第5話 悲しき物語
今回は少し、いやかなり悲しい話です。
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《名前》 光石仁 (アード・サルビーア)
《種族》 人間族
《性別》 男
《年齢》 4
《職業》 ─
《称号》 『性欲の塊』『超越者』『辺境伯家三男』
《加護》 ─
《属性》 光
《体力》 619/1090
《魔力》 987/987
《獣力》 1/1
《能力》 【清掃:C】【精力変換:S】【自己治癒:C】【不殺生戒:S】
《状態》 「健康」
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〜ステータスに関する補足〜
1.《称号》について
・その人物に最も相応しい称号が、最大で3つ表示される。
2.《体力》、《魔力》、《獣力》について
・人間族(子供)の平均値
《体力》 50
《魔力》 100
《獣力》 0
・人間族(大人)の平均値
《体力》 500
《魔力》 1000
《獣力》 0
3.《能力》について
・熟練度によってS~Gでランク付けされている。
S 計測不能
A 100万人に1人
B 10万人に1人
C 1万人に1人
D 1000人に1人
E 100人に1人
F 10人に1人
G 誰でも
(大陸内の人口は、約50億人)
(各ランクの割合はあくまで目安)
◇
仁は自分のステータス画面を見た。
(なにこれ・・・。あっ!ちょっと待って!)
《性欲の塊》
(これはヤバい!女性に知られてはいけない!)
仁が振り返ると、女性5人の顔は引きつっていた。
(これは激ヤバ!完全に引かれとる!あ〜〜ここに泊めてもらうのも厳しそうだな・・・)
仁が落ち込んでいると、テレスが口を開く。
「仁くんって貴族だったの!?」
「サルビーアって領主様の家名じゃない?」
「超越者とは一体何なのでしょう?それに、魔力レベルは私と同じレベルですし・・・不思議なことばかりです」
「体力Bってアタシより高いじゃないか!こんなガキに負けてるなんて!」
「あ、あの!辺境伯家の貴族様とは知らず、申し訳ありませんでした!」
(あれ?性欲のことにはノーコメント?いや、それより衝撃だったことがあるんだろう。俺も同じだ)
「俺、貴族だったんだ・・・知らなかったな」
仁がそう呟くと、5人が一斉にこちらを見て驚いた。
「本当に何も知らなかったの?」
「メイドさんみたいな人達がいたから、金持ちだな〜とは思ってましたけど・・・」
「ま、まぁ、異世界転生してることすら気付かなかったみたいだし・・・もういいわ・・・」
テレスは溜め息をつきながら頭を抱えているし、アマンダはずっと床にひれ伏している。
「ところで、仁くんはシーナ様に許可をいただいたの?」
「シーナ様って誰ですか?」
仁はきょとんとしている。
「もう!あなたのお父様よ。簡単に説明すると、このガベーラ領で一番偉い方。あなたはその方の息子なのよ!」
マリルネがブチギレた。
それを聞いて、知力Gの仁でもようやく理解した。
「仁くん、いやもうアード様って呼んだ方がいいのかしら?」
「いえいえ、俺はアードじゃないです。今まで通りに呼んでください」
仁の言葉を聞き、テレスは少し気にかかったが話を続けた。
「じゃあ仁くん。改めて聞くけど、この街にあなたがいることをシーナ様に伝えているの?」
「置き手紙を残してきたので心配はしてないと思いますけど、行き先は書いてないです」
それを聞いて皆が慌て始めた。
「「「「えっ!!??」」」」
「ちょっと!それってヤバいんじゃない?」
「この子がここにいることがバレたら、ここにいる全員捕まるかもしれないわ」
「今頃、ジーアでは大騒ぎでしょうね。特に辺境伯家では⋯⋯」
「そもそも心配してないわけがないでしょう」
マリルネは無言だったが、かなりイラついている様子だ。
トントントンと貧乏ゆすりしている。
(皆の気持ちも分かる。俺だって自分が貴族だと分かっていれば、こんなことはしていなかっただろう)
(周りに対する無関心さが原因だ。そのせいで、親切なテレスさんにまで迷惑をかけている。申し訳ない・・・)
皆がソワソワして落ち着かない中、テレスが口を開いた。
「でも、もしかしたらラッキーだったかもしれないわね」
「え?どういうこと?」
「仁くんは異世界に転生していることを知らなかったでしょう?そのまま洗礼を受けて、ステータスを周りに見せていたら・・・」
「「「「・・・!!!!」」」」
「名前が二つあること、謎の称号を持っていること、魔力や体力のレベルが高いこと、他にも色々なことがバレていたでしょうね」
「たしかに、軍事利用や政治利用されたり、人体実験されたり・・・」
「えっ!?人体実験!?」
(家を出ずに明日を迎えていたら、そんな危険な目に遭うところだったのか・・・。家を出て正解だったな!)
「仁くん、今頃ジーアでは、あなたのせいで大騒ぎになっているでしょうけど、ほとぼりが冷めるまではここにいてもらうわ。宿舎からも出ないでね」
テレスはそう言って、仁の無断外出を禁じた。
「うっ・・・。すみません・・・。ご迷惑をおかけします」
「まぁ、知力がGしかないんだし、この世界のこと勉強したら?」
マリルネが仁に冷たい視線を向けながら言った。
(その目、大好き♡)
仁から魔力が漏れた。
◇
「で、さっきのステータスなんだけど、【精力変換】って何なの?超キモいんですけど!」
思い出したかのように、マリルネが口を開いた。
(キモいだなんて・・・酷い・・・)
魔力が漏れた。
「【治癒】が使えないのに【自己治癒】が使えるのも気になりますね・・・」
ケイトが不思議そうにしている。
(チュー!?)
魔力が漏れた。
「【不殺生戒】ってのも初めて聞いたぜ?」
シェイカも初耳らしい。
(セッ!?!?)
魔力が漏れた。
「《性欲の塊》という称号も気になりますね」
リボンといい瞳の色といい、何かと〝赤〟が似合うアマンダが、赤面しながら呟いた。
(・・・赤!?)
魔力が漏れた。
「さっきからチョロチョロ漏らしてんじゃねえよ!」
マリルネが強めにツッコんだ。
「ごめんなさい!」
でもだんだん分かってきた。
「もしかして【精力変換】って、精力を魔力に変換してるんじゃない!?」
テレスさんが声を上げ、さらに仁の身に起こっていた異変を解明してくれた。
今まで気分が悪くなっていたのは、魔力が漏れていたから。
無意識に放出した魔力を吸って、魔力酔いを起こしていたのだ。
魔力酔いとは、急激に大量の魔力を吸収したときに起こる症状のこと。
魔力器官が未発達の子供や、生まれつき魔力器官の弱い人によく起こるそうだ。
仁は、これまでに気分が悪くなった時のことを振り返ってみた。
セリアさんのおっぱいを見たとき
テレスさんの呆れ顔を見たとき
マリルネさんに罵倒されたとき
ケイトさんの優しさに包まれたとき
シェイカさんの腹筋を見たとき
アマンダさんが床にひれ伏していたとき
仁の気分が悪くなっていたのは、高まった精力が魔力に変換されて放出し、自身がそれを大量に吸ってしまっていたからだった。
これで謎は全て解けた!
「なるほど!そういうことだったのか!」
「えぇ!だから、【精力変換】を解除すれば、魔力酔いはしなくなるわよ!」
これでようやくこの不快感から解放される。
「教えてくれてありがとうございます!ところで、【精力変換】ってのはどうやって解除するんですか?」
「スキルの解除は自分の意思でできるわよ!声に出してもいいし、心の中で言っても大丈夫!」
「よ〜し!それじゃあ、張り切って・・・、【精力変換】 解除!」
・・・。
何も起こらない。
それとも、もう解除されたのか。
「あの〜もう解除されてます?」
「え?自分で分かるはずだけど・・・」
仁はシェイカの方を見た。
シェイカと目が合う。
仁に対する嫌悪感が隠せていない。
(そういう目で見られると・・・♡)
魔力が漏れる。
「あれっ!?解除されてない!?え〜、どうやるんだろう・・・」
その後、幾度となく挑戦し続けたが、【精力変換】という悲しきスキルを解除することはできなかった・・・。
光石仁、性欲を失う。