第4話 5人の美女
2人はしばらくの間、前世の話で盛り上がっていたが、仁は当初の目的を思い出した。
「高下さん、いくつか聞きたいことがあるんですが⋯⋯」
「テレスって呼んでちょうだい。今の名前はテレスだから」
頷いた仁は、転生してから気になっていたことを質問をしてみた。
「この国って地球のどの辺りですか?実は俺、勉強が苦手で⋯⋯」
「⋯⋯え?ここ、地球じゃないわよ?」
テレスは冗談がお好きなようだ。
「アハハハハ!またまた〜〜。じゃあここは宇宙ですか?俺達は宇宙人ですか?」
そう言うと真剣な眼差しで仁を見た。
これは冗談の顔じゃない。
「えっ⋯⋯宇宙人なの?」
「⋯⋯宇宙人ではないわ。仁くん、ラノベって読んだことある?」
「ラノベ?⋯⋯読んだことないです。なんですか?それ⋯⋯」
「⋯⋯えーっと、じゃあ〝異世界転生〟って聞いたことある?」
「ううん。なぁに?それ」
仁は可愛く聞いてみたが、テレスには呆れたような顔をされてしまった。
(呆れ顔、可愛いなぁ⋯⋯)
テレスの呆れ顔にキュンとしていると、仁は自身の身体に起きている異変に気付いた。
(ふぅ⋯⋯、さっきから気分が悪いなぁ⋯⋯車酔いしているような感じがする⋯⋯)
生まれたばかりの頃の仁は、おっぱいを見ると気分が悪くなっていた。
最近はおっぱいにも慣れてきていたのだが、何故かテレスに会ってからずっと気分が悪い。
どうやら、テレスを見ると気分が悪くなるようだ。
「はぁ〜〜あなた、今までここがどこだと思って過ごしてたのよ」
テレスさんは呆れて様子で、溜め息をついている。
「外国だと思ってました」
仁がそう答えると、テレスは再び溜め息をつきながら説明してくれた。
ここは地球とは異なる世界、いわゆる異世界で《セルリアン》という世界。
そして、今いる場所は《ツーダブル王国》の《サルビーア領》で、《イーサ》という街らしい。
「全然知らなかった⋯⋯」
仁は目を丸くしながら驚いた。
死んだ後に異世界に転生するのは、ファンタジーの定番らしい。
さらにセルリアンには、〝魔法〟という不思議な力や〝魔物〟という危険な生物が存在する。
魔物とは、動物と違って魔力を持っており、人型や獣型など様々な種類の魔物が確認されている。
好戦的な魔物も多く存在し、人間や街を襲うこともある危険な生物だ。
魔物からは貴重な素材が採れる。
(ん?人型の魔物?⋯⋯もしかして、さっきのアイツらって⋯⋯)
「あの〜、緑色の子供のような魔物っていますか?めっちゃブサイクの⋯⋯」
「⋯⋯緑色でブサイク?あぁ!ゴブリンのこと?もしかして、もうどこかで会った?」
「はい、さっき近くの森で⋯⋯」
仁は森での出来事を詳しく説明した。
「そうだったの⋯よく無事でいられたわね⋯⋯。ゴブリンはズル賢い魔物でね⋯⋯単体では弱いんだけど集団になると連携をとってくるからかなり厄介な魔物なの。⋯⋯ん?そもそも、どうして仁くんは森にいたの?」
「農家の皆さんから、森を通ればこの街に着くと聞いたので⋯⋯」
「えっ、どこから来たの!?」
「えーっと⋯⋯街の名前は知らないんですけど、隣の街から来ました」
「⋯⋯《ジーア》のことかしら?」
「知りませんけど⋯⋯」
テレスは自分の額に手を当てながら溜め息をつく。
「森を抜けてイーサに辿り着いたってこと、おそらくジーアから来たのね。⋯⋯はぁ〜〜、大人の足でも丸1日はかかる距離なんだけど⋯⋯」
「ハハハ⋯⋯今朝出発しました」
「ずいぶん早く着いたのね。⋯⋯もしかしたら何かのスキルを持っているかもしれないわ」
「スキルって?」
「そうね、当然それも知らないわよね。スキルっていうのは⋯⋯」
それから仁はスキルやステータスについての説明を受けた。
覚えることが多そうだったので、仁はメモをとることにした。
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・魔術
魔力を消費して不思議な現象を起こす術。
魔法の上位互換だが、習得難易度が高い。
・魔法
魔術を簡易化したもの。
魔術の下位互換だが、習得難易度が低い。
・属性
火・水・土・風・雷・氷・光・闇の8つ。
人によって適性属性の数は違い、人によって増減する。
生まれた時から1つ以上の適性属性がある。
・スキル
様々な条件をクリアすることで取得できる能力で、その条件は人それぞれ。
同じスキルでも人によって取得方法が異なる。
スキルによって消費する力が変わる。
スキルの内容によっては、適性のない属性の魔法が扱える場合がある。
・加護
神から授かる恩恵で様々な御利益がある。
人類のほぼ全てが加護を持っている。
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「良い勉強になりました。ありがとうございます」
このメモはしばらく手放せないだろう。
テレスにお礼を言った仁は、ふと前世のことを思い出した。
「そういえば、大親友・土田くんが言っていたような気がする」
『封印されし闇の力よ⋯⋯今、解き放つ!』
(アイツは闇属性だったんだな⋯⋯)
◇
テレスから説明を受けた後、仁はメモを見ながら復習していたのだが、研究所の外はいつの間にか日が暮れていた。
「すっかり日が暮れちゃったわね。今からジーアまで帰るのは危ないから、今日は研究所の宿舎に泊まっていきなさい」
「いいんですか!?」
泊まる宿がない仁は、テレスの言葉に甘えることにした。
「あなた手ブラだし⋯⋯どうせお金も持ってないんでしょ?」
「持ってないです。住み込みで働ける仕事を探すつもりでしたから」
仁は申し訳なさそうに頷きながら答えた。
「えっ、働くつもりだったの?しかも、住み込みって⋯⋯なんのあてもないはずなのに⋯⋯先走りすぎよ」
「うっ!すいません⋯⋯。前世を含めると23歳ですし、あの家は居心地が悪かったので⋯⋯あっ、働きに出ることは、家の人に言ってあるので大丈夫ですよ」
「あ、そうだったのね⋯⋯」
(今の家でなにか辛い思いをしたのかしら?すぐに家を出なきゃいけないほど大変だったのかも⋯⋯。これから家族のことには触れないほうがいいわね)
テレスは、仁が自分勝手な理由で家出したとは思わなかった。
「仕事を探してるって言ってたわよね?どんな仕事をするつもりだったの?」
「高校生の頃に清掃業のアルバイトをしてたので、清掃業をやろうと思ってました。慣れている仕事なら、今の俺でもできますし⋯⋯。でも魔法があるなら、清掃業の仕事はなさそうですね。俺、魔法使えないし」
落胆していた仁に、テレスが希望を与える。
「あら、仁くんにだって魔法は使えるわよ?でも今は子供なんだし働かなくてもいいんじゃない?しばらく研究所にいていいから、今の世界に慣れることを優先しましょう」
「えっ!いいんですか?ありがとうございます!お言葉に甘えて、お世話になります!⋯⋯それにしても魔法か〜、楽しみだなぁ」
(テレスさんはなんて親切な人なんだ。図々しいのは百も承知だが、お言葉に甘えさせてもらおう。まさか国どころか、世界そのものが違っていたとは⋯⋯。異世界に転生しているのが分かっていれば、もう少し慎重に行動したのに⋯⋯)
日本には。〝事実は小説よりも奇なり〟という言葉があるが⋯⋯、現実はメチャクチャ奇なり!
◇
「それにしても、こんなに早く出会えるなんて⋯⋯」
テレスが嬉しそうに微笑みながら仁を見つめた。
「どういうことですか?」
仁は不思議そうに尋ねる。
「美容品のロゴマークにある漢字を見て、訪ねて来たんでしょ?」
「そうです!屋敷の人達が使ってましたので!」
「わざわざ漢字を取り入れたデザインにしたのは、日本人に気付いてもらうためなのよ」
「⋯⋯あっ!日本人が漢字に気付けば、日本人が訪ねてくるってことですね!俺のように!」
あのダサいデザイン、〝ダサイン〟にはそんな狙いがあったのだ。
「異世界に来て、慣れないことや不安なこともあるでしょうし⋯⋯なにより、心細いと思うから⋯⋯」
テレスの表情が少し寂しそうだ。
彼女もたった1人で転生し、寂しい思いをしてきたのだろう。
ファンタジーの定番とはいえ、異世界に転生すれば家族や故郷と永遠に会えなくなる。地球とは違って、魔物がいて危険の多い世界だ。
見知らぬ世界で、たった1人で生きていくのは孤独に感じるだろう。
それはテレスも同じだった⋯⋯。
「この世界には美容品が全然なかったから、前世の知識を利用して美容品を作って売ることにしたのよ」
「そうか!この世界にない地球の物を作って売れば、楽して儲かるってことですね!」
よくあるテンプレだ。
「そういうこと!私は化粧品メーカーに勤めてから簡単だったわ。美容品はきっと世界中の女性が欲しがる。だから世界中に流通させれば、儲かると同時に日本人にも会える。」
「ただダサいだけのデザインじゃなかったんですね!すごいな〜」
テレスは可愛くて優しいだけでなく、親切で頭も良いようだ。
そして仁はその策にまんまと引っかかった。
(テレスさんが善人で良かった。悪人だったらヤバかったな⋯⋯)
◇
仁はテレスに連れられて、研究所の宿舎に向かっていた。研究所では美容品の開発・製造・販売を行っていて、テレスを含めた研究員達は宿舎で暮らしている。研究所から宿舎までは、徒歩10分程の距離があった。
研究所と同じく和風の旅館だ。
研究所には、テレスの他に研究員が9人いるらしい。そして、その全員が女性。
宿舎で暮らしているのは、テレスを含めて5人だ。
他の5人は結婚していて、それぞれの家に住んでいるらしい。ちなみに、受付の美肌お姉さんも人妻で子持ちだ。
宿舎に入ると、見た目以上の広さに驚かされた。
「あれっ!?こんなに広いの!?」
仁が思わず声を上げると、その様子を見たテレスが解説してくれた。
「宿舎のなかは【時空魔法:拡張】で空間を広げているのよ」
「へ〜〜、魔法ってなんでもありなんだな〜」
仁はキョロキョロしながら玄関で靴を脱ぐ。
「おかえりなさ〜い」
銀髪の女性がニコニコしながら、仁達のほうに歩いて来た。
綺麗な銀髪で、高めのポニーテール。
瞳の色と同じ、赤いリボンで髪を結んでいる。とても似合っている。
ニコニコスマイルが素敵だ。
室内だからだろうか、ラフな格好だ。
「あれ?どうしたの?その子」
仁に気付いた彼女は、仁と目線が合うようにしゃがんで話しかけた。
「私はアマンダよ。あなたのお名前は?」
「はじめまして、仁です」
仁は頭を下げながら挨拶した。
「この子、転生者なのよ。しかも、私と同じ日本の出身よ!」
「えーーーっ!!??」
アマンダさんは馬鹿でかい声で叫んだ。
「今は子供ですが、前世を含めるともうすぐ23歳になります」
「しかも私より歳上だなんて⋯⋯」
アマンダさんが馬鹿でかい声で驚いていると、奥から3人の女性がゾロゾロやってきた。
「うるさいわね」
「どうかしたんですか?」
「ん?ソイツは?」
仁がさっきと同じように挨拶をすると、テレスさんが3人のことを紹介してくれた。
1人目はマリルネ。
髪はショートウルフでクール系美女。
全体の色は濃い藍色だが、毛先は浅葱色をしている。
5人のなかで一番背が低いが、体は引き締まっている。
仁のことをずっと睨んでいるが、その視線が堪らない。
2人目はケイト。
金髪ロングヘアで、毛先はパーマがかっている。
瞳の色は青く、ヨーロッパにいそうな人だ。
スタイルはボンキュッボンで、それがよく分かるほど無防備な格好をしているが、恥ずかしがる様子はない。
話し方はゆっくりで優しさに溢れており、おっとりした雰囲気だ。
何をしても許されそう。
3人目はシェイカ。
赤髪で褐色肌のボーイッシュ系お姉さん。
スポブラとショーツ姿で上下ともに黒色。
筋肉女子で腹筋もバッキバキだ。
ヤバい。性癖にぶっ刺さる。
シェイカを見た途端、仁は激しい吐き気に襲われた。
さらに身体から何かが出ている。
テレス達も異変に気付く。
「うわっ!何この魔力量⋯⋯!!」
「ジンくんから出てるわ!」
「仁くん!魔力を抑えて!!」
(これが魔力⋯⋯?いやいや、そんなこと言われてもどうやって抑えんだよ!)
仁から出てくる魔力がだんだんと勢いを増していき、部屋を荒らし始めた。
(オーマイガー!これはヤバい!このままだと追い出されてしまう!)
「仁くん!深呼吸して!」
テレスに言われるがまま深呼吸をすると、だんだん魔力の放出が収まってきた。
不思議だ。
「何なの?この子⋯⋯」
「魔力量が多すぎて自分でも制御できていないようですね」
「子供にしては凄い量だな」
「でも、どうして急に?」
「仁くん、今みたいなことってよくあるの?」
5人の表情は困惑しているが、マリルネは嫌悪感のほうが大きい。
「えーっと、女性を見るとたまに吐き気がするんですけど、今みたいに魔力?が出てきたのは初めてです」
女性に言うのは失礼だと思ったが、俺は正直に答えた。
それを聞いたテレスとケイトは何か話し合っている。
「何かのスキルでしょうか?そんなスキルがあるなんて聞いたことありませんが⋯⋯」
「鑑定してみたほうがよさそうね」
テレスが仁に向けて手をかざす。
「【鑑定】!【投影】!」
次の瞬間、仁達の目の前に大きな画面が映し出された。
そこには仁の名前が書いてあった。
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《名前》 光石仁 (アード・サルビーア)
《種族》 人間族
《性別》 男
《年齢》 4
《職業》 ─
《称号》 『性欲の塊』『超越者』『辺境伯家三男』
《加護》 ─
《属性》 光
《体力》 619/1090
《魔力》 987/987
《獣力》 1/1
《能力》 【清掃:C】【精力変換:S】【自己治癒:C】【不殺生戒:S】
《状態》 「健康」
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ヒロインを4人追加しました。