第6話 謎の毛
本日2本中1本目の更新です!
性欲を失ってしまった仁は、テレスから促されて風呂に入ることにした。
入浴剤の影響でピンク色に染まった湯に浸かりながら、仁は未来を嘆いていた。
(これじゃあ、ずーっとチェリーボーイじゃねぇか・・・)
(オーイ!元気出せ!)
股間を鼓舞するが、ウンともスンとも言わない。
(せっかくイケメンに生まれ変わったのに〜!)
仁はしょんぼりしながら風呂から出た。
風呂を借りた後、テレスから借りた服に着替える。
スンスンと服の匂いを嗅ぐ。
「はぁ〜〜!良い匂いだ!」
◇
テレスから部屋に案内された仁は、夕飯の時間までくつろぐことにした。
(それにしても、ここは外国じゃなく異世界だったのか・・・。それじゃあ日本に帰って両親に会う計画が台無しじゃないか・・・。どうやって日本に帰るんだよ・・・)
仁は珍しくかなり落ち込んでいる様子だったが、すぐに表情が明るくなった。
「あっ、魔法があるのか」
(魔法があれば帰れそうだな。そして両親にも見せてあげよう!)
仁は前世の頃から、迷ったり悩んだりするタイプではなかった。
自分は馬鹿だから、自分ごときが何か考えたところで何も思いつかないことを分かっていたからだ。
「仁くん!ご飯できたわよ!」
「はい!今行きます!」
テレスに呼ばれ、夕飯をご馳走になる。
白米、しょうが焼き、ポテトサラダ、だし巻き玉子、味噌汁。
「おぉ〜!日本でよく食べてたやつ!美味しそう〜〜!」
そういえば、仁は朝から何も食べていなかった。
それなのに、特に空腹感もなく1日を過ごしていた。
不思議に思いながらも、仁は両手を合わせて「いただきます!」と言いながら食べ始める。
ポテトサラダを1口食べる。
(ポテトサラダ、略してポテサラ!超美味い!)
だし巻き玉子を口に頬張る。
(卵って本当なら鳥として生まれてくるはずだったんだよな・・・うん!超美味い!)
味噌汁を1口飲む。
(おっ!これは合わせ味噌だな!何と何を合わせてるのか知らんが、母ちゃんの味噌汁より美味いな!)
しょうが焼きを噛みちぎり、白米をかきこんだ。
(んぅ〜〜♡最高♡)
食事はいつもアマンダが作るらしい。
トロ顔で美味しそうに食べる仁を見て、とっても嬉しそうだ。
「ごちそうさまでした!超美味かったです!」
きちんとお礼を言った仁は、自分が使った皿を洗った後に部屋へと戻った。
「あんなに美味しそうに食べてくれるなんて嬉しいです!」
「食べてる時の顔はキモかったけどね」
喜ぶアマンダと気持ち悪がるマリルネは対照的だ。
◇
今日は仁の5歳の誕生日。
特に思い入れはなかったが、マリルネさん以外のお姉さん達から祝ってもらった。
そしてテレスと2人で教会へ行くことにした。
仁にとっては教会デートだ。
教会へ向かう途中、テレスは釘を刺す。
「私やあなたが転生者だということは、他の人には絶対に言っちゃダメよ!面倒事に巻き込まれるから」
「分かりました!でも良いんですか?マリルネさん達には知られちゃってますけど・・・」
「彼女達は信頼できるから大丈夫よ」
「俺は信頼してないんですけど・・・」
「私が信頼してるからいいの!」
仁は不服そうだ。
「じゃあ俺にも信頼できる友達ができたら、その時は言ってもいいですか?」
「いいわよ。その前に私に紹介してほしいけどね・・・」
「なんでですか?まぁ、いいですけど・・・じゃあ、その時は紹介しますね」
テレスにはお世話になっている。
昨日会ったばかりなのに、大感謝の連続だ。
迷惑をかけないようにしよう。
5歳になれば、教会で洗礼を受けることができる。
洗礼を受けることでステータスカードが発行され、自分のステータスが確認できるだけでなく、身分証としても使えるらしい。
ちなみに、ステータスカードに表示されるのは《名前》、《種族》、《性別》、《年齢》、《職業》のみである。
教会はイメージ通りの神秘的な建物で、白を基調とした清潔感のある建物だ。
色が白だと汚れが目立ちそうだが、汚れは全然見当たらない。
建物の周りにはたくさんの花が咲いている。
教会の中に入ると、シスターが出迎えてくれる。
昨日までの仁なら、ここで魔力を漏らしていただろう。
だが、昨日の仁とはひと味違う!
【精力変換】は常時発動しているが、そこで変換した魔力を外に漏らしたりはしない。
仁は日々、少しずつだが成長する!
いつの日か、必ず性欲を取り戻してみせる!
ずっとチェリーボーイのままでいるのは嫌だからな・・・。
仁達が案内されたのは、巨大な像が立ち並ぶ大広間だった。
そして、仁達が大広間で待っているとシスターが奥の部屋から水晶玉を持って来た。
「この水晶玉に触れてください」
綺麗な水晶玉が出てきた。
反射して自分の顔が映る。
今日も相変わらずの美少年だ。
仁は自分の顔に見惚れていて、シスターの話を無視してしまっていた。
テレスに小突かれた仁は、慌てて水晶玉に触れる。
触れた瞬間、水晶玉が光り輝く。
(ん?水晶玉が溶けているような・・・)
グニャグニャとしていた水晶玉が、気が付くと1枚のカードに変わっていた。
(どういうカラクリなんだ!?これが魔法なのか!?マジでなんでもアリなんだな!)
仁が驚いていると、シスターが寄ってきた。
「そのステータスカードは身分証としても使えますので、絶対に失くさないようにしてくださいね」
「ご親切にどうも」
「それでは、神のご加護があらんことを」
「アーメン」
仁は目を閉じて、天に向かって両手を組んで祈る。
目を開けると、シスターがきょとんとしていた。
「ちょっと!何やってんの、それはやらなくていいのよ」
テレスが恥ずかしそうに注意した。
この世界では、「アーメン」とか言う文化はないようだ。
小っ恥ずかしい・・・!!
ちなみに、仁は神様を信じていない。
なぜなら見たことないし会ったこともないから。
そんな不確かな存在は信じるに値しない。
しかし、ついついシスターに釣られて仁も祈ってしまった。
(我ながら可愛い一面が出てしまったな・・・)
◇
教会を後にして宿舎へ戻ってきた仁は、改めて自分のステータスを見て気付いた。
「俺って加護無いんですね・・・」
テレスさんは、ほぼ全ての人類が加護を持っていると言っていたが、仁に加護はない。
「神様からも嫌われているのね・・・」
マリルネが仁のステータスカードを後ろから覗き込むように見ていた。
「・・・も?」
仁はマリルネから嫌われているみたいだ。
でもそれがまたいいと思う仁であった。
テレスがマリルネを窘めながら言った。
「おそらくステータスは前世のことも反映されているみたいなの。私がこの世界で5歳の時、知力がBだったから。あとは前世で培ったものをスキルとして持っていたわ」
「知力がBだなんて凄いなぁ。俺の知力なんてGなのに・・・」
「まだ5歳なのにスキルを4つを持っているなんて凄いですよ」
すかさずアマンダさんがフォローしてくれた。
「何故【清掃】を持っているのでしょう?」
ケイトの疑問にテレスが答える。
「仁くんは高校生の頃、清掃業をしていたんでしょ?だから【清掃】を持っているんじゃないかしら?スキルを使えば普通に清掃するより楽に清掃できるはずよ」
「それは便利ですね!試してみます!」
テレスにスキルの発動方法を教えてもらい、【清掃】を試してみる。
まずは、血液のように全身を巡る魔力を感じ取る。
深呼吸して心を落ち着かせて、体内へ意識を向けると確かに何かが流れているのが分かる。
それが魔力だ。
その魔力を意識しながら、スキルをイメージする。
今回は【清掃】なので、部屋をキレイに掃除するイメージだ。
そして魔力を込めながら、
「【清掃】!」
そう唱えると、仁達がいる部屋の中の空気が変わった。
なんということでしょう!
床に落ちていた謎の毛や、天井についていた謎のシミがキレイさっぱり消えているではありませんか!
女性陣は少し恥ずかしそうにしていたが、キレイ好きの仁は大満足だ!
宿舎内を全て【清掃】でキレイにして回りたかったが、それは何故か許されなかった。