妹(魔王)の無茶ぶりに答えてあげるのが兄としての役目だよね(断れなかっただけ)
「ということでお兄様には人間界に忍び込んでもらいます」
無駄にでかい部屋の中、偉そうに椅子の上で足を組んでいる見た目ロリに俺はいきなりそんなことを告げられた。
その部屋はこの魔王城で一番でかい部屋であるが、余計なものは何も置かれていない。あるものを上げられるとすればこの部屋の不気味さを物語る前魔王の趣味の悪い装飾と今まさに目の前で妹が座っている魔王しか座ることの許されていない荘厳とした椅子くらいだ。
「おい、ということでですべて理解できると思ってるのか?それで通じるのは漫画の世界くらいだぞ」
「はぁー、これだからお兄さまは。だから言ってるじゃないですか。今人間どもに侵略されて滅ぼされるのも時間の問題だから人間の国に侵入して勇者どもを全員殺してほしいって」
さっきまでは偉そうにしてたのに今度はあきれたようにため息をつきながら言うロリ。敬語は使われているがその言葉からは少しの敬いも感じられない。
「さっきはそんなことまったく言ってなかっただろ!俺を馬鹿にするのもたいがいにしろ」
「それぐらい察してくださいよ、そんなんだからいつまでたっても下っ端なんですよ」
「ぐふぅ」
思いっきり図星だった。
妹は見た目こそロリだが、十数年前に倒された前魔王である父に代わって混乱する魔界をまとめその頂点に立った魔王である。幼いながら高難易度の魔術を扱い、ステータスも魔王であった父と変わらないほど高い妹と比べ、能力も平均以下いまだに人間の国と争っている戦場の最前線でいつも逃げ回っている俺にはその言葉は鋭く突き刺さった。
「そ、それとこれとは違うだろ!それにそんな下っ端の俺に人間の国に侵入させるって殺す気か!」
大体、俺には侵入なんて無理だし、できたとして勇者を殺せる能力なんてあるはずがない。しかも、人間の国には全員で勇者が12人いると聞いている。不意打ちしたとしてもまず人間の国の希望である勇者が不意打ちで死ぬとは思えないし、仮に運よく一人殺されたとしてもそれで正体がばれて殺されるにきまっている。
「いえいえ、お兄様を殺す気なんてあるはずないじゃないですか。お兄様を殺すなら人間の国に頼らずに私の力で一瞬ですよ」
親指を立てて首を掻っ切るしぐさをする妹。それはそれで怖いんだけどなぁ…
「それに私だってお兄様の擬態能力は認めてますよ」
「そ、そうなのか…」
「はい、だってたくさんの魔物たちが命を張って戦ってる中、一人人間に化けて人間の食料をくつろぎながら食べてるじゃないですか」
「うっ…」
笑顔で俺のほうを向いてそんなことを妹は言ってくるが、なぜだろう、なんだか目が全く笑ってないんだが…
っていうか、ばれてたのかよ。
実のところを言うと戦場に入っていたのだが、俺は全線で戦わずに人間に擬態し、人間の本陣ど真ん中で食料をむしゃむしゃと食べていたのだ。人間側だからばれないのかと思って安心してたのに、妹の力をなめてたな、と思っていると妹は「それで」と前置きを置いてとんでもないことを言ってきた
「戦場で戦うように言われた魔物が戦場に行かない、または戦いに参加しない、または仲間を見捨てた場合どうなるか知ってますか?」
にこやかに笑って俺のほうを見てくる妹。
それをいわれた瞬間俺は血の気が引いた。忘れていた、そうなった魔物が下される罰は
「死刑ですよね」
そう死刑なのだ。妹が魔王になって初めて作った法律でバラバラになった魔物がもう一度一つになって人間を倒そうと作った法なのだ。
「それでこの場合お兄様が当てはまってしまいますが、お兄様だからと言って助けては魔物たちからの信頼も薄れてしまいますよね」
妹のしゃべり方がなんか最初と比べてだんだん生き生きとしてるし、なんかだんだん追い詰められてる気がするんだが…
「い、いや妹よ!お前が魔物たちにばらさなければばれないはずだ!」
そうだ、結局気づいたのは妹の能力であり、人間の陣地内にいる俺が魔物たちにばれるバズがないのだ。妹がばらさなければ…と思っていたのだが
「いえ、魔物たちから苦情来てますよ、戦場についた瞬間、いなくなって帰るときにはいく前より元気になってるって」
終わった…
「ということでお兄様を人間の国に侵入させる練習をさせてたってことにするので人間の国に侵入してくれますよね?」
そこで俺は気づいてしまったこの部屋に入った時点で俺に逃げ場なんてなかったのだと
「わかりました…やらせていただきます…」
俺は力なくそう答えるかしなかった。
「じゃあ、お兄様が行ってくれるとおっしゃったということで」
「ほぼ強制的だけどな…」
「うん、死刑になりたいって言いましたか?」
「いいえ、すみません…」
「ということでお兄様が自主的に言ってくださるとおっしゃってくださいましたが、一人だとすぐ死んでしまうので心強い仲間を三人用意しておきました」
あ、死ぬって断定してるんだね、言い方的にもっと期待してるのかと思った…
そう言って、妹が扉のほうに手を向けるとこの部屋に合わせた大きいドアが重々しく開きその扉の向こう側には二つの影が見えた。
片方は黒いフード付きのローブを着ており、そのローブのせいで足元まで見えないが、フードからのぞく髪のおかげで辛うじて髪がショートの女性とわかる。
もう片方は全身を鎧で覆っており、肌が一つも見えなくなっているが、一か所だけ鎧が大きく膨らんでる胸だけがこの魔物の体の特徴を示す手掛かりといえるだろう。
「おい、俺の目には二人しか見えないんだが俺の目がおかしいのか?」
「お兄様の目がおかしいのは間違いないですが」
「おい」
「二人しかいないのはあってますよ」
サラッっとディスって来てたな
しかし、それを気にせず妹は言葉を続ける。
「もう一人はこの任務を伝え次第、じゃあ先に偵察に行ってくると単身で人間の国に侵入しに行ってましたよ」
「それって侵入というか突撃じゃね」
なんか一気に心配になってきたな。
「ほんとうにそんなやつにこんな任務をさせて大丈夫なのか?」
「まぁ、いつも言うことを聞かずにこちら側の立てた作戦を壊して回ってますが、腕っぷしだけは保証します」
「ほら、絶対ダメな奴じゃねえか!」
どんなやつにこんな任務を任せようとしてるんだこの妹は…。俺が言えたことじゃないが、魔王の言うことをちゃんと聞かず、猪突猛進で行動、その結果作戦を壊す、この任務でやったらいけないこと勢ぞろいしている…
「やっぱりだめだ、この任務降ろさせてもらう」
いくら、ほかの魔物の反感を買って殺そうと狙われようと死亡確定の任務に行くよりかはましだ。それにさっき妹が言ったとおり俺は擬態が得意だ。逃げようと思えばどこまでも逃げれる自信がある。そう思っていったのだが、その直後隣から
「そうよ!私もこんな任務降ろさせていただきますわ」
とフード付きのローブを着た魔物がそう俺の後に続いた。
「あら、理由を聞いてもよろしいかしら?」
そう妹がその隣の魔物に対して問いただしたのだが、その声を聴いて俺は背筋がぞわっとした。
雰囲気が変わった…
さっきまで俺と話していた時は威厳もないただの妹のような態度だったが、その魔物に対してそういった姿はまさに魔王というような威圧を放っていた。
しかし、その魔物はそんな妹に怖気づく様子もなく堂々としてこういった。
「この任務につくように命じられた時からいっておりましたが、大体人間としゃべりかけられるだけで気絶してしまうくらい人間が嫌なのに、人間の国に侵入するなんて無理ですわ。それにこんな入ってきた瞬間、私のことをエロイ目でじろじろ見てくる奴と一緒に潜入なんて何されるかわかったもんじゃないですし」
「おい、待ていろいろ突っ込みどころ多すぎだろ!!」
まず、大前提として人間と話そうとするだけで気絶するようなやつを人間の国に侵入させるのはおかしいだろ。人間に話しかけられて気絶とかすぐに人間に怪しまれてしまうし、そんなん子の魔物にとって拷問でしかないだろう。何なら拷問よりひどいかもしれない。
そして二つ目!俺がこいつのことをエロイ目で見ただと!こんなん顔を見えなければ、ローブで膨らみすらもわからないやつをどうやってエロイ目で見たらいいと…ああこういうとこか!
そんな感じで自己完結しようとしたのだが、
「あ!私もエロイ目で見られましたよー」
のんきな声でいきなりそんなことを言ってきた全身鎧女。
「おい!こんなところで会話に入ってくるな!!」
「でも、見てたじゃないですかー」
「みてねえよ!」
「でも、あの目は全身鎧してるけど、胸が膨らんでるから女だなーって目をしてましたよー」
「思ってたこととぴったりじゃねえか!俺の心を読んでくるな!」
「ってことはやっぱりそう思ってたってことじゃないですか!」
そんな感じでその全身鎧女との言い争いは続いた。
なんで任務を一緒にするはずの仲間との初会話でこんな付き合いたてのカップルみたいな会話をしないといけないんだよ。
まぁ、俺彼女とかできたことないんだけど…
そして、妹よ。兄をそんな目で見るんじゃない
そうしてひと悶着あったが、妹の一言でこの場は落ち着いた。
「文句や不満はあると思うけど、結論から言わせてもらうとこのメンバーを変える気はないわ。色々欠点はあれど、このメンバーが一番目標を達成できると見込んでのことだから。」
俺たちからの不満はあったが、それをバッサリと切り捨て、そう言った姿は小さいながらも有無を言わせない何かがあった。
「それに何かあったら私に言ってくれればすぐにお兄様を処分しに行くわ」
おい…
しかし、こうして見るとちゃんと魔王してるんだなぁ…
それに比べて俺はグダグダ言い訳して結局逃げてばっかりで…
妹がここまで体張って頑張ってるのに俺が何もしないのは違うよな。
「よし!こうなったら人間界にいる仲間含めて4人で勇者を全員殺してさっさと帰ってるぞ!」
優秀な妹と逃げてばっかの兄。
俺は昔からやっぱり少しはいやかなり劣等感を感じていた。
それに報いるためにも、そして父が死んで幼いながら魔王として頑張っている妹を助けるためにも俺は命を賭けよう!
「えーいやよ、どうせ今日の夜の宿で襲うんでしょ」
「いきなりやる気になったと思ったらそういうことだったんですか?」
せっかく俺がやる気になったというのにやる気をそぐようなことを言う二人。
黙れ、今から仲間になるやつをディスるんじゃない。
「あーだこーだ、言わないでいくぞ!俺がいるから大丈夫だ!」
「あなたがいるから心配なのよ」
そんなことを言っていたが俺は無視して2人の頭をヘッドロックし押さえつけて妹に叫んだ。
「おい、2人を押さえてるからさっさと転移魔法を使ってくれ!」
「いやよいやよ」
「そんなに強く抑えないでください!鎧の頭のところが取れちゃいます」
俺が抑えてる手を外そうと抵抗する2人。
やばい、意外とこいつら力強いぞ!
「わかりました。じゃあ、今から人間の国に転送します。皆さんの健闘を祈ってますね!」
「おう、任せとけ!」
杖を出して転移魔法をかけ始めた妹に自信満々に答えた。
俺たちの足元に魔法陣がどんどん描かれていき、5秒くらいで完成し、その魔法陣がだんだん光り始めた時妹は笑顔でおそらく転移前最後の言葉を話し始めた。
「あ!あと言い忘れてましたが、そちらのローブの魔物は足が、そちらの鎧の魔物は顔がないので決して人間に見られることのないようにお願いしますね」
??
顔と足がない?その魔物たちを見てみると確かにその魔物たちは足や顔は服で隠れている
しかし、
「ちょっと待て、じゃあこの2人ともこの怪しさ満点の服装で街中を歩き回らないといけないのか?!」
「そういうことになりますね」
その姿は全身ローブと全身鎧、見えている肌をないし、端から見たら素性がわからないヤバいやつだ
「おい、やっぱりこの話はなしだ!」
「もう無理ですね」
無情にもそう妹は告げてきた。
「おい!これ無理に決まってるだろ、ふざけるなぁぁぁぁ」
そう言い残し俺たちはその魔法陣から消えたのだった。
最後に聞こえたのは
「死なない程度に頑張ってくださいね」
という妹からの無慈悲は言葉だった。
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