表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/138

15話 刹那の恋は瞬いて 3

 龍介さんはわたしをソファに座らせると、自分はピアノに向かい椅子に浅く腰掛ける。そして、鍵盤を軽く触りながら微かに歌い、「よし」と一言呟いてからこちらを見た。観客はわたしだけ。お辞儀をする龍介さんに同じくお辞儀を返して、姿勢を正してみる。


「では、聴いてください」


 低く囁かれたその声に、魔法をかけられたように、心臓がじんと疼く。


 ピアノの音が、空気の振動となって肌に伝わる。それは優しくて、でもどこか泣きたくなるような切ない旋律。まるで、言葉にできずに揺れ動いている気持ちを、彼が掬って音に変えてくれたみたい。


 鍵盤の上で軽やかに動く指。楽譜を見る龍介さんの横顔。美しくて眩しいのに、少し痛いくらいに、喉の奥が熱くなる。胸が締め付けられるように痛い。


 あまりにもキラキラしている曲だからだろうか。それとも、本当は切ない曲だからだろうか。まだ歌詞がついていないその曲は、わたしに疑問を残していく


(——龍介さん、これはどんな曲ですか?)


 最後の音が響いて、そして龍介さんが短く息を吐く。


「……どうだった?」


 胸がきゅうきゅう鳴りました、なんてバカみたいなことは言えないから、一生懸命言葉を探す。でもトクトクと動いている心臓と違って、どうやら頭は停止しているみたい。


「綺麗で眩いというか。胸が高鳴るんですけど、ちょっと切なくもなります」


 結局、月並みな言葉しか出てこない。もっと伝えたいことがあるはずなのに、それをどう伝えたらいいのかわからない。でも、龍介さんは穏やかな声で「ありがとう」と口にした。


「綾乃ちゃん、詞とか作ったことある?」


「作詞ですか?」


 アーティストというものは、突拍子もないことを言い出すものなのか。そんな技術をわたしが持ち合わせているはずもない。わたしは、自分の顔の前で手を横にふる。なんなら首も一緒に。


「いやいやいや! できません」


「大丈夫だって。一緒に作ってみようよ。ね?」


「未知の世界すぎます。思いつくかな……」


「……俺はなんか言葉にならなくて、気持ちばかりが先走ってる感じ。あんまりこんなことないんだけど」


 ピアノの音を響かせて、その鍵盤を見つめたまま彼が呟く。


「綾乃ちゃんと、作ってみたい」


 その言葉は、まるで告白のように、甘く、切なく胸を貫いた。耳に残るメロディーと、わたしを真っ直ぐに射抜く彼の瞳。断る理由なんて、どこにもなくて、わたしは吸い寄せられるように、深く頷いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ