第7話 リベンジマッチ
本日2本中2本目の更新です!
仁達は〝ライタスの森〟に入っていた。
ライタスの森とは、大陸の中央に位置する森で、さらにそのド真ん中には世界樹がそびえ立っている。
森はサルビーア領内にも侵食しており、森を境にして北側はイーサ、南側はジーアだ。
ちなみに昨日、仁が入った森がライタスの森である。
仁達がライタスの森に入った理由は1つ。
ライタスの森に隠れ住む、闇の賢者・レギアに会いに行き、彼に仁のステータスを詳しく調べてもらうためだ。
彼は、長い時間を生きていて豊富な知識を持つ賢者で、テレスを含む5人の師匠でもある。
レギアは彼女が転生者であることを知っているようで、信頼されている人物のようだ。
すると先頭を歩いていたシェイカが足を止め、振り向きながら口元に人差し指を当てている。
静かにしろというジェスチャーだ。
「前方に魔物がいる。ゴブリンが2体とホブゴブリンが1体です」
「本当ね。あら?あの2体・・・それぞれ顎と腹に傷があるわね・・・」
確かにぼんやりと人影が見えた。
遠すぎて全く分からないが、それが見えるということはかなり視力が良いのだろう。
仁も目を凝らしてみる。
(あれ〜?俺、こんなに視力良かったっけ?)
魔物との遭遇により、仁達に緊張感が走る。
ホブゴブリンと呼ばれていた大きい奴は、ゴブリンがそのまま成長したような見た目。
ゴブリンの身長は約120センチ程度。
ホブゴブリンの身長は約160センチ程度。
ただ、ホブゴブリンは筋肉ムキムキで、棍棒ではなく斧を持っている。
(オー、ノー!コイツはヤバい。危なすぎる!)
ホブゴブリンが放つ殺気に少し気圧されてしまった仁だったが、2体のゴブリンを見て冷静になった。
(あれ?アイツらの傷・・・よく見ると小さい奴らは、昨日蹴っ飛ばした奴らじゃないか!)
昨日はゴブリンが3体いた。
そのうちの1体がいないことは気になるが、おそらく死んでしまったのだろう。
(じゃあホブゴブリンとかいうアイツも、あの斧さえどうにかすればあっさり勝てそうだな)
仁は何故か自信に満ち溢れており、自分が倒す気でいた。
しかし、テレス達が仁を守ろうと前へ出た。
「ちょうどいいわ。仁くんに私達の魔法を見せてあげる」
「それはいいですね。ジンさんは光属性に適性があるようですし、光属性の攻撃魔法を見せてあげましょう」
テレスが提案し、ケイトがそれに賛成した。
ケイトも光属性魔法が使えるようで、仁に見本を見せてくれるようだ。
そして、テレスとケイトはホブゴブリン達に向けて杖を構えた。
その時だった。
「いや、アイツらとは俺がやります」
突然、仁が声を上げた。
全員が驚いたような顔をしながら、仁のほうを見る。
「え!?」
「アンタには無理よ!」
「危ないですよ・・・」
「3体もいれば立派な群れだ。ゴブリンとはいえ手強いぞ」
「ホブゴブリンもいますしね・・・」
まだ魔法が使えないから、反対されても仕方がないだろう。
「俺は昨日、ゴブリン3体に勝ちました。あの2体のゴブリンは俺に負けた奴らです」
「え!?でも、残りの1体はどうしたの?」
「首の骨を折ったので、あのまま野垂れ死んだと思います」
仁の言葉を聞いても、5人は信じられないといった様子だ。
テレスに関しては若干引いているようにも見える。
「嘘ね。女の子の前だから見栄張ってんのよ」
マリルネからは嘘つき呼ばわりだ。
「でもホブゴブリンとは戦ったことないんですよね?ホブは強いですよ?」
アマンダも心配してくれているようだ。
でも・・・、ちょっと面倒くさくなってきたな。
「とりあえず俺が戦います。戦ってみてヤバそうだったら、怪我する前に逃げます」
仁は逃げる気は全くない。
だが、怪我する前に逃げる〟という条件で、5人を無理矢理納得させた。
「これは私の短剣だ。長剣もあるけどキミの腕力だと重くて使いこなせないだろう」
仁はシェイカから短剣を受け取り、軽く準備運動をした。
そしてホブゴブリン達の前に出る。
「リベンジマッチ、受けてやるよ」
仁はニヤリと笑っていた。
「ここは日本のように平和な世界じゃない。危険と隣り合わせの世界だということを学んでほしい・・・」
「危なくなったらすぐ助けに入りましょう」
「ケイトは【治癒】の準備をお願い!」
テレス達は、いつでも助けに行けるように準備しながら仁を見守ることにした。
◇
仁とホブゴブリン達の戦いが始まろうとしていた。
すると、仁はシェイカに借りていた短剣をすぐに捨てた。
それを見て、その場にいる全員が驚く。
「ちょっと!何してるの!?」
ホブゴブリン達も不思議そうにしている。
仁は手招きしながら、昨日負かしたゴブリン2体を挑発する。
「かかってこいよ」
言葉は通じないが、ナメられていることに気付いたゴブリン達は2体同時に襲いかかってくる。
「ギャア!グギャギャギャギャギャ!!!!」
昨日より気合いが入っているようだ。
2体のゴブリンは連携を取り、仁を左右から挟むように走って来る。
2体はそのまま同時に棍棒を振り上げた。
仁は動かずにジッとしていたが、棍棒を振り上げた瞬間に素早く動く。
そして、右側から向かってくるゴブリンの土手っ腹に強烈な『トラース・キック』を放つ。
昨日よりも速くて鋭い。
悶えるゴブリンの背後に素早く回り込み、背中に向けてさらに『トラース・キック』を打ち込んだ。
蹴られた衝撃でもう一方のゴブリンを巻き込みながら倒れ込む。
仁は巻き込まれたゴブリンを無理矢理起こしつつ、ゴブリンの頭を自身の両足で挟み込み、両腕で胴体を抱えながら持ち上げる。そして尻餅をつくように倒れながら、ゴブリンの脳天を地面に打ちつける。
この技は『パイルドライバー』だ。
この『パイルドライバー』もプロレス技で、素人は絶対にやってはいけない危険な技だ。
相手が素人なら尚更危険だ。
良い子は真似しないでね♡
あっという間に2体のゴブリンを倒してみせた仁に、テレス達は言葉が出ない。
さすがのホブゴブリンも、仁の戦闘力に驚いているようだ。
「次はお前か?ホブゴブリン」
ホブゴブリンは、仁とゴブリン達の戦いを動かずに黙って見ていたがようやく動き出した。
ゆっくりと歩き始めたホブゴブリンは、仁から10メートルほど離れた位置で立ち止まる。
そして手に持っていた斧を投げ捨てて、ニヤリと笑った。
「グギギ・・・」
言葉は通じないが、心は通じ合っているような気がした。
魔法や武器を使わずに戦う仁の姿を見て、自分も素手で戦いたくなったのだろう。
「いいねぇ・・・好きだぜ?そういうの!」
「グギャギャギャ!!」
「気合い入れていくからな!」
両者は同時に走り出した。
どちらも楽しそうな表情をしている。
そして仁の膝とホブゴブリンの拳がぶつかり合った。
互角だ。
仁はまだ5歳。
身体もかなり小さい。
それなのに人間の大人くらいに大きいホブゴブリンと互角の力を持っている。
そのことにテレス達は疑問を抱く。
「あの子、なんであんなに強いんだ?」
「どこからそんな力が・・・」
「強化系スキルも持ってませんし、魔法や武器も使ってないですよね・・・」
「あれも前世の経験ってやつなの?」
「いや、そんなはずはないけど・・・」
テレス達がそんな話をしている間にも、仁とホブゴブリンの戦いは続く。
最初は互角に見えていたが、仁は徐々にスピードを上げていた。
どんどん速くなる蹴り技にホブゴブリンは対応できず、ダメージを負い続ける。
さらに、ホブゴブリンの攻撃は全て受け流されて、仁に全く効いていない。
仁の身体が小さい分、攻撃の的も小さい。
仁はそれを分かっていて、攻撃を上手く受け流しているようだ。
焦ったホブゴブリンが不用意に繰り出したパンチを、仁は狙いすましたように受け止めつつ両手で掴む。
そしてその右腕に飛びついた。
仁がまとわりつくことで右腕は重くなり、ホブゴブリンはそのまま前に倒れ込む。
うつ伏せになったホブゴブリンから一旦離れた仁は、ホブゴブリンの頭を踏みつけながら挑発した。
「オイ!どうした!?早く立てよ、オラ!!」
冷たい視線で見下ろしながら怒鳴りつける。
ラ行は巻き舌だ。
ホブゴブリンの頭を何度も踏みつける仁の姿を見たテレスは、恐怖を覚えながらも叱りつける。
「何やってるの!早くトドメを刺しなさい!」
テレスの声が聞こえた仁の動きがピタリと止まる。
仁は鬱陶しいといった様子で、威圧感を放ちながら無言で振り向いた。
「「「「「っっっ!!!」」」」」
「これって【威圧】!?」
仁はテレスの忠告を無視し、ホブゴブリンの頭をペチンペチンと叩く。
仁は完全に小馬鹿にしている。
ホブゴブリンは怒りに震えて、頭の血管が今にも破裂しそうだ。
そして、ホブゴブリンが猛烈な魔力を発しながら輝き始める。
「グワアァァァァ !!!!!!」
ホブゴブリンの身体が更に大きくなり、頭には2本の黒いツノが生えた。
緑色だった肌も赤色に変色し、以前よりさらにムキムキだ。
身体が大きくなり腰布が破れ落ちたが、進化の影響で新しい装束に変わっている。
さっきよりも低く逞しい声で雄叫びを上げながら、仁をギラリと睨みつけた。
◇
「「「「「!!??」」」」」
「あ、あれは・・・オーガ!?」
「ホブゴブリンが・・・進化・・・した!?」
「魔物が進化する瞬間、初めて見ました・・・」
「仁くん!!早く逃げなさい!!あれはCランクの魔物よ!」
「あれは私達に任せて・・・」
アマンダの話の途中、仁が割り込む。
「さっきからゴチャゴチャと・・・、邪魔しないでくれ!今は俺とコイツの時間なんだ!」
「仁くんが強いのは分かったから!アイツは本当に危ないのよ!」
そのとき、テレス達の足元に猛スピードで何かが飛んで来た。
オーノー!!
斧だ。
さっき捨てた斧をオーガが拾い、テレス達に投げつけたのだ。
「〝邪魔するな〟って言ってんだよ。アイツも俺と戦いたいんだ」
仁は少し嬉しそうに言った。
「分かったわ・・・」
テレス達は納得いかない様子だったが、仁の気持ちを尊重した。
「さぁ、第2ラウンドを始めようぜ」