデータNO.A-113896284Gs-IPLと照合を開始)
メイシーがふと漏らす。
「おいおい……Aコードって事は本当に実在する軍属だよ」
ホログラムディスプレイの中で、二つの人影が不気味に融合していく。
画像から抜き出した骨格の比率、筋肉の付き方、微細な姿勢の癖……それらがナノ秒単位で計算され、符号していく。
(……第1次照合完了。……第2次照合完了。……バイオメトリクス・パターン、完全一致。)
視界の隅でデバッグコードが超高速で流れ、やがて真っ赤な文字がホログラムディスプレイに貼り付いた。
【Analysis Complete: Target Matches Ashton Zodriges】
(解析完了:対象はアシュトン・ゾドリゲスと一致)
【Confidence Level: 99.96%】
(一致率:99.96%)
99.96%。……それは、この世界において「同一人物である」という、冷酷なまでの断定であった。
「……その男。アシュトンと言ったか……おい、みんな、これを見てくれ」
コンラートが自身の電脳アーカイブから、これまで誰にも見せなかった「呪いの記録」を投影する。
そこには、彼の亡き婚約者イソルと、全く同じ男が同じ構図でキスをしていた。
カールがその画像を素早くスキャニングする。
「同一人物特徴確認一致率、100%」
無機質な合成音声が室内に響き渡る。
「何人かは……知ってるだろ。ボクのイソルは、ゴミ箱の中で発見されたんだ。超低温で凍結させられ、ガラス細工みたいに砕かれて……。遺体には握られたような手形があって、そこから急速冷凍が始まっていた。そんな芸当ができるサイボーグなんて……探していた……それはこいつだったのか……」
「そいつは……Aquarius(水瓶座)じゃ……!!」
ドクターFの声が、地の底から湧き上がるような怒りに震えていた。
モノクルの奥の瞳が、涙と業火に染まる。
「ワシの妻と娘を惨殺した……ワシの娘の成人式にな!……あのゾディアック……! アシュトン・ゾドリゲス大佐……! どこにいる中尉! こいつは!どこにおるんじゃああ!! 言わんかぁ!!」
「落ち着け、ドクター!」
中尉がドクターの肩を強く掴む。
「こいつらが殺す。地獄を見せて、肉の一片も残さず……むごたらしく殺すはずだ。……だから、今は落ち着け!」
ドクターは荒い呼吸を繰り返し、崩れ落ちるように椅子に腰掛けた。
「はぁはぁ……ふぅはぁはぁ……ふっ……はぁはぁ……すまない。取り乱した。……だが、言っておく。お前たちでは、正面から戦えば一秒も持たずに粉砕されるじゃろう」
ドクターは震える指で物理コンソールを展開するとAquariusの解剖データを広げた。
「ヤツの体は胸部と腕部の内部フレーム以外、全てが『液体金属(流体装甲)』で構成されておる。37度からマイナス150度まで自在に温度を変化させ、あらゆる物理衝撃を無効化する。中尉の刀も、ランの蹴りも、触れた瞬間に極低温の触手に捕らえられ、細胞ごと……メタルパーツごと凍結粉砕されるのがオチじゃ」
緊迫する空気の中、ドクターがブリーフィングルームの壁面に指を触れると、隠されていたハッチが静かにスライドした。
重厚なケースの中から現れたのは、淡い燐光を放つ二重構造のクリスタルシリンダーだ。
外層を満たすのは、エメラルドグリーンの触媒液。
そしてその中心部、真空封入されたインナーシリンダーの中には、まるでドクターの怨念を凝縮した血のような、禍々しい赤色のナノ粉末が封じ込められている。
「ヴェノム・ブレイズ。ワシがヤツの体に仕込んだ『D-アポトーシス(死の回路)』じゃよ。こいつが混ざり、ヤツの液体金属に触れれば化学反応を起こし、ナノ秒で全身の液体金属が2000度まで発熱する。さしものAquariusも、メインフレームとの結合を維持できず千切れ飛ぶじゃろう」
ドクターの目には、悲しみを超えた狂気が宿っていた。
「カイン、オヌシのベヒーモスなら流体装甲をぶち抜ける。だが、本命は右手の『オルトロス』じゃ。アリアの形見であるあのレーザーバルカンこそが、液体金属を蒸発させ、ヤツの隠れたフレームを露出させる天敵となる。中尉、その道が空いた瞬間、アンタの『雷切』をフレームへ突き刺せ。液体金属部に雷切は効かん」
「ラズロ、『ハデスクロウ』は使うな。極低温に触れれば、その形見の腕が砕け散る。……お前はカインを護れ。ラン、お前の『ギルタブリル』は多少は液体金属に有効じゃ。中尉の道を切り拓け。コンラート、お前のエネルギー体ブレードの『マルドゥーク』は刃の外縁部のみ、有効じゃ。刃体中央のニードルパーツに一瞬でも触れれば粉砕されるぞ」
ハワイの眩しい太陽の下。
ドクターの『対Aquarius』の指示は狂気を孕んでいるかのように止まる事が無かった。
それは妻子を……娘の成人式に家族を惨殺された男の、長年にわたる慟哭の結晶であった。




