第0話 理不尽な追放
何も無く、ただただ真っ白いだけの空間。
《地球》とは次元そのものが異なるこの世界は、神々の住まう《神界》だ。
その神界で、2人の女神がなにやら真剣そうに話をしている。
1人は金髪で薄紅色の瞳を持つ女神・エリシス、もう1人は銀髪で浅葱色の瞳を持つ女神・アリシアだ。
どちらの女性も清廉な純白の衣装をその身に纏っており、まるで天の羽衣のように美しい。
さらに、2人の胸元は大きく開き、透き通るような真っ白い肌を覗かせており、色気と神々しさのハーモニーを奏でているようだ。
話の途中、エリシスが手をかざし、2人の目の前に大きなモニターを創り出した。
そのモニターには青い星を映し出されており、エリシスはその青い星を指差しながら話を続ける。
「私が管理している地球は、自然豊かな美しい星であり、多くの生命が共存しています。多くの美しい生命たちは、長い時間をかけて多様に進化し、素晴らしい文明を築きあげてきました」
すると、エリシスの表情は変わり、その目に涙を浮かべながら悲痛な面持ちで訴える。
「しかし、私の美しい地球に穢れた生命体が誕生してしまいました」
「エリシス、穢れた生命体とはどういう意味なのですか?私には、人類が互いに手を取り合い、支え合いながら生きているように思えますが⋯⋯」
エリシスの話を聞いていたアリシアは、不思議そうにモニター越しに地球を見つめながら尋ねた。
すると、エリシスは二本指をくぱぁと開き、モニターを拡大して1人の少年をクローズアップした。
「この間抜け面をした少年を見てください。この少年の名前は光石仁、年齢は18歳です」
「彼が間抜け面かどうかはさておき、いったい彼のどこに穢れがあると⋯⋯ん?えっ!?」
目つきの悪い少年を見たアリシアは、すぐにその異常さに気付いた。
「何なのですか、この精力量は⋯⋯!?」
その少年を見るアリシアの目は、まるで汚物を見ているようだ。優しそうな雰囲気のアリシアは、その美しい顔を顰めて不快そうにしている。
「貴女も気付いたようですね。幸いなことに、まだ犠牲者は出ておりませんが、この少年の膨大過ぎる精力は極めて危険です。本人に自覚はありませんが既に限界でしょう」
エリシスは深く溜め息をつきながら話を続ける。
「このままでは、この少年の脳は性欲に支配されてしまい、多くの女性を傷付けることとなるでしょう。私の美しい地球が、私の美しい女性達が、穢らわしいこの少年の精力によってグチャグチャに犯され、この世の全てが滅びるでしょう。必ず滅びます。この少年は、この世界に存在してはいけません」
エリシスはモニター越しに、光石仁をギンギンに睨みつけた。
「しかし、私達は神である身。たとえ世界の為であったとしても、生命を殺めることはできません。あのようなこともありましたから⋯⋯。そこで貴女にお願いがあります」
エリシスが発したあのようなことという言葉に、2人の間には重々しい雰囲気が漂った。
「お願い⋯⋯?何でしょうか?」
「彼をアリシアの世界、《セルリアン》へ送っても宜しいですか?」
「⋯⋯ん?もしかして、私の世界を滅ぼすおつもりですか?」
「いえ、そういうわけではありません。セルリアンには魔法がありますよね?その力で彼の精力を抑えるのです」
「魔法で精力を抑える⋯⋯。スキルであれば可能ですが、今回は不可能です。地球の人間には魔力器官がありませんから魔法やスキルは扱えませんので⋯⋯」
「そうですか⋯⋯。それでは、彼の魂をそちらへ送るのはどうでしょう。そちらの世界で生まれる身体に彼の魂を移植するのです」
意地でも地球から光石仁を追い出したいエリシスは諦めずに食い下がる。
「それは転生に近い方法ですよね?」
「えぇ、そうです。地球では死亡したことになりますが、実際は世界を越えて魂を移植するだけなので殺めたことにはなりません」
「いやいや、そんなことをすれば、あの方の機嫌を損ねますよ?」
「フフ、心配いりませんよ。誰も殺めていませんから。それに、もしかしたら魂を肉体から引き離す際に同時に精力も引き離されるかもしれません」
エリシスの提案にアリシアは少し躊躇していた。
神であっても、生物の魂に干渉することはタブーとされている。現時点で罪を犯していない魂を、強制的に異なる世界へ転移させる行為は重罪なのだ。
しかし、このまま光石仁を見過ごす事こそが重罪なのではないかと考え、それを承諾することにした。
「しかし、どのようにして魂を引き剥がすおつもりですか?」
「フフ、私に良い考えがあります。この少年のことですからもうすぐ⋯⋯あらあら、ちょうど始まりましたよ」
2人の女神が見ていたモニターに映し出されたのは、光石仁の自慰だった。
彼女達はまるでゴミを見るような目で、彼の自慰を見守った。
数分が経ったところで、彼は早くも最高潮へと達しようとしていた。
そして、エリシスが動き始めた。
エリシスは虹色のオーラに包まれ、絶頂した彼の魂を素早く手繰り寄せた。
彼は文字通り、昇天してしまったのだ。
女神達はすぐに魂の移植に取りかかる。
彼の魂を女の肉体に移植して、彼を女として転生させることも考えたが、それだと女の皮を被った性獣が誕生してしまうことになるので、同じ性別の肉体に移植することにした。
エリシスから彼の魂を受け取ったアリシアは、魂が宿る前の肉体に彼の魂を移植した。
新しい肉体は、アリシアがテキトーに選んだものだが、どうやら貴族として生まれる予定らしい。
ちなみに、彼女達はこれまでにも不運な死を遂げてしまった人間をお互いの世界へと転生させたことがある。
だからこそ、2人は魂を肉体に移植する作業には慣れており、作業はスムーズに進んでいく。
アリシアが慣れた手つきで作業を終えると、エリシスと同じように虹色のオーラを身に纏いながら呟く。
「【神術:能力付与】 対象へ【精力抑制】を付与」
エリシスが見守る中、アリシアは転生体に〝精力を抑制する〟スキルを付与したのだが⋯⋯
パリンッ!!
付与したはずのスキルが、粉々に割れてしまい弾かれてしまった。
「えっ、どうなっているの!?」
初めての事態に彼女達は驚き、スキルの付与を何度も試みるがすべて弾かれてしまった。
「どうやら彼の精力が私の神力を越えているようです!精力が魂にへばり付いていて私の神力では精力を抑え込めません!」
慌てふためくアリシアだったが、エリシスは何かを思いついたようで、すぐにいつもの冷静さを取り戻した。
「精力を別の力に変換するようなスキルを、新たに創るのはいかがでしょう?」
冷静なエリシスのアドバイスを聞き、なんとか落ち着きを取り戻したアリシアは新スキルを創ることにした。
アリシアは自身の持つ神力の大半を使って、新しいスキルを創り、再びスキルの付与を試みた。
「【神術:能力付与】 対象へ【精力変換】を付与」
今回は割れない。
ようやく成功したはいいが、もう時間は残されていなかった。
神ではない人間の身体では、神界を流れる神気やプレッシャーに長時間耐えられない。
本来、新スキルを創った場合、人体にどのような影響を及ぼすのか、それが世界のバランスを崩すような力ではないか、といった様々な検証が必要となる。
しかし、タイムリミットが迫り、スキル検証をする時間もないまま、光石仁は別の人間として転生してしまった。
光石仁の記憶を持ったまま⋯⋯