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1話 偽りの王子様 2

 わたしの耳に届いてくるのは、軽やかな足取りの音。そして視界の端に映るのは、少しずつ近づいてくる女の子。


「あ、や、の、さんっ」


 日本人離れした真っ白な肌、ヘーゼル色の瞳。オーストリア人の父を持つ彼女は大きな瞳をこちらに向けて、わたしの様子を(うかが)っている。


「最終日までお仕事してるなんて、綾乃さんって感じです!」


「栞ちゃん……帰ったんじゃなかったの?」


「綾乃さんを待ってたんですよ! 一向に出てこないから、待ちくたびれました」


「え、そうなの? ごめんね……で、本当の用事は?」


 わたしの言葉に「バレたか」と、頬をまさに薔薇色にさせて可愛い顔で笑っている。


「チケット! 余っちゃったんですけど、ライブ行きません?」


「……ライブ?」


 彼女に顔を向ければ、言葉よりも先に膨らませた頬で返事をされた。


「また興味なさそうな顔してぇ」


「なさそうじゃない。な、い、の」


「Legacy好きな人いないかな」


「いるよ、社内にきっと。探してごらん。はい、行ってらっしゃい」


「冷たい。綾乃さん、冷たいですからね、それ」


「栞ちゃん、もう22時ですよ」


「4枚も余ってるのに……」


 いつもどおり、わたしの言葉はないものとされた。


 それにしても、なぜそんなに多くのチケットを買ったのか。また無駄遣いをしてというわたしのお小言に、彼女は良い席が欲しかった、みんなが当たると思わなかった、と両の拳を上下させながら訴える。


「綾乃さん、いつになったらLegacy好きになってくれるんですか」


「いつだろうねぇ」


「もう。あ、今日のミュージックチャンネルに出るので見てくださいね」


「わたしがテレビ見ないことぐらい知ってるでしょ」


「テレビくらい買ってくださいよ」


「買ったって見ないもの」


「Legacy好きになってくれたら、一緒にライブに行けるんですよ?」


「わたしの好みは、薄い顔の色白王子です。みんな黒くてサングラスかけてて、色白王子とは程遠いのです」


「確かにRYUは綾乃さんの好みとはかけ離れていますけど、YUTOなら色白ですよ」


「はいはい。愛しのユートサマね」


 わたしの気のない返事に彼女は頬を膨らませて不満気だ。


 そういえば、今朝の電車の中刷り広告に、Legacyのボーカルが体調不良と出ていた。声が出ないのは、精神的に病んでいるからだとかいう見出しとともに。そして、千葉の薬物厚生施設にボランティアで通っているのは、自身が薬物をしていることに対するカモフラージュではないかとも書かれていた。


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