第12話 無愛想な弟
今回は、ジン(アード)の姉・ノエリア視点の話です!
〜 SIDE ノエリア 〜
私が4歳の頃、弟が生まれた。
髪と瞳がどちらも綺麗な金色でとても可愛い男の子だ。
生まれた瞬間は泣いていたと聞くが、私は弟が泣いているところを見たことがない。
お父様に連れられて2人のお兄様達と見に行った弟の顔はずっと無表情だった。
笑いも泣きもしない弟を不気味に思ったのを覚えている。
そんな弟はアードと名付けられた。
お父様とお母様が三日三晩考えていた。
私の名前もそうやって付けてくれたのだろうか。
アードが生まれて1年が経った。
その頃、メイド達の間でおかしな噂が流れていた。
それはアードがまだ母乳を飲んでいた頃、アードが膨大な魔力を放出していたというものだった。
さらにその魔力量が多すぎるがあまり、乳母をしていたメイドのセリアが、頻繁に魔力酔いを起こしていたらしいのだ。
まだ0歳のアードにそれほどの魔力量があるとは思えない。セリアに聞いても誤魔化されてしまった。
噂の真相は気になるが、それはいずれ分かるだろう。
貴族は5歳になったら教会へ洗礼に行くことになっており、そこでステータスカードが発行される。
アードが5歳になって洗礼に行けば、あの子のステータスも分かるだろう。
私も5歳の誕生日に洗礼を済ませ、自分のステータスを確認している。
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《名前》 ノエリア・サルビーア
《種族》 人間族
《性別》 女
《年齢》 5
《職業》 ─
《称号》 『辺境伯家長女』
《加護》 生命神 魔法神
《属性》 火 風 土
《体力》 67/67
《魔力》 222/222
《獣力》 0/0
《能力》 【火属性魔法:E】【風属性魔法:E】【土属性魔法:G】
《状態》 「健康」
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私はお父様と同じ火属性と、お母様と同じ風属性、さらに土属性に適性があった。
この年齢で適性属性が3つあるのは稀で、普通は1つ、多くても2つだけ。
ステータスは全て平均的な数値だが、生命神アリシア様と魔法神グレイジ様の加護を持っているので、体力や魔力は成長しやすいだろう。
生命神アリシア様の加護は、全ての女性が持っていて、出産時に御利益があるといわれている。
また、生命力が上がるともいわれている。
魔法神グレイジ様の加護は、魔法の才能を伸ばすといわれている。
まな、魔力量が上がるともいわれている。
加護は人類のほぼ全てが持っている。
洗礼を終えた貴族は、領民に向けたお披露目会を開くことになっている。
隣の街に住むサルビーア辺境伯家の分家や、隣接する領地の貴族を招待し、5歳になった貴族が挨拶をする。
私達が住む〝ガベーラ領〟には大きな街が二つある。
お父様が管理する〝ジーア〟と、叔父様が管理する〝イーサ〟だ。
領主はお父様だが管理が大変なため、イーサの管理を叔父様に任せているという。
叔父様はお父様の双子の弟だが、顔は全然似ていない。
初めてのお披露目会はとても緊張したが、貴族としての誇りを持つ良い機会になった。
◇
あれから4年が経ち、私は9歳になった。
しかし、アードとはほとんど話したことがない。
話しかけても素っ気ない返事ばかり。
会話が三往復以上続いたことがない。
誰かと話している様子もないし、笑った顔も見たことがない。
無愛想な弟だ。
誰とも関わろうとしない。
この家が楽しくないのかな・・・。
お父様とお母様はいつも寂しそうな目でアードを見ていた。
もうすぐでアードは5歳になる。
そこで、私はお父様達と話し合い、サプライズパーティーをすることにした。
誕生日当日は洗礼やお披露目会で忙しくなるので、誕生日前日にパーティーをする予定だ。
2年前から家を出て、王都にある王立学園に通っているヴァルジお兄様もパーティーに参加する予定だ。
剣技神ノーン様の加護を持ち、剣聖候補でもあるジーノお兄様は、剣の稽古を早めに切り上げて参加してくれるらしい。
さらにお父様とジーノお兄様は、兵士達と共に〝ライタスの森〟で狩りをして、食料調達をしていた。
私はお母様や執事のショーン、メイド達とパーティー会場の設営をしていた。
家族や使用人達に関心がないアードは、全く気付いていない様子だった。
サプライズパーティーを明日に控えた夕食の時、アードはいつになく急いでいた。
パーティーのことがバレてしまったのかと焦ったが、どうやらまだバレてはいないようだ。
〝アードが喜ぶ顔が見たい〟
家族と使用人達の心は1つになっていた。
そして、サプライズパーティー当日。
朝からなにやら騒がしい。
ジーノお兄様がアードの部屋に入っていくのが見えた。
気になって私もついていく。
部屋の中にはジーノお兄様の他に、お父様とお母様、執事のショーンがいた。
普段は冷静なお父様と執事のショーンが慌てていた。
そして、お母様は床に座り込んで泣いており、お父様がその背中をさすりながら声をかける。
「大丈夫だ、ナーヴァ・・・。アードはきっと見つかるさ」
見つかる?アードはどこかに行ったの?
執事のショーンに尋ねた。
「アードはどうしたの?」
「ノエリア様、アード様は・・・」
そう言いながら、執事のショーンから1枚の紙きれを手渡された。
その紙を見て、私は膝から崩れ落ちた。
アードは、どうやらこの家を出てしまったようだ。
「シーナ様!屋敷内にはもうどこにもおりません!」
「門番をしていた者達も、アード様や怪しい者は見ていないようです!」
アードを捜索している兵士達がお父様に報告しているが、手がかりは掴めていないようだ。
「領民達が何か見ているかもしれない!すぐに聞き込みを開始しろ!」
お父様が珍しく声を荒らげて兵士達に指示を出す。
幸か不幸か、お披露目前だったこともあり、領民達はアードの顔を知らなかった。
そのため、領民達の間で、貴族の子供が失踪したという噂は流れなかった。
何の手がかりも掴めないまま1ヶ月が過ぎてしまい、ツーダブル王国の王宮から書状が届いた。
その書状には、お父様の処遇について書かれていた。
〝アード・サルビーアという人物は、はじめから存在していなかった〟
サルビーア辺境伯家は歴史が長く、数々の功績を挙げてきた。
特にイーサの美容品のおかげで、ツーダブル王国は他国より好景気だ。
その実績と、失踪したアードがお披露目前だったことを踏まえて、お父様が罰を受けることはなかった。
しかしサルビーア家は家族を1人失った。
その事実は変わらない。
アード、あなたは今どこにいるの?