裂傷
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嵌かった…!
仕掛けた落とし穴が功を奏した。
地面に穿たれた罠は作動と同時に先端の爆薬が炸裂。表面の土を瞬時に移動させ、異形の下に空間を生じさせる。
ただでさえ緩んだ地盤だ、暴れれば暴れるほどに土砂が流れ込んで動きを封じるだろう。
目の前の光景を未だ信じることのできないまま、青年は駆け出す。
すかさず、両の手を拠点から持ち込んだ荷物に持ち帰る。
この好機は一生に一度切りだ。
青年は胸で暴れる鼓動を飲み下した。
落ちる最中、獣は何が起きたのかを瞬時に理解した。
狩人には何度も出くわしている。その中には同様の手管を使った者もいた。
唯一想定外だったのは、自らがその罠に嵌ること。あからさまな仕掛けを見抜き、同族の劣等を囮にすることはあっても、自身が踏み抜くなどとは考えていなかった。
獣はまだ地面から離れていない後脚に体重を移動させる。
可能な限り身体を地面から露出させ、脱出のための取っ掛りとする。力まず、土砂に埋もれることを避けるように。
冷静な思考は肉体に伝達され、過去の観察から得られた最適解を実現した。
あとは罠を抜けるだけ…そう、身体を動かした時だった。
破裂音。
後脚に衝撃。鈍痛に熱が加わる。
皮膚が焼け落ち肉が露出した。
経験したことのない痛覚に獣は判断を誤った。
濡れた渓流の土に体重を乗せていた蹄が滑る。崩れた姿勢に土砂が降りかかり、獣の拘束をより強めた。
その間、土に押し付けられた鼻腔が僅かに空気を捉えた。
甘苦い匂いに僅かな刺激臭。
そこで獣は自らの身を襲った衝撃の正体を見据えた。
衝撃と熱波を皮膚で感じながら青年は伏せていた。
仕掛けた爆弾は三つ。
銀獅子の堅牢な肉質に対し、中途半端な威力では通用し得ないことは理解していた。
背中にかけたバグバイトに手をかける。
無論、簡素な爆弾三つで怪物を仕留められるとは考えていない。
手に持つこの刃を通す突破口として、青年が落とし罠周辺に仕掛けたものだった。
続く二発目の弾ける音。間髪入れずに三つ目の爆弾が炸裂する。
硝煙が抜けない視界の中、青年は得物を手に駆け出す。
畳み掛けるには今しかない。
視界の記憶を頼りに間合いを詰めより、刃を振り抜いた。
刃先に手応え。
さらに一歩踏み込み、柄を持ち替え連撃を加える。
腹を蹴る獣の悲鳴。
露出した脂肪が赤く滲み、切り裂かれた皮膚が飛び散った。
酸素を求めた口腔に鉄臭い血飛沫が降りかかる。生臭く、粘りを伴った塩気が舌に広がる。
構わず何度も振りぬいた腕の先で、白かった獣の体毛が赤血に染まっていった。
その時だった。
青年の立つ地面が少し盛り上がる。
六感へ訴えるものに胃の腑を掴まれて青年は受け身を取った。
勢いを伴って舞い上がる土埃。
怪物が再び、地上に解き放たれた。




