復活
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「あなたの使命はハンターとなり、この世界を救うことです」
女神は言った。
「それをあなた、死んでしまうとは情けない」
「情けないって…」
時を戻して猪の下敷きになった後のこと。
青年は再び死後の世界にやってきていた。
「サイズおかしいだろ?二乗三乗の法則って知ってる?」
「そんなの知りません〜世界が違えば物理も違うんです〜」
青年は大きなため息をつく。
「第一、なんで俺なんだ。もっと強い奴いたろ…ジャイアント○場とかドウェ○ン・ジョン○ンとか…」
「片方はとっくに亡くなってるしもう片方はバリバリハリウッド現役じゃないですか」
「俺も死んでるじゃん…というか運命の女神なんだろ?ホラ、映画のセットの事故とかでチョチョイとさ…」
「なんてことを言うんです!全世界が愛するザ・ロ○クを殺せというんですか!?あなたは彼の死を望んでいると!?」
「うぐぐ…」
そう言われては返す言葉がなかった。
彼にはまだまだたくさん名作のリメイクに出演してムキムキのドジっ子を演じていてほしい。
「あなたはちょうど良かったんです。時期的にも人的にも」
先の信託くんから粘着テープを剥がしながら女神は続けた。
「あの国では蛮族が暴れたおかげで内政が混乱、本来であれば国の要請を受け派遣されるハンターも動けない状態が続いています。そんな時に恐ろしい怪物が現れようとしているのです」
「あの猪が」
「アレは兆候に過ぎません」
女神の手には剥がしたテープを丸めた玉ができていた。
「運命は複雑に作用します。数多ある要因が収束的に一つの結果を呼び寄せる。それこそ例えば蝶のわずかな羽ばたきから国家や世界を脅かす大災害まで、すべてのものが因果の見えぬ糸で繋がっているのです。そして今、あの世界は滅びの運命へと向かっている。あなたにはその運命の行く先を書き換える特異点となって欲しいのです。異世界から迷い込んだ、他とは全く異なる異質なもの…運命を比類なき別のものに変える、ただ一つの要因として」
「っ…」
まさかラジコン女神からここまで壮大なことを聞かされるとは思わなんだ。
「ま、そんな時ちょうどトイレに頭打って死んだ珍しい人間がいたんで放り込んでみることにしたんですよ。ルーレットもドンピシャだったし」
前言撤回だ。こいつは駄目だ。
「…まぁいい。話は分かった。でも問題は化け物の強さだ。アレじゃあ普通の人間は敵わないぞ。どうすればいい」
女神はここぞとばかりに大仰な仕草で胸に手を当てた。ちなみに胸はない方だった。
「私の加護を与えます。というか既に与えています」
「おお」
珍しくちゃんとしてる、と言いかけて口をつぐむ。ここで怒らせるとまた奇行に走って話が進まなくなる。
「不死を与えましょう」
「死んでるが?」
「死んでますね⭐︎」
こいつには期待しないほうがいいのかもしれない。そんなことを思う青年だった。
気を取り直して女神、
「正しくは死を回避する加護、とでも申しましょうか。あなたは確かにこの世界に暮らす人々よりも脆い。それは仕方がないことです。そこであなたには死に瀕する度、運命の因果を操作して生還できる能力を与えます」
「それは…」
それはもしやするとかなり強力なのではないか。青年は一度失いかけた希望を再び見出していた。
「ま、基本は死ぬので何かしら都合のいい因果を操作する間またここに来てもらうんですけどね。要は死にゲーです。死にゲー。死にまくって試して覚えてなんとか敵を倒してください」
「クソゲーじゃねえか!やめちまえ!」
「あー!あー!聞こえません〜」
女神は耳を塞いで交渉の余地を断つ。
その腐った性根に抗議をしてやらんと掴み掛かった瞬間、足元に大穴が開いた。
なるほど、生き返る準備ができたようだった。そういうシステムなのか。
空を蹴った足から落下する。そんなとき、口を突いて出たのは悲鳴ではない。
目一杯の不満だった。
「狩ゲーなんて嫌いだああああああ!」