出会い
久しぶりの更新ですね。第4話です。
それは遠い、遠い記憶。
暗き夜。
朱い月。
真っ赤な池。
二つの■■■。
黒い、黒い憎悪。
だけども、どうしてか空は驚くほど穏やかだった―――――――。
◇◆◇◆◇◆◇
「っつつ、はぁ、はぁ」
な、なんなんだ今のは・・・・・・。
どこか暗くどろりとした映像が突然フラッシュバックした。
『ぐぅるるるるる、ぐふぅ、あああ』
その“黒い何か”が聞いたことの無いような錆びれた声を発した。
俺はそいつをただ腰を抜かして見ることしかできなかった。
ずず、ずず、ずず・・・・・。
そいつは何かを引き摺りながらこっちに確かな早さで迫ってきている。
「かっ、はっっっ、はっ、くっ」
上手く呼吸が出来ない。
心臓がまるで自分の物ではないように激しく鼓動する。
そうして俺は目を大きく開けたまま、そいつが側に来るのも見ていた。
眼は黄色、体は茶黒く焦げ、性別も分からない。
ただ、確かなことは、“こいつは人間ではない”
そいつは俺を見ると、
『ぐるぅぅぅううああああああ!!!!!!!!!!』
と唾を激しく飛ばせながら咆哮をあげた。
そうして顔が迫ってきた。
話せず、呼吸も出来ず、動けず、抗えず、ただ恐怖に捕らわれていた。
死ぬ、のか??
こんなところで・・・・。
俺は最後に思った。
ああ、俺は所詮弱者なんだと。
眼には一筋の涙が流れた。
ああ、俺にもこんな感情が残っていたのか・・・・・・。
俺は死を覚悟して最後の力を振り絞り目を閉じた。
カッ、カッ、カッ。
一定でゆっくりとした高い足音が鳴る。
「Eine Klinge des Windes」
凛とした言葉が響いた。
その刹那頭の上、体の横を一迅の風が吹き抜けた――――――。
◇◆◇◆◇◆◇
ビュン、ビュン、ビュン、スパパパ。
そうして音を失った。
「え?」
俺は何も起こらないことに疑問を抱きつつ、ゆっくりと目を開けた。
ドサドサドサドサ・・・、ぐちゃ、くちゃちゃちゃ・・・・。
目の前にさっきまでの奴は居なかった。
あったのはまだ生暖かい肉塊だった。
カッ、カッ、カッ、カッ―――――。
誰かが歩いてくる。
俺は振り返る。
そうして目に入ったのは、路地のほんの隙間から覗く月明かりに照らされた秋ノ宮だった。
「こんばんは、翔。いえ、今のあなたは永坡くんだったわね」
なんで秋ノ宮が・・・。
どうしてこんな所に・・・。
今の風は何なのか・・・。
いくつもの質問が頭に浮かんできたが、言葉にすることができなかった。
否、俺はただ一点に集中していた。
長く煌く腰まである黒い髪、整った顔、光の灯った二重でキリッとした目、凛とした振る舞い、その全てに目を奪われていた。
「大丈夫だったかしら??」
「な、何で・・・・・」
「何ではコッチの台詞だわ。あなたならこの程度の屍なんて造作もないでしょ」
「!!」
今何って?、何て言った!?
「まあどうゆうつもりかは知らないけれども立てる??」
「あ、悪い・・・」
俺は腰が抜けたままで情けないことに秋ノ宮に手を貸してもらった。
握ってみると秋ノ宮の手はさらさらしていて、女の子らしく柔らかな手だった。
「さてと、こんな所で話もなんだし、取りあえず何処か落ち着ける場所に行くわよ」
「いや、この死体とかどうするんだよ」
「その心配ならないわよ。ほら」
再びあの俺を襲った屍や死体に嫌々ながらも目を向けると、すでに灰になりつつあった。
「ね、じゃあ行きましょうか」
「あ、ああ」
◇◆◇◆◇◆◇
そうして俺と秋ノ宮は新都を離れて、郊外にある適当な公園に着いた。
「そこのベンチでいいかしら?」
「ああ」
俺と秋ノ宮は適度な距離を保ちつつ公園にあったベンチに座ることにした。
「さて、私から質問していいかしら??」
「え、ああ」
「まずは・・・・、そうね、どうしてあそこにいたのかしら??」
「それは・・・・・・気になったからだ」
「どうして??」
「今日ある奴から気になることを聞いたんだ。新都に通り魔が現れてそいつが人を襲って、襲われた奴は首に二つの穴が空いていて、まるでそれは――――――」
「吸血鬼でしょ?、はぁ~、あなたそんな理由で新都に繰り出したの?」
「そんな理由って・・・」
「まあいいわ。じゃあ、次の質問。どうしてあなたは“魔術を使わなかった”のかしら??」
「!!」
「あなたは在り方が違うだけで、私と同じ魔術師よね?、なら、どうして何もせず、ただ座り込んでいたの??」
「・・・・・」
俺は正直言葉が出なかった。
そうしてあの秋ノ宮に自分の正体が知られているのかまったく理解できなかったからだ。
これでも自分なりに、あまり目立つような行動はせず、友人ともあまり深く関わらず、世間一般の”何処にでもいるような真面目な生徒”を演じてきたはずだ。
なのになぜ、話したこともない秋ノ宮がそれを知っているのか、俺は驚きを隠せずにいた。
「どうして・・・・・、俺が魔術師だって・・??」
「そのこと??、簡単よ。ただ知っていっただけ。ただそれだけよ」
「知っていた・・・??」
「ええ、あなたは永坡末次の子孫でしょ??」
「なんで秋ノ宮が曾じいちゃんの名前を・・・・」
永坡末次。
俺の父方の祖父に当たる人で、世界にも名を馳せる有名な魔術師だったひとである。
「魔術師で彼を知らない人はもちろんいないわ。そしてその息子もそして――永坡くんあなたもよ」
「じゃあ、秋ノ宮は・・・」
「そう、私も魔術師よ。あなたのことだからとっくに知っているものだと思っていたのだけれども」
「秋ノ宮が魔術師・・・??」
「ええ、そうよ。もっとも私が扱うのは古代魔術の方に当たるのだけれども」
古代魔術。
大昔から存在し、この世の理などに反した事象を具現化させるものであり、発動には魔術師の能力に大きく影響する。
「だけども、あなたは違うわよね永坡くん。だってあなたは現代魔法を扱えるのだから」
「!!、どうして秋ノ宮がそのことを!?」
「だから説明したじゃない、私は永坡末次のことを知っていると」
現代魔術。
俺がだけが唯一扱える魔術であり、たとえいたとしても俺ほど扱えるものはいない魔術。
永坡末次が完成させた魔術で、古代魔術に限界を感じていた永坡末次が独自で編み出した魔術である。
魔術の発動にはデバイスである演算機器が必要である。
たとえば俺で言えばこのいつもつけている音楽プレイヤーで、どうやって発動させるのかというと仕組みはこうだ。
まず俺が発動させたい魔術を考えその術式の組み立て方、力の運用、発動タイミングなどを演算する。
そうして、その俺が演算したデーターをイヤホンから脳波を読み取り、魔力を魔術への変換効率や、実際にどの位の質量で発動するのかを演算して、そうしてようやく発動できる。
この魔術は才能が要らない分、高い演算機能を持つデバイスと、それを調整するエンジニア、そして発動前のデーターを的確に計演算する術者の知能が必要となる。
だから扱うものはいたとしてもそれはかなり古代魔術に劣るものであり、誰も使おうとはしない。
だからこそ、俺は魔術師であることを隠し、過去もそして今も隠し続けてきたのである。
「質問を戻すわ。どうしてあなたは魔術を使わなかったの??」
「・・・・・・・・・・」
「話したくないようね。まあいいわ、話したくない人から無理やり聞くような趣味は持ってないし。それより、あなたはこれからどうするの??」
「どうするって??」
「今日のことはなかったことにしてこのまま普段どおりの生活に戻るか。それとも・・・・・私と一緒にこの町で何が起こっているのかを調べるかよ」
「決める前に2,3質問してもいいか??」
「ええ、いいわよ」
「秋ノ宮はそ、その魔術師だよな??」
「ええ、そうよ」
「それじゃあ、次の質問。秋ノ宮はどうして学校を休んでまで新都にいたんだ??」
「もちろん調べるためよ。ここ最近被害が目に見えて被害が大きいから。それに確認できないだけで実際にはさらに被害者は多いでしょうからね」
「じゃあ、最後。秋ノ宮は吸血鬼のことを何処まで知っているんだ??」
「あなたはどうなの??」
「もちろん一般論でいえば、血を吸うことで生きながらえ、不老不死だ。それに十字架、にんにく、聖水などに弱く、心臓を杭で打たれれば死ぬってところだろうな。俺が魔術的サイドで知っているのはまずは吸血には原種でもある始祖がいるってことだな。そいつらはもちろん不死であり、始祖であるからこそその持っている力も大きい。そして俺達が世間一般で言う吸血鬼と大きく違うのは吸血衝動がないということだな。そして普通の吸血鬼は吸血鬼を増やすことができるが始祖と同じではなく、劣化したもので、常に他者の血を吸わないと細胞が死滅してしまうってのと、吸血衝動があるってことぐらいかな。あの俺を襲った黒いやつは知らない」
「へえ~、なかなか知っているじゃない。ちなみにあの黒いものは屍といって、吸血鬼の失敗作というところね」
「失敗作??」
「そ、誰しも吸血鬼になれるってわけではないの。始祖から血を流されたものはその血に自身を犯されるわ。そうして犯されたもののなかでその血に上手く適合するものもいるの。まあもっともそれは5000人に一人ぐらの割合で適合できなかったものの多くはああなるの」
「なるほど・・・・・、つまりはこの町にも吸血鬼あるいは始祖がいるんだな??」
「ええ、その可能性は高いわ。だから調べていたの。それであなたはどうするの??」
どうするか、そんなものは決まっている。
もちろん―――
「俺も新都を探るよ。魔術師として自分の領分を守るのは同然のことだし、これ以上被害を出すわけにはいかない」
「決まりね。よろしくね永坡くん」
そう言ってスッと手を差し出してきた。
「これから協力関係になるんですもの。握手くらい必要でしょ?」
「ああ、そういうことか」
そうして俺は秋ノ宮と握手を交わした。
秋ノ宮の手はやわらく、どこか温かみがあった。
「よろしく翔」
「!?、ああ、よろしく・・・」
そうして偶然にも俺達は出会った。
けど、もしかしたらこの出会いは運命だったのかもしれない。
そう、これは運命。
俺達は出会うべくして出会った―――――――。
どうも守月です。
久しぶりの更新でしたがどうだったでしょうか??
ちなみに楸が使っていた魔術はドイツ語です。気になる方は翻訳で確かめてみてください。
いつものことですが、誤字・脱字の指摘、アドバイス、感想などをお待ちしています。
ではまた次回まで。