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8話 シンデレラを守るのは 2

 速い鼓動を落ち着かせるように、何度も深呼吸をする。持っていたスマホを操作して、卓也の名前を表示させ、すぐに電話をかけた。何度も響くコール音。それでも卓也は出てくれない。


 スマホを耳から離せば、小刻みに震える自分の手が視界に入った。同じように震えるもう一方の手で擦っても、中々それは止まってくれない。


「なん、で……」


 言葉は続かない。嗚咽が零れそうになるから、爪が食い込むほどに手を握りしめる。今は泣きたくない。


 夕方までにどうにかしなければいけない。ケンが来ると言った夜までにはここを離れたい。スーツケースにすべての荷物をまとめる。黒い帽子を被ると、すぐに家を出て、タクシーでワイキキに出る。



 多くの観光客で賑わっているカラカウア通りを歩き、いくつかの店を巡っても、商品をなんとなく眺めているだけ。何も買わないまま、ウインドウショッピングに歩き疲れて、チーズケーキのカフェに入った。


 ウッディで少し暗い店内。テラス席の方は差し込む光で眩しい程に明るい。テラス席に腰を下ろし、有名なチーズケーキとカフェラテが置かれたテーブルをぼんやりと見つめた。


 こんなにおしゃれな店で、可愛くて素敵な料理が目の前にあるのに、わたしの心は落ち着かないまま。トレーニング中は飲まないとトレーナーと約束していたカフェラテを無意識で頼んでしまうほど、わたしはぼうっとしているらしい。でも、そのコップに刺さっているストローに口をつけて、中の液体を喉の奥に流し込むとやっと深く息を吐けた。




 すると、スマホが震えて「田辺卓也」からの着信を告げる。急いで通話をタップすると、「綾乃、どうしたの?」と気の抜けた卓也の声。


「卓也。あの、あのねっ」


 上手く説明ができずにいる自分をどこか他人事のように、どうしてこんなに慌てているのだろうと思う。けれど、溢れる言葉はとめどなく零れ落ちて、そしてそれは受け止められることはなかった。


「オーナー誘ってきたの?」


「うん、わたし……」


「行けばいいじゃん」


 ああ、いつもの卓也の声だ。有無を言わせないような冷たい声。突き放すような、面白がるような言い方は、今までだって何度も聞いてきた。そして、電話のむこうから女性の声が聞こえてくるのもいつもと同じ。


「今、出張中なんだよね?」


「終わったから別のところに来てるよ。俺、これから食事に行かなきゃだから。綾乃ももう大人なんだから、行けば? 金持ってるよ、きっと。豪遊できるって」


 こんな時、わたしはいつも決まってこう答える。「そうだね」と。怒りとか悲しみとか寂しさとかの感情が全部消えていく自分を感じながら、わたしはただそう答えて微笑んだ。


「じゃあ、また」


 通話を終え、短く息を漏らす。


 一人だ。ハワイでも日本でも変わらない。もう大人だから、こんなこと何でもないと思えばいい。もう大人だから、一人でも平気。もう大人だから。

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