最終話 裏切りの男の結末
ソウル帝國とEGO国の戦い、魂風戦争は終わりを告げた。しかしシルバやその幹部達は微妙な顔で会議室にいた。それは裏切ったディンとペケサの処罰をどうするかの会議だった。
「ペケサはともかくディンをどうするかだね。」
「私は死刑で良いと思いますが…」
「でも同じ国の仲間だよぉ?」
「しかし罰が無ければ国民に示しがつきません。」
シルバ達は悩んでいた。ディンを死刑にはしたくない。しかし、国家反逆罪は死刑と昔から決まっている。しかも今回のディンの裏切りで本来は出す事が無かったかもしれない犠牲者がたくさん出たのだ。これはもう弁解の余地も無い。
「死刑を免れる方法・・・」
「法改正は・・・今からすぐにとはいきませんしねぇ。」
「もう死刑にするしか…」
「失礼します!」
シルバ達が諦めかけていた時、キョウを先頭にした数人の隊長が会議室の中に入ってきた。その礼儀知らずな入り方にレィが怒鳴る。
「何だお前ら、今は会議中だぞ!!」
「お願いがあります。」
キョウはレィの怒りも気にせずシルバに、ある紙を差し出してきた。それを怪訝な表情をしながらもシルバは受け取る。その紙の内容を見たシルバは目を見開いた。
「これは・・・」
「自分達や国民が署名した嘆願書です。お願いします。ディンやペケサさんを死刑にしないでください!!」
「「「「お願いします!!」」」」
そしてキョウが土下座をすると、後ろにいたベニバナやキリンをはじめとした各隊長達が同時に土下座をした。
「お前ら・・・」
「まぁ嘆願書もあるし国民の意思を組むのが国王ですから。」
「ですねぇ。」
キョウは顔を上げる。すると・・・
「ディンならびにペケサの罪は許されるものではありません。ですが・・・彼らがこれまで国に尽くしてきた功績で減罪します。死刑は無しです。」
「「「ワアアァアァァァアッ!!」」」
会議室から歓声が上がる。中には泣いている者までいた。いやシルバの隣でもミーが泣いている。
「グスッ…ディンさん、は…ヒック、幸せ者ですねぇ・・・・」
「ミーさん鼻水吹きなさい。」
ミーに呆れた声でハンカチを差し出したレィ。しかしその声とは裏腹に表情は笑っていた。彼も口では死刑にすると言いながらもやはりディンを死なせたくはなかったのだろう。
「ではディンとペケサを呼びなさい。」
そしてディンとペケサは牢から出され、城の広間に連れて行かれた。
「とうとうこの日が来ましたか。」
「・・・・」
ペケサの顔がこわばる。そこで広間の一番奥から、シルバが現れた。シルバはディンとペケサの少し前で止まる。
「アナタ達の罰が決まりました。」
「・・・」
「裏切りは国家反逆罪と死刑です。それはあなたも分かっていますね。ディン。」
「はい。すみません、一つ願いを聞いてくれませんか?」
「内容によりますね。」
「ペケサの罪を軽くしてくれませんか?彼はオレが無理やり仲間に引き入れただけですので・・・」
「なっ・・・副隊長!?」
「分かりました。」
「クッ…全員動くな!!」
ディンの願いをシルバが聞き届ける約束をするとペケサは足に隠してあったナイフで縄を切ってシルバの首に当てた。ディンが叫ぶ。
「ペケサっ!?」
「近づくな。これ以上近づくとシルバ様を殺すぞ。」
「やめろペケサ!!」
「副隊長はここで死んでよい人間では無いんだ!」
そう言ったペケサの目は本気だった。しかし等の本人であるシルバはナイフを突き付けられているにも関わらず平静な顔をしていた。
「ペケサさん、そのナイフをしまいなさい。そして話を最後まで聞きなさい。」
「ディンさんを死刑にはさせん!」
「聞け。」
シルバの目が氷の様に冷たくなる。そのあまりにも冷酷な瞳にペケサは思わず立ちすくんだ。
「本来ならば死刑の所なんですが…」
最初の方でペケサのナイフに力がこもった。
「国民から嘆願書が来まして国王としてその願いを聞き届けなければならないのですよ。」
「へっ?」
「はっ?」
ペケサとディンの双方が同時に間抜けな声を上げる。それを気にせずシルバは話を続けた。
「なのでディンとペケサの罰は城壁の修復作業を一カ月手伝う事。分かりましたね?」
「で、でわ死刑は・・・」
「私は何度も同じことを言いませんよ?」
「うっ・・・ぐっ・・・」
シルバの首筋に当てていたナイフが床に落ち、ペケサはその場に泣き崩れる。そしてディンも瞳に涙が溜まってきていた。
「オレは…裏切ったのに・・・・みんなを傷つけたのに…」
涙は瞳から頬に移動し、やがて顎を伝って床に落ちた。そして・・・
「ウッ・・・アッ・・・アァッ・・・アァアァアアアッ!!」
そのまま大声で声を上げて泣いた。それはディンが始めて皆の前で見せた涙だった。
「一件落着ですね。」
そんなディンをシルバは笑顔で見つめていた・・・・