チートを望んで叶った話
ネットでよく聞く異世界転生。いざ自分がそうなったら何を願う?
俺は万能を望んだ。却下された。
該当要項は転生基準である生命体の能力から逸脱しており、過大請求に当たると返された。なんたる機械的返答だ。
なのでこちらも「転生先の基準情報を寄越せ」と丁寧に慎重に言い換えつつ、聞き出すことにした。大気成分や重力、生態系が地球上のそれと乖離しまくっているなら、こちらの常識がまるで通じないだろうし。
幸いにも転生先は、ほぼほぼ地球と呼べるほど酷似した世界だった。魔法も超能力もなく、モンスターも、実体としての神や悪魔もいない。
転生は質量保存法則に近く、魂に「人類には理解できない」質量単位があって、過不足が生じた場合は平行世界間で融通を利かせると知れた。んなこと繰り返してるから根本的解決にならないんじゃねえのか、と思った。
俺に語りかけてくる存在は、神であり悪魔であり精霊であり機械でありプログラムだそうだ。民族や時代や宗教で、呼び方が変わるらしい。
唯一神ってことか、と解釈したら否定された。面倒そうなので追及しなかった。
俺はその世界の、食物連鎖の頂点に立つ、文化的社会を営む生命体に転生することが内定しているので。
その種の限界を越えた能力を有することはできないらしい。
サメやグリズリーか、と問うとヒトと返された。頑張って虫食うからゴリラがいい、とごねたが駄目だった。
えーやだー、だってヒトってめんどいじゃん。文化文明科学技術はありがたいけど、民族宗教国籍教育経済の違いで生き地獄待ったなしじゃん。疫病でばたばた死ぬし、戦争でばかすか隣人殺めるじゃん。
無才の転生者なんて、社会システムにすりつぶされてオシマイじゃん。俺はもっと平和に生きたい。
それにヒトとして生まれたらどうやったって「現代日本の一庶民」として享受してたあれこれと比べちゃうじゃん、絶対に超ストレスじゃん、やだやだ。
だけどゴリラならどうよ、自分もゴリラ、周囲もゴリラ、ヒトじゃないなら前世常識をなげうって順応するのも早いと思う。生き延びるためなら虫でも木の皮でもオッケー、だってみんながそうしてる。あとゴリラ味覚なら美味いと感じられる可能性も。
そしてゴリラは超強い。話を聞く限り異世界のヒトはほぼほぼ地球基準、だったらパワーもスピードもゴリラが上だ。辛くなったら人里に近付いて、俺はあのヒトよりつえーし、って自分を慰めることもできる。
今の俺としての記憶がなくなってゼロスタートなら、わざわざ取説じゃねえ異世界解説までしないだろうし、きっと記憶持ち越しかある日前世を思い出すパターンだろう!
だったらほら、本人の希望を汲んでここは一発ゴリラ転生! でーじょーぶだ仲間ゴリラに知恵を授けてヒトを駆逐するとかしないから! 天然ゴリラはそんな繁殖率じゃないから! 数で負けるの分かってるから最初から戦争とか選択肢にない!
頼れるお嫁さんゴリラと一緒に晴耕雨読、じゃねえ晴れたら採取で雨の日はふて寝の日々を過ごして、子育て超頑張るし!
あ、ちょっとツリーハウスっぽくするくらいはいいよね?
ゴーリラ、ゴリラゴーリラ、と何処かの風俗宣伝車っぽく声を上げ続けていたら、唯一ではない唯一神モドキからご宣告。
ヒトに従属するゴリラっぽいナニカとして生きろ、と決定が下された。
反論前に俺の意識は白く弾けた。
というわけで、転生した俺です。
身長2メートル40センチ、二足歩行でヒトと同じ声帯構造を持つ、複数言語を解し衣服を着けた、
「ちげーし」
純ゴリラでもハーフゴリラでもゴリラ型獣人でもない。俺はゴリラロボットだ。
この世界のゴリラは保護区でまったり生きてるらしい。ずるい俺はそっちが良かった。
学習映像にアクセスしたら羨ましすぎて絶望した。バナナうまそう。平和にウホウホしてやがる。あと賢くなってツリーハウス作ってた。俺様意味なし。
異世界は前世の地球を軽くぶっちぎったSF世界だった。他にどう言えば良いのか分からない。
知識チートだの前世ブーストだのは皆無だ。たまに俺が変なことを口にすると、人工シナプスだのニューロンだのファジーニュアンスだの、解析機械にスキャン?されるくらいで、トラブルには至っていない。
万能ではないが、ほかのヒト同様に記録装置に蓄積され続ける情報に無限アクセスできるし、疾病や老化とは無縁。
自然エネルギー転換装置とやらの効率が良く、口にした食物は天然堆肥として排出。そもそも食事は必須ではない。切ない。たまに食っちゃう。
俺と同じゴリラロボットはいない。お嫁さん欲しいけど、俺の股間はナッシング。性欲がないってー素敵なことねー、じゃねえよ! 平穏で平坦ですべてに対して枯れた達観状態ですよ、常に仙人か枯れ隠居ですよ女性の美醜なんざどーでもいいですトキメキも興奮も美術芸術自然観賞中心です。
つまらん、実につまらん。
誰だこんな唯一のゴリラロボットの製作者でてこい、え、既に鬼籍の天才科学者ですか。今度お墓参りにいきます。あって良かったお墓文化。
そのゴリラロボットは至高の技術であり、後のヒト型ロボットの礎であり、魂を宿した奇跡と呼ばれた。
数世紀を経てもなお、彼のように「魂ある」人造人格の製造規格には至れず、製造者は神とも悪魔とも呼ばれた。
ゴリラロボットは温厚でユーモアがあり、旧いものを愛しながら革新を疎まず、ヒトを静かに愛した。
「どうしてこうなった」
彼の口癖は人類への戒めであり、疑問であり、技術進化への道標とされる。
「いやさ、だからどうしてこうなった」
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