第二話 黒衣の妻とオンガの悲劇
会議が終わり、皆が解散となった所でシルバはある部屋へと向かっていた。シルバはその部屋の前へと来るとトントンっとドアを叩く。反応が無い事を確認するとシルバは静かにドアを開けた。
「失礼します。チェリーちゃん・・・いる?」
「・・・・・」
シルバが部屋に入ると座ったまま虚ろな目で空を見つめる女性の姿があった。彼女の名はチェリー・レディス。国境警備地点で行方不明になったディンの妻である。
「チェリーちゃん。」
「あ、国王様…すいません少しボーっとしてまして。」
「無理しなくて良いのよ。ディンの事は残念だったわ。」
「まだ死んだと決まっていません。」
「・・・えぇそうね。ごめんなさい。」
チェリーは荒い口調でシルバに言う。シルバも笑顔でそれを謝った。
「いえ…国王様、お願いがあります。」
「何ですか?」
「私を軍に加えてください。」
シルバはその言葉に彼女の強い意志を感じた。だから本来ならば危険な戦場に連れていくのは賛成しかねるのだが思わずこう言ってしまったのだ。
「分かりました。」
「本当ですか!?」
「えぇ、あなたにはディンが率いていた特殊遊撃部隊の副隊長をしてもらいます。」
「ぇ・・・確かあの部隊の副隊長はペケサさんじゃあ・・・?」
「ディンが行方不明になったので繰り上がりでペケサが隊長になりました。彼は重症ですがアヤの力で戦いまでには回復できるそうです。」
繰り上がり昇進。隊長が戦死した部隊の副隊長によくある事だった。それを知っているのだろう。不機嫌な顔になった。
「とにかく恐らく早くて明後日、遅くてもその次の日には敵は要塞に攻め込んでくるでしょう。それまで待機していて下さい。」
シルバはそれだけ言うと部屋を出た。後に残されたチェリーはベッドに倒れこんだ。
「旦那様・・・」
小さく呟く。最初にディンが行方不明になったと聞いた時は信じられなかった。と同時に認めなくないという思いの方が強かった。だからチェリーは決めたのだ。
「私が旦那様を助け出します。」
そう心に誓い、チェリーは眠りについた。その頃、部屋を出て行ったシルバはミーとレィと一緒に執務室で話をしていた。
「ソウル帝國、か。いつかはぶつかると思っていたけどこんなに早くなるとは予想外だわ。」
「ソウル帝國もそれだけ危惧してるのでしょう。」
「なっちゃったものは仕方ないよね~それより心配なのはチェリーちゃんよ。ディン君が行方不明になってから部屋に閉じこもりきりだよ?」
「それなら心配ありません。さっきチェリーが自分も戦争に参加させてくれと言ってきました。ついでにいえばOKしてきました。」
「はっ?それはいくらなんでも危険すぎませんか?」
「大丈夫でしょう。ディンから以前聞いた事ありましたが元傭兵で相当の実力者だそうですから。」
「まぁいざとなれば私達が守ればいいですしね~」
そして夜は更けていく。だが彼らは知らない。後にこの彼女が国にとって大きな役割を果たす事に・・・
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「ここがソウル帝國の陣地か。思った通り凄い数だな。それに進軍スピードも速い。」
オンガは暗闇の中、かがり火が焚かれてあるテントの集団を見て言葉を放つ。彼の後ろには同じ諜報部隊の隊員数人をつれて偵察に来ていた。
「副隊長、どうしますか?」
「深追いは禁物だが・・・せめて誰が指揮しているのか調べないとな。行くぞ。」
オンガは陣地の奥へと兵士に気づかれないように進んでいく。ふと軍の作戦本部らしき豪華なテントが見えた。そこにちょうど髪の長い額に赤いバンダナを巻いた男が入っていく。
「あれはカジャ・ソウル。国王が直々に指揮をしているとは…やつらもそれほど本気だという事か。調べたい事は大体分かった。引くぞ。」
だが後ろにいるハズの部下の返事が無い。そこでオンガは咄嗟に腰の短剣を後ろに振るう。後ろにいた男はスッと後ろに下がった。オンガが後ろを見ると血を流して倒れている隊員の後ろを食い服を着た男が立っていた。
「見つかっちまったか…お前は誰だ?オレにまで気付かされないとは相当の実力者だと思うが・・・」
だがそこでオンガはふと疑問に思った。今までオンガ達諜報部隊はソウル帝国の事を色々調べてきたが黒い服を着た実力者など聞いたことが無い。最近来た新しい将軍なのだろうか?
「・・・・・」
男は無言で剣を構える。そしてオンガはその剣を見たときに敵が誰であるかを悟った。
「お前は!?」
そこでオンガの意識は途切れた。門番の兵士がEGO国要塞の前に瀕死の状態のオンガを見つけたのは次の日の早朝の事だった。