再復活
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「今回 ww wは5分持ちませんでしたねwwプークスクス」
6度目の死を迎えたところだった。
この何もない空間にも慣れ、むしろ危険が(この駄女神の態度による憤死を除いては)ない分落ち着きさえ覚え始めている。
「全く希望が見えない中で足掻くしかない気持ちを一言〜」
「じゃかあしい」
「あいったぁ…暴力反対ぃ…」
一本ずつデコピンをしていた右手の指もこれで打ち止めである。
希望が見えない…だが確かに駄女神の言葉は的を得ていた。
今のところ死にゲーを繰り返している青年だが、生き返る…という表現もどうかとは思うが…タイミングは変わらず、泥で足が滑っている場面からである。
2回目の復活ではなんとか大猪ともつれあいつつも倒せた。
だが3回目からはどうだろう。もつれあったまま頭を打ち付けられて命を落としたり、猪の足に絡まって圧死したり。ひどい場合は初めの杉の木に挟まれ半ばミンチになった。
一番上手く行った時でも2頭目をなんとか手負いにするところまでだった。死にかけの獣が最も油断ならないと言うのは本当で、牙に貫かれ息絶えたのが実情である。
「うぅ…」
おぞましい体験に鳥肌が立つ。
この具合に全く事態が進んでいないことだけは確かだった。
「苦戦してますねぇ…いいことです。そもそも最近の人間は楽勝すぎるんでふ。大半は狩りもしないし農業もふぃない。食べ物がスーパーに並んでいるのを当然だと思っている。ふぉんな…ことを思えばたまには命をかけて戦ってもバチは当たらぬというものです」
「お前はどうなんだよお前は。この安全空間で饅頭食ってるのが楽勝ではないと?」
どこから取り出してきたのかお茶まで啜り始めた女神はしかして顔色ひとつ変えない。
「私はいいのです。神には常に人間を見守り導く義務があります。私たちは頭脳を使うゆえ、少しばかりの怠惰と資源の多めの分配は致仕方ないのです」
「…」ため息もでない。直前に死亡した体勢のまま仰向けに脱力した。
「駄女神め…せめて復活のタイミングをズラせればなぁ…まだ準備ができそうなものを…」
「できますよ」
「へ?」
「死ぬ前であればある程度時期を変更することはできます」
「なぜそれを早く言わない!?」
「うわぁ!お茶がこぼれる!ゆするのはやめてくださいぃ!女神の善行0.5個分の玉露がぁ!」
いやらしく資本主義的な女神がお茶を置く。
「…運命を変えるというのは大変なことなのです。ただでさえ死を回避するという因果の操作を行っているのに、そこに行き着くまでの過程を変える訳ですから結果は未知数。今よりも良くなる可能性も、悪くなる可能性もあるのです。故に、本来この手は使いたくないのですが…」
「だが使わないことには現状打破はないぞ」
女神は暫し沈黙した。
「…分かりました。でも二つだけ確認します」
何を、とは言えなかった。これまでになく真剣な面持ちで女神は続ける。
「運命の女神の権能において、一度起きた死を起こらなかったものとし、その上で復活する時点を変えましょう。ただし、その時には相応の対価と代償をいただきます」
「対価と代償…」
「えぇ、古来より人々は神に贄を捧げてきました。神の怒りを鎮めるためにも、神の加護を得るためにも。名前と形を変え、神と人々はいわば与え与えられる存在として共存してきたのです。あなたたちが神を愛せば我らも愛で応えましょう」
「その手はなんだ」女神はこれ以上ないくらい清らかという顔で話しながら掌を上に向けていた。
「愛せば我らも愛しましょう…」
「対価か?対価なのか?何が対価になるんだ」
「あなたの心持ち次第…」
「金かよ!お前は長野県の書道教師か!?娘がマジシャンなのか!?」
「何を言うんです!私は処女ですよ!?というか娘が仲○由○恵だったら最高じゃないですか!?それがダメージになるとでも!?」
駄女神は両手の人差し指で輪を作る。
「古来より神の贄といえば貴重品!宝石ドラクマ金一封!さぁよこしなさい!さすればあなたの道は開けるでしょう!!!」
「胡散くせぇ…お前女神じゃなくて邪神かなんかだろ…」
「うるさい!ちゃんとした神ですぅ〜」
渋々差し出した財布を奪い取ると女神は中身を一瞥して舌打ちをした。
「今舌打ちをしたのか!?俺今直前の地の文が信じられなかったぞ!?」
「別に中身が少ないとかそんなこと思ってませんから。とにかく、これであなたは復活のタイミングを変えられるわけです。感謝なさい」
「えぇ…」
ない胸の懐に皮財布を押し込みながら女神は言った。まさか死後にユスりに遭うとは思わなかった…青年はなおさら世界に絶望しかける。
「あともう一つ」
お茶を取りに戻った女神が唐突に振り返る。
「あなたの代償…自らの死、それ以上の運命を書き換えるあなたは今後、贄がなければ復活できなくなります」
お茶と饅頭を手に女神は問いかけた。
「それでもやりますか?」