11話 王子様はヒーロー? 4
「ありがとうございます」
「元気そうで良かったわ」
「龍介さんがまた助けてくれたんです。すぐに来てくれて、オーナーと話して全部……」
「リュウは綾乃の王子様ね」
「へ?」
王子様――。忍さんのその言葉に、頭の中には、大きなクエスチョンマークが浮かんだ。
「王子様……?」
思わず復唱してしまう。
「そうでしょ?」
「忍、王子様って感じは龍介にはないんじゃない?」
「……そうね、確かにないわ」
「あんなにガラの悪い王子様は中々いないだろう」
「じゃあ、ヒーローってところでどう?」
「……潤さんも忍さんもひどいですね」
確かに、龍介さんはいつも困っているときに助けてくれる。まるで、絵本や童話に出てくるヒーローのように、危機一髪の状況で颯爽と現れ、すべてを解決してくれる。
今回の件だってそうだ。オーナーに理不尽に言い寄られて追い詰められていたとき、龍介さんは一報を聞くやいなやすぐに駆けつけ、冷静沈着な対応で事を収めてくれた。その姿は、まさに「白馬の王子様」と呼ぶにふさわしいのかもしれない。
でも、「王子様」という単語は、わたしにとってあまりにも突飛で、くすぐったい響きを持っている。そんな内心の葛藤を知ってか知らずか、忍さんは面白がるように微笑んでいる。
「だってそうじゃない。いつもピンチの時に、さっと現れて助けてくれるんでしょう? まさに王子様のお仕事よ」
「でも……」
そう言いかけたところに、龍介さんが戻ってきた。
わたしの喉の奥でひゅっと音がなる。
頭にタオルをかぶったままの彼は、白いシャツにベージュのパンツを身にまとい、ゴールドの指輪とバングルが小麦色の肌によく映える。本当に格好いい。非の打ち所がないくらいに魅力的だ。格好はいいんだけれど、その姿には、大きな問題がある。
暑いからなのか、それとも単に無頓着なのか、彼が羽織ったシャツのボタンは、一つも留められていない。露わになった小麦色の胸板。昨日、指先で触れたタトゥーが、大胆に広がっている。
視線を、逸らせない。鍛え抜かれた胸筋から、彫刻のように陰影を刻む腹筋へ——。 まるで美術品でも見るかのように、わたしの目はその完璧な肉体美に釘付けになっていた。
「やっぱり王子ではないな」
「そうね、王子様というイメージからは、だいぶかけ離れているわね」と、忍さんは潤さんに深く同意するように頷く。
「なに、王子って」
龍介さんは、訝しげな顔で聞いてきた。
「いいの、リュウはどっちかっていうと、白馬に乗った王子様っていうより、困っている人を助けるヒーローだっていう話」
「なにそれ。どういうこと?」
龍介さんは、相変わらず怪訝そうな顔をしている。
「っていうか綾乃、あなた耳まで真っ赤よ」
忍さんが呆れたように、そして少し意地の悪い笑顔で、わたしの頬を指差した。熱い視線を龍介さんの体に送っていたことを指摘されたような気がして、思わず顔を覆う。
「だって……りゅ、龍介さん、あの、早めに閉めてください」
「え?」
目を両手で覆いながら訴えると、潤さんと忍さんの笑い声が聞こえた。
「綾乃、あなた可愛いわね! これくらいで真っ赤になるなんて」
「だって。龍介さんみたいな身体、初めて……見て」
三人の笑い声に混じってリサの笑い声まで聞こえてくる。龍介さんは笑って、わたしの頭を撫でた。
「ごめんね」
「わ、わたしっ……そろそろ食材切っておきますね!」
わたしはその手から逃げるようにして、キッチンに向かった。




