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10話 揺らめく心 1

 眩しい程に輝いていた太陽が傾き始めた頃、わたしたちは一階に戻り、サンセットを窓越しに見ながら、夕飯を作って食べた。


 片付けが終わると、龍介さんはソファに深く体を沈めてテレビをつける。海外のアーティストの曲が流れ出して、龍介さんがそれに合わせて微かに口ずさんだ。バルコニーで話しているときに、音楽が好きだと言っていたことを思い出す。


(そういえば、飛行機の中でも龍介さんはイヤホンで何かを聴いていたな)


 このレンタルハウスにはピアノもギターも置いてあり、それを弾くこともあるらしい。彼は本当に音楽が好きなのだろう。


 窓の外はすっかり陽が落ちて、暗闇に包まれている。テーブルの上ではキャンドルが焚かれて、間接照明とともに部屋を優しく照らしてくれる。わたしはその火が揺らめく姿を見つめた。


 部屋の中に風と波の音が響く。その音に耳を澄ませながらも、どちらからともなく質問を投げかけて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。二人でお互いのことを少しずつ知る作業はぎこちないけれど、どこか心地良い。


「そうだ、綾乃ちゃん」


 龍介さんが、ふいにその名前を口にする。彼は、温かい飲み物の入ったマグカップを唇に当てながら、わたしに優しい視線を向けた。


「風呂、好きに使ってね。俺は、部屋にあるから」


「あ、ありがとうございます」


「あ、ありがとうございます」


 わたしは、思わず胸に手を当てて、息を漏らした。


 そういえば、この別荘には今、龍介さんとわたしの二人きりだったのだ。残りの部屋に泊まるはずの住人、つまり、明日のバーベキューパーティーに参加する友人たちは、まだ到着していないらしい。


 昨日までの一人ぼっちの心細さや不安は、もうない。この広い家には、今、すぐそばに、龍介さんがいる。


「あ、あの、じゃあ、お風呂」


「ん」


 声が上ずってしまったわたしに対して、彼はゆったりとした低い声で返事をする。それがなんだか居たたまれなくて、喉が詰まってもいないくせに咳払いを一つ、二つ。


「お風呂、行ってきます」


「はい、行ってらっしゃい」


 意識をし始めてしまうと、全てが態度に出てしまう気がして、わたしはほとんど小走りでバスルームに向かった。ドアを閉める直前に、彼の視線がまだこちらを追っているような気がしたが、振り返る勇気はない。


 バスルームの鍵をかけ、大きく息を吐く。鏡に映る自分の顔は、案の定、ほんのりと色味を増している。

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