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13話 思い出が溢れ出すとき 2

 気が付けば、わたしの瞳からは涙が零れ落ちていた。お兄ちゃんが教えてくれた、ブラックアンドの歌が響いている。次から次へと溢れて、視界をぼやけさせる液体はとめどなく頬を伝っていく。


 お兄ちゃんのことを誰かに話すときは、いつだって普通のことのように話してきた。「出て行っちゃたんだよね」と。「戻ってこないんだよね」と。


 お父さんやお母さんの死だってそう。「大丈夫。わたしは平気。人は死ぬものだから」そう、普通のことのように話せば、笑って話していれば、なんてことはない。その感情がいつか本物になる。


 わたしは、強い。わたしは、誰かがいなくても……ううん、誰もいなくても、生きていける。生きていけるはず。そう思っていたのに。そうして追いやったはずなのに——。



 わたしは音を立てないように、その場から離れて外に出る。木々が並ぶ庭を通り過ぎ、砂浜を踏みしめて歩いていく。空を見上げれば、月と星たちが力強く光り輝いていた。光が滲んで更に煌めく。


 砂浜に腰を下ろし、再び空を見上げた。そこには数え切れない程の星が存在し、一つひとつが強い輝きを放つ。東京では見られない星の瞬き。そして耳に届くのは、波と風の音だけ。目を閉じれば、残っていた涙が頬を伝っていく。


 すると、遠くの方から砂を踏みしめる音が聞こえた。そちらに視線を向けると、黒いシルエットがこちらに向かってきている姿が見えた。顔が見えなくても、誰かわかる。やっぱり、優しすぎるんだと思う。放っておけばいいのに、知らないふりしていればいいのに、こうして来てくれる。


 ほら——近くまで来たら、龍介さんの顔が見えた。


「何してるの? 夜は一人で出ると危ないよ」


 その顔は、いつもの穏やかな彼とは違っていた。 眉間に深く皺が寄り、唇が固く結ばれている。まるで、彼自身が何か痛みをこらえているような……そんな表情(かお)に見えた。


「すみません。海の音が心地よくて」


「……そっか」


 そう言って、龍介さんはわたしの隣に腰を下ろす。


「……泣いてる気がしたんだけど、俺の気のせい?」


「気のせいです、と言いたいところですけど、誤魔化せないくらい鼻声ですね」


 自分の声に笑ってしまう。


「聞いても大丈夫?」


 いつもなら、他の人なら、わたしは笑顔で話し出しているところだ。こんな人生だけど、別になんてことはない。結構色々あったんですと笑い話にしてしまえばいい。


 でも、こちらに向けられた彼の瞳に視線を合わせれば、その真っ直ぐな眼差しにとらえられて、取り繕うための言葉は喉の奥で詰まって声にならない。息を吸って、大きく吐いて。そして龍介さんの顔を見て、大きく一度頷いた。


「龍介さんが歌ってくれた曲、兄がわたしに教えてくれた曲だったんです。わたしも兄もブラックアンドが大好きで」


「そうなの? 俺もすごい好きだった」


「……龍介さんの歌で、兄のことを思い出しました」


「……お兄さん、どうかしたの?」

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