第六話 夫婦の気持ち
「朝日が綺麗ですね~!」
「そうですね。」
ペケサとチェリーは要塞の周りを歩く。チェリーは笑いながら外を走り回っていた。ペケサにとってはチェリーの精神的負担を少しでも和らげようという事だったのだがどうやら成功したようだ。ペケサの口から安堵のため息が漏れる。ふとチェリーの足が止まった。
「ペケサさん。」
「何です?」
「何か隠していませんか?」
振り向いたチェリーの顔は真剣そのものだった。その顔を見て思わずペケサは後ずさる。
「な、何を言っているんですか。隠しているわけがないじゃないですか。」
「それなら良いですけど・・・旦那様は私に隠し事をしていましたから。帰ってきたらお仕置きです。フフフっ・・・」
チェリーはそう言って笑う。それを見てペケサは苦笑いしたが同時に罪悪感がこみ上げてきた。
「きっと何か言えない理由があったんですよ。」
「そうです。頭は理由も無しに裏切る人ではありませんから。」
「セシルさん!!」
「お久しぶりです。姉御。」
いつの間にかチェリーとペケサの後ろにはセシル傭兵団団長、セシル・キャンベルがいた。チェリーはセシルを見ると驚きの声を上げる。
「お知り合いですか?」
「前に住んでいた場所で知り合ったんです。会議室で会った時には驚きました。」
「まぁそんな話はさておき頭は姉御を愛していますから…理由もなしに裏切る事はありえませんよ。」
「本当・・・ですかね・・・?」
チェリーはやはり不安だったのだろう。目からは大粒の涙を流していた。やはり彼女も女の子、心の内では不安だったのだろう。
「えぇ、明日になれば何かが変わりますよ。」
「そうですね。そうですよね!!」
チェリーは手で涙をふく。その時、後ろから伝令役の兵士がやってきた。
「お三方、敵がもうすぐここに攻撃を仕掛けてきます!急ぎお戻りください!」
「じゃあ行きますか。」
「はい!!」
そして三人は決戦へと向かう。その頃、ソウル帝國陣営ではディンが馬に乗って歩いていた。
「よぉディン。」
「モナか、何の用だ。」
「連れないねぇ。それよりお前、あの時敵を逃がしたから大目玉食らったんだろ?」
「それがどうした。」
「あんまり派手に動かない方が良いぜぇ?表でも・・・そして裏でもな。」
モナの言葉にピクッとディンの肩が動く。それをみてモナはニヤリと笑った。
「そうしないとアイツが何されるか分かったもんじゃないもんなぁ?」
そこでギィンッと金属音がなる。周りの兵士が気がつくとディンのレクイエムとモナの剣がぶつかり合っていた。
「それ以上喋るなら殺すぞ?」
「おもしれぇ・・・やってみろよ?」
「お前ら、何をしている!!」
ディンとモナ、二人の間から険悪な空気が広がると一つの凛とした声がそれを止めた。綺麗な長い黒髪に赤いバンダナ、ソウル帝國国王であるカジヤ・ソウルだった。
「国王…」
「ちっ・・・カジヤかよ。」
「お前ら、その元気をEGOの戦いの時に出せ。そしてディン、今回はちゃんと働けよ?ヤツを無事に解放して欲しかったらな。」
「・・・分かっているさ。」
「それなら良い。もう少しでEGO要塞に攻撃を仕掛ける。準備を怠るな。」
「ヘイヘイ。たくっ・・・興が削がれたぜ。」
モナはやる気を失ったようでサッサとその場を離れていく。それを見たカジヤも元の場所へと戻って行った。ディンは空を見る。
「チェリー・・・」
その言葉は風の音で消え去る。彼はその空に何の想いを込めたのだろうか・・・?それはディン以外誰にも分からない・・・・
そして正午、要塞の中でEGOと書かれた旗が、要塞の外では魂と書かれた旗がそれぞれ風ではためいていた。そしてその下には両軍が息を潜めて戦いの合図を待っていた。
ソウル帝國大将、カジヤ・ソウルが手を上げる。シルバも弓を構えた兵士達の上で手を上げた。そしてその時だけ風が止んだ。
「「「「・・・・・・」」」」
「「「「・・・・・・」」」」
両軍に緊迫した雰囲気が漂う。そしてカジヤの手とシルバの手が・・・降りた。
「攻撃開始ーーー!!」
「放てーーーー!!」
こうして全世界を揺るがせ、この時代最大の戦いと言われ、後にEGO要塞の悲劇と呼ばれたこの戦いは今、その幕を上げた。