表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/138

21話 魔法がとけても 3

 空港に到着して建物の中に入ると、見覚えのある家族が現れた。その姿を見た瞬間、溢れてきたものを止めることもできず、その場で立ち尽くしたまま目から涙がこぼれていく。


 わたしの涙腺はこのハワイでどうにかなってしまったらしい。龍介さんの涙もろさがうつってしまったみたい。


「アヤノ!」


 抱き着いてきたリサを受け止める。


「アヤノ、絶対またハワイ来てね」


「うん」


「わたし、待ってるから」


「……ん」


「アヤノ、泣かないのよ」


 少しだけ体を離して、リサの小さな顔を両手で包み込むと、嬉しそうに笑ってくれる。


「リュウと仲良くしてね」


「うん。リサもみんなと仲良くね。また来るからね」


「アヤノ、大好きよ」


「わたしも。リサのこと大好き」


 もう一度、リサの小さな体を抱き締める。小さく柔らかな温もりは、わたしの体も温かくしてくれる。


 潤さん、忍さんとハグを交わしていくと、順番待ちのように、優くんと徹さんが両手を広げて待ち構えていた。畑中さんまでその先に待っていて、視線を投げれば頷いてくれる。


 それを見た優くんは、わたしが飛び込むより先に、駆け寄るようにしてわたしをその長い腕の中に抱き締めた。


「綾乃、日本でも会おうね」


「うん」


 中々離してくれない優くんに笑いがこみ上げてきて、その胸を軽く叩けば、目の前の人は「いいじゃん」って言って、抱き締める腕に更に力を込める。


「優斗、次、俺の番」


「まだ待ってよ。徹さん、触りたいだけでしょ!」


「優斗だってそうだろ」


「優斗も徹も早くしてよ。俺も綾乃ちゃんとハグチュッチュすんだから」


「畑中、まじでやめろ」


 龍介さんが畑中さんの胸ぐらを掴んで、怒気を込めた声を響かせている。


 ハワイに来たときは一人であんなに心細かったのに、なんて賑やかな別れなのだろう。みんなの体は熱くて、ふざけているはずなのに、また涙が零れ落ちそうになる。


「綾乃」


「龍介さん」


 いつもの香りを胸いっぱいに吸い込めば、瞳に浮かんだ想いが溢れて、そのまま彼のシャツに吸い込まれていく。それは、甘く優しく、そしてひどく愛おしい、龍介さんの匂い。


 龍介さんの逞しい腕の中に抱かれて、わたしの体はすっぽりと収まっていた。この温もりから離れたくない、という抗いがたい感情が、涙腺を緩ませる。


「日本でなにかあったら、ちゃんと連絡してね」


 彼の声は、いつも通りの穏やかさを含んでいるけれど、その奥で微かに震えている。わたしの髪を撫でる手が、少しだけ力を込める。


「はい」


「やっぱり……なにかなくても連絡してね」


「はい」


「電話するから出てね」


 拗ねたような、けれど真剣なその口調に、思わず笑みがこぼれる。


「ふふ、はい」


 彼の大きな指が、少しだけ頬に残った滴を優しく拭い、わたしの髪をもう一度、ゆっくりと撫でていく。その指先の微かな震えが、ただ愛おしくて。涙は溢れていくのに、頬は緩んでいく。


 そして、わたしたちはゆっくりと離れてから別れた。ゲートが開き、搭乗口に人が流れ込んでいく。もう一度だけ振り向いて、瞼の裏に浮かべる。龍介さんの、切なげな、でも力強い微笑みを。



 飛行機が滑走路を離れる。機体が上昇するにつれて、窓の外の景色はみるみるうちに小さくなっていく。鮮やかな緑の島。エメラルドグリーンからコバルトブルーへと色を変える、どこまでも広い海。そして、すべてを包み込むような、オレンジ色の夕陽。


 わたしはシートに深く背を預け、静かに目を閉じた。次に瞼を上げたら、そこはもう戦場だ。魔法は解けた。でも、わたしの胸には、消えない熱が残っている。


 ——龍介さん。 わたし、強くなるから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ