14話 陽だまりの音 3
そして、息を吸い込んだ音が聞こえたかと思うと、すぐ近くで龍介さんの歌声が響いた。低くて柔らかいその声と龍介さんの少し高い体温。声の振動が直接伝わってくる。指が、震える。甘い、というより、脳が痺れるような感覚。眩暈がする。幸せすぎて、胸がいっぱいで、息がうまく吸えなくて、視界が滲む。
彼といると、わたしの感情の制御がまったく効かなくなる。
歌う彼と何度も目を合わせて、その度に微笑む。木漏れ日がリビングに降り注ぐ。風が吹き抜ける。そして、二人で奏でる音と彼の歌声に包まれる。
彼といると、笑っているはずなのに、なぜか涙が溢れそうになる。穏やかで温かく満たされて、初めてのようでいて懐かしいような不思議な感覚。この一瞬があまりにも眩しくて目が眩みそうになり、胸の高鳴りに手が震えそうになる。そう、一瞬一瞬が眩しい程に輝くから、戸惑いと喜びが一緒に訪れる。
先ほどと同じように、最後の音が優しく名残惜しそうに響いて、曲の終わりを告げた。
「……弾けたね」
龍介さんが挙げた右手に、自分の左手を合わせる。パチン、と乾いた音が響く。本来なら、そこで離れるはずの手が、重なったままゆっくりと下ろされる。離したくない。その想いは、わたしだけじゃないのかもしれない。
ぎゅう、と手のひらに力が込められた。力を込めたのは、わたしか龍介さんか。確かめる間もなく、彼の熱い指が、わたしの指の隙間を埋めるようにして滑り込んでくる。言葉よりもずっと強いその熱に、わたしは息を呑んだ。




