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2話 金髪タトゥーの小麦色 2


 重いスーツケースを引きながら、幕張から空港行きの高速バスに乗った。車窓を流れる見慣れた景色も、今日はどこか違って見える。


 成田空港に降り立つと、国際線ターミナルの喧騒が全身を包み込んだ。チェックインカウンターで搭乗手続きを済ませ、重い荷物を預け終える。ふと時計を見ると午後五時。出発時間は午後九時ちょうど。


 その飛行機に乗ったら、十日間ハワイに一人きり。卓也がいればレストランも買い物も困らないけれど、全てを一人で過ごさなければならない。拭い切れない不安に引きずられるように、立ち寄った本屋でガイドブックと目についた数冊の本を一緒に購入した。


 ラウンジがあるからと案内されたものの、どう過ごせばいいのかわからない上に色々な人が話しかけてくるから、さっさとそこを後にして、ゲート前の椅子に座った。家族連れに挟まれると、なんだか安心する。



 ゲートが開いて、飛行機に乗り込むと、初めて見る座席の豪華さに思わず声がでた。


「ぅわ……」


 まるで秘密基地のようなシートはダークレッドに染められて、高級感を漂わせている。


(わたし、大丈夫かな。もう、座っていいんだよね? あ、なんか後ろの人が来たみたい。荷物早くしないと邪魔かな)


 周りの様子をちらちらと観察するのを終わりにして、慌てて本を一冊だけ取り出す。そして、バッグを上の収納棚に入れようと持ち上げたその時、背中に衝撃を感じた。


「あっ!」


 誰かとぶつかったんだ。一瞬の内に状況を理解するものの、ふんばりは効かなくてそのまま前に倒れ込みそうになる。けれど、わたしの体は倒れることなく、今度は別の方向に強く引き寄せられた。


 なにかに翻弄されるように、ぐるんぐるんと体が色々な方向に行ったかと思えば、最後に行きついたのは甘い香りのする広い胸。


「……っと。大丈夫? 荷物、あげましょうか?」


 頭上から降ってきた、低く柔らかい声。見上げれば、きっと隣に座る人。黒いベースボールキャップを浅めに被り、マスクをしている男性の姿があった。目元しか見えない容貌に、わたしの中で警戒心が高まる。その浅めの帽子に意味はあるのか、と。


「……ありがとう、ございます。あっ」


 ぎこちなく小さな声で言葉を紡ぐと、荷物がいとも簡単に持ち上げられた。


 少しだけ袖が捲られた右腕の内側には、黒い羽根のタトゥー。そして、耳にはピアス。この甘い香りは、香水だろうか。タトゥーのある、顔を隠した人間がビジネスクラスにいる。絶対に普通の人じゃない。えらい飛行機に乗ってしまった。

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