第1話 勘違い野郎
以前、投稿していた作品のリメイク版です!
地球から約2光年ほど離れた遠い星、〝セルリアン〟と呼ばれる世界がある。
かつてのセルリアンは絶望に溢れていた。
大地は荒れ果て、海は渇き、人類のほぼ全てが死んでいった。
その様子を見た女神は嘆き悲しみ、死にゆく人々の願いを叶えることにした。
女神は大地と海に恵みを与え、人々に魔術という技術を授けた。
魔術を使うことで人々の暮らしは豊かになった。
病気や怪我を癒し、困難を打ち破った。
魔術とは、女神が人々に与えた希望だった。
はじめは魔術を使える人間は少なかったが、時代とともに〝魔法〟として簡易化されたことで、現在では多くの人間が使えるようになっていた。
しかし、それは人々が簡単に力を手に入れることと同義であった。
魔法は魔術を簡易化しているため、その力は魔術に劣るが、人知を超える力であることに変わりはない。
人々が簡単に魔法を使えるようになったことで、人々の暮らしは豊かになったが、争いの解決にも魔法が使われるようになっていた。
そして、かつて世界を救った魔術は、戦争の道具に成り下がった。
さらに、魔力と呼ばれる物質が影響して生態系が変化してしまったことで、多種多様な種族が生まれ、差別が起き始めた。
そして、それは種族間の戦争へと発展していった。
人間族と魔人族の争いは特に苛烈で、再び多くの人類が死んでいった。
世界の滅亡を危惧した女神は、セルリアンに異世界人を召喚することにした。
女神はその異世界人に特別な力と使命を与えた。
勇者とも呼ばれる異世界人は、女神から授かった力を駆使し、種族間戦争を鎮めた。
そして、全種族同盟を結ばせることで世界に平和をもたらした。
◇
勇者が全種族同盟を結んでから600年が経過した。
その間にも、数多の異世界人が転生あるいは転移し、歴史を創ってきた。
なかには、勇者と呼ばれるほどの活躍をした者もいる。
彼らは2代目勇者、3代目勇者と呼ばれ、世界に大きな変革をもたらした。
ちなみに、女神は初代勇者以外の異世界人には関与していない。
偶然あるいは人間による儀式が、異世界人を呼び寄せていたのだ。
そして今、女神はセルリアンに2人目の異世界人を送り込んだ。
その異世界人の名は、光石仁。
◇
セルリアンの中央に位置する〝エラルド大陸〟には、人間族、魔人族、亜人族がそれぞれの国で暮らしている。
人間族の国は7ヶ国、魔人族の国は1ヶ国、亜人族の国は2ヶ国の計10ヶ国あり、国によって様々な特色がある。
日本の男子高校生・光石仁が送り込まれたのは、エラルド大陸の西側に位置する〝ツーダブル王国〟という人間族の国だった。
そして、仁はツーダブル王国の最北端に領地を構えるサルビーア辺境伯家の三男として生まれ変わった。
◇
「んにゃんにゃ・・・はにゃん・・・」
金色の髪をうっすらと生やした赤ん坊が目を覚ました。
瞳の色も髪色と同じく金色で、まるで宝石のように光り輝いている。
「元気な男の子だ!よく頑張ってくれた!」
「私と同じ金髪だわ!」
そう話しているのは、赤ん坊の両親だ。
父親の名は、シーナ・サルビーア。
赤髪で細マッチョ。アスリートのように引き締まった体だ。
母親の名は、ナーヴァ・サルビーア。
金髪で中肉中背。泣いているが、その表情は嬉しそう。
おっとりしているが、出産直後とは思えないほど元気だ。
どちらも30歳だが、見た目は年齢以上に若く見える。
さらに、シーナに促されて赤ん坊をじっと見つめる子供が3人。
彼らも2人の子供達で、赤髪の少年はヴァルジ、金髪の少年はジーノ、赤髪の少女はノエリアだ。
年齢は、順に9歳、5歳、4歳。
カラフルな頭髪の子供達だ。
この屋敷に住むのは家族だけではない。
この屋敷には使用人がたくさんいて、執事1人、メイド15人も一緒に住んでいる。
執事の名は、ショーン。
執事のショーン(笑)。
髪は真っ白。
御老体だが身長は誰よりも高く、背筋は真っ直ぐに伸びている。
髪や服装が綺麗に整えられていて、清潔感のある執事だ。
メイド達の間では、彼のファンクラブもあるとかないとか・・・。
メイド達は全員がメイド服を着ていて、年齢はバラバラ。
若い人もいればオバサンもいる。
生まれたばかりの赤ん坊は、その場で「アード」と名付けられた。
シーナとナーヴァが寝る間を惜しんで考えた名前らしい。
アードとは、エラルド大陸で100年に1度しか咲かない幻の花。
少し白みがかった金色で美しい花だ。
アードの花言葉は「思いやり」。
他者への思いやりを大事にしてほしいという家族の願いが込められた素敵な名前だ。
◇
生まれた直後、アードの意識は朦朧としていたが、数日が経ってようやく思い出す。
(あっ!卒業式!!!)
アードには前世の記憶があった。
日本の男子高校生だった光石仁の記憶だ。
光石仁にとっての最後の記憶は高校の卒業式前日。
卒業式の予行練習を終え、家に帰った後の記憶がない。
(あれ〜〜?どうなってんだ〜?)
仁はファンタジーにあまり詳しくなかった。
ファンタジーが好きな人ならすぐに理解できるこの状況を、アードは理解できない。
(誘拐されたのか?カラダ目当てかよ・・・)
違う。
(おろ?身体が小さくなってる!?)
(怪しげな取引を見ちゃった口封じ的な?)
惜しい!
(でも周りの人達、悪人には見えないんだよなぁ・・・)
(ん〜〜〜、生まれ変わったのか?)
ようやく気付いた。
(ってことは、俺・・・死んだのか・・・)
(あっさり終わったなぁ〜、てかなんで死んだんだよ!)
アードは自身の死を受け入れられない。
(死んだら天国か地獄に行くんじゃなかったのか?)
(まぁ、死んだ後のことは誰にも分からないからなぁ・・・『死人に口なし』ってコトか)
(はぁ〜〜、腹減ったなぁ・・・)
それは意味が違うが・・・。
すると、アードのお腹の音に気付いたメイドは徐に服をたくし上げた。
そして、大きなおっぱいが出てきた。
(ふぁっ!?)
爆乳を見たアードは動揺するが、抱え上げられてしまった。
そして、為す術なく母乳を飲まされる。
「チュパチュパチュパチュパ」
(・・・不味い・・・てか、気分悪ぅ〜〜)
ちょうど母親が部屋に入ってきた。
(あれ?この人が母親だっけ?)
(なんで母親のおっぱいじゃないんだろう・・・あっ・・・)
母親の胸のサイズを見て何かを察した。
(そのサイズじゃあ、もう・・・、俺の他にも子供が3人いるようだし、出し尽くしたか)
(可哀想に・・・ん?)
アードが母親のほうを見ると、母親は顔をしかめていた。嫌悪感丸出し。
メイドのほうも見てみる。
やはり、嫌悪感丸出しで顔をしかめている。
(なんだよぉ〜2人とも〜!おっぱいを吸う俺がそんなに気持ち悪いのかぁ?)
「やはり母乳を飲む時にだけ、膨大な魔力を放出するようですね」
「えぇ。でも一体なぜ?セリア、魔力酔いには気を付けてね」
「はい、お気遣いいただきありがとうございます」
(オイオイ、何言ってんのぉ〜?言葉が全然分からんよ〜!)
(だいたい、小さくなった俺を見たら『キュート』とか『プリティ』とか、聞こえてくるハズだろ〜?)
(あっ!ここって英語を使わない国なのか!)
ここは地球とは異なる世界なので言葉が通じなくて当然なのだが、アードは異世界ではなく外国だと勘違いしていた。
(天国でも地獄でもなく、外国だったか・・・)
(あっさり死んで、あっさり生まれ変わるなんて、命って意外と軽いんだなぁ・・・)
楽しんでいただけると嬉しいです!