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2話 金髪タトゥーの小麦色 1


 その夜に見た夢は、とても懐かしいものだった。二、三歳のころだっただろうか。毎日のように母に読み聞かせをしてもらっていた、シンデレラの絵本。その日は残業で帰ってこない母の代わりに一回り歳の離れた兄が読み聞かせをしてくれたのだ。


 幼い頃のはずなのに、兄の言葉が鮮明に再生される。


 ——「大好きだよ。綾乃はね、兄ちゃんのお姫様。でも、きっといつか兄ちゃんよりもカッコいい王子様が綾乃のことを迎えにくるよ。ヒーローみたいにカッコいい王子様だよ」


 ——「テレビに出てくるライダーってわかるだろ? 強くて優しい王子様だよ。だから、それまでは兄ちゃんが綾乃のことを守るからな」



 兄の大きな手のひらが、わたしの頭を優しく撫でる。その温もりに安心して、大きく息を吸い込んだ瞬間——びくり、と体が跳ねた。


 目を開けると、そこにあるのは見慣れた無機質な天井だけ。頬を伝う涙の熱さだけが、今の夢が幻だったことを教えている。天井は朝の陽ざしを反射しているのか、微かに明るい。


 自室から廊下に出れば、目の前にはドアがひとつ。部屋の主であった兄は、いない。毎晩、わたしに絵本の読み聞かせをしてくれた優しい母も。そして、それを嬉しそうに穏やかな眼差しで見守ってくれていた父も。


 わたしに残されたのは、家族で過ごしたこの家。ベランダに出れば、遠くには検見川(けみがわ)の浜。水平線がうっすらと見える。今日は少しだけ風が強い。この地域特有の海風が、潮の香りと共に海岸から二キロ離れたこのマンションにも届く。


 天井まである壁一面に備えられた食器棚から、透明なグラスを取り出して炭酸水を注げば、気泡が弾ける高い音が耳に届く。その冷たい液体を一気に喉に流し込めば、胸の奥に冷たさが染み渡る。


「よし、行きますか」


 一度、大きく伸びをして、わたしはすぐに家を出た。

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