第九話 決着
「ザンザ・・・」
シルバの後ろにいたのはソウル帝國特殊暗殺部隊を束ねる将軍、ザンザ・ヴァーリアだった。ザンザはディンを見ると愉快そうに笑う。
「キヒャヒャヒャッ!?テメェやられてんじゃねぇか。しょうがねぇからオレが殺しといてやったぜ。」
「不意打ちなぞ戦士の風上にもおけない男め…」
「あ?テメェ何言ってんだ。世の中勝ちゃあ良いんだよ。」
「外道が…」
「テメェ死に損ないのくせにいきがってんじゃねぇぞ?」
ザンザはディンの頭を足でゴリゴリと踏む。
「テメェなんざせっかく国王様が慈悲をくれてやったっていうのに一つも大した働きしねぇで…まぁ城門開けてくれたんだから感謝しねぇとな。」
「ディンさん!?貴様何をやってガフッ!?」
「何を!?」
ペケサがザンザに踏まれているディンを見つける。するとザンザはあろう事にもペケサを斬ったのだ。
「だから感謝だよぉ。城門開けてくれたお礼はしねぇとなぁ。それにお前にもな。一応は役に立ったぜ。」
「EGOを落とせば牢に入れられているキャッド隊長を解放するという話は・・・」
「んなモン嘘に決まってるだろぉ?キャハハッ!そもそもそんなやつ自体ソウル帝國にはいないしな。」
「そんな…じゃあオレがしてきた事は・・・」
ディンの顔が絶望に塗れる。つまりディン達無限の軌道部隊は騙されたのだ。ソウル帝國に。ディンの目から涙が溢れた。
スマナイ…ペケサ、シルバ様、国のみんな、キャッド隊長。そして・・・
「あばよ。黒衣の僧侶さんよぅ。」
「そうなるのはアナタです。」
「はっ?グェブッ!?」
ザンザが風のごとく吹き飛ぶ。その目の前にはディンが最も会いたかった人がいた。
「私に黙って死ぬなんて許しません。旦那様。」
「チェリー!?何で・・・」
「黙れ。アンタがどっか行くから追いかけてきたんでしょうが。」
チェリーはいつもの声とは思えない低い声でディンを睨む。この時ディンは悟った。あ、やばい。キレてる・・・と。
「女…テメェいきなり攻撃たぁ上等じゃねぇか。」
「お前も黙れ。旦那様を傷つけた罪、その命で払ってもらう。」
「死ねや!」
ザンザがチェリーに向かう。だがチェリーは一回、たった一回剣を振っただけでザンザは体中から血を噴き出して倒れた。ザンザの血がチェリーに降りかかる。
「うっ・・・何が起こったんですか?ッ!?」
その時、ザンザに斬られて意識を失っていたシルバが目を覚ました。そして血まみれのチェリーを見て声を失う。
「ディン、あれは誰ですか?」
「誰ってチェリーですよ。」
「あれがですか?」
シルバがそう言う程チェリーのその姿は異様だった。
「強いやつ出てこいぃ!」
「次から次へとやっかいなやつが・・・」
大きな怒声と共に東門からソウル帝國最凶の男、凶戦士モナ・アイスだった。モナは血まみれで倒れているザンザを見つけるとまわりを見渡す。
「ザンザを倒したやつ出てこい!オレと勝負しやがれ!!」
「私です。」
「あんっ?お前はあの時の女じゃねぇか。嘘をつくな。隠すとお前も殺すぞ。」
「殺してみろやクソ野郎。」
「・・・おもしれぇ。」
そして今度はチェリーとモナが戦いを始めた。その凄まじい戦いにシルバとディンは呆気にとられる。
「ディン、チェリーちゃんて何者?」
「…チェリーが昔傭兵だったっていう事は話しましたよね?」
「えぇ。」
「チェリーの傭兵時代の異名は…血まみれの聖女です。」
「ブラッディ・マリア!?」
ブラッディ・マリア。戦った者に容赦はせず、相手が命乞いをしてもその命を奪った伝説の傭兵。その強さは一人で大国五個小隊にも勝ったといわれている。常に相手の返り血を浴びていてシスター姿だった事からこの名がつけられた。
「ちなみにあいつがキレた時はオレなんて足元にも及ばないくらい強いです。」
「ディンもすごいお嫁さんもらったねぇ。」
ディンとシルバはさっきまで戦っていたとは思えない軽い調子で会話をしていた。その間にもモナとチェリーは激しい戦いを繰り広げる。だがその戦いに水をさすようにソウル帝國の伝令兵士がやってきた。
「モナ様、撤退命令が出ました!」
「撤退命令だと?何故だ。自軍は押してるだろ。それよりオレの戦いを邪魔するな。」
「それが・・・我が軍が劣勢です。」
「何!?」
ここで初めてモナが動揺を見せた。
「どういう事だ!?」
「隙あり!」
「チッ・・・」
モナが動揺した隙をチェリーは見逃さず猛攻をかける。そしてモナが距離をとった瞬間崩れた壁の脇から誰かが現れた。
「モナ、ポンの敵をとらせてもらう!」
「なにっ!?ぐぅっ!」
それは物陰に隠れていたファイタだった。彼はポンの敵を取る為にモナを見つけてからずっと機会をうかがっていたのだ。ファイタはあらん限りの力を剣に込めてモナに斬りつけた。モナは腕でガードするが大量の血が腕から流れる。
「くそがっ・・・お前の顔、覚えとくぜ。撤退だ!!」
モナは苦々しげな表情をしながらザンザを背中に背負って撤退する。それを見たソウル軍兵士も次々と撤退し始めた。そして後から諜報部隊将軍であるフレアが現れる。
「一体何が・・・」
「国王様、ご報告です。」
「言いなさい。」
「国王様から指揮権を託されたレィ様の指揮でソウル帝國軍は次々と敗北。ミー将軍の部隊がジョウ・セイ部隊、バイ・ウィル部隊を城門内での挟み撃ちで撃退、レィ様率いる部隊がカジヤ・ソウル王率いる精鋭部隊を正面対決で共に壊滅状態。カジヤ王は撤退、その他方面のソウル軍も一斉撤退を開始しました。」
「嘘・・・」
「レィ将軍・ミー将軍共に重症ですが命に別条は無いとの事です。」
「よかった・・・」
「「「「ウオオォオォォォオオオォ!?!?」」」」
シルバが安堵したと同時に城のあちこちから歓声が起こった。そして数日後、ソウル帝國はEGOとの停戦を発表。ここに魂風戦争は終わりを告げた。