表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/52

裂傷

次回 翌日0:00に更新予定

 嵌かった…!

 仕掛けた落とし穴が功を奏した。

 地面に穿たれた罠は作動と同時に先端の爆薬が炸裂。表面の土を瞬時に移動させ、異形の下に空間を生じさせる。

 ただでさえ緩んだ地盤だ、暴れれば暴れるほどに土砂が流れ込んで動きを封じるだろう。

 目の前の光景を未だ信じることのできないまま、青年は駆け出す。

 すかさず、両の手を拠点から持ち込んだ荷物に持ち帰る。

 この好機は一生に一度切りだ。

 青年は胸で暴れる鼓動を飲み下した。


 落ちる最中、獣は何が起きたのかを瞬時に理解した。

 狩人には何度も出くわしている。その中には同様の手管を使った者もいた。

 唯一想定外だったのは、自らがその罠に嵌ること。あからさまな仕掛けを見抜き、同族の劣等を囮にすることはあっても、自身が踏み抜くなどとは考えていなかった。

 獣はまだ地面から離れていない後脚に体重を移動させる。

 可能な限り身体を地面から露出させ、脱出のための取っ掛りとする。力まず、土砂に埋もれることを避けるように。

 冷静な思考は肉体に伝達され、過去の観察から得られた最適解を実現した。

 あとは罠を抜けるだけ…そう、身体を動かした時だった。

 破裂音。

 後脚に衝撃。鈍痛に熱が加わる。

 皮膚が焼け落ち肉が露出した。

 経験したことのない痛覚に獣は判断を誤った。

 濡れた渓流の土に体重を乗せていた蹄が滑る。崩れた姿勢に土砂が降りかかり、獣の拘束をより強めた。

 その間、土に押し付けられた鼻腔が僅かに空気を捉えた。

 甘苦い匂いに僅かな刺激臭。

 そこで獣は自らの身を襲った衝撃の正体を見据えた。


 衝撃と熱波を皮膚で感じながら青年は伏せていた。

 仕掛けた爆弾は三つ。

 銀獅子の堅牢な肉質に対し、中途半端な威力では通用し得ないことは理解していた。

 背中にかけたバグバイトに手をかける。

 無論、簡素な爆弾三つで怪物を仕留められるとは考えていない。

 手に持つこの刃を通す突破口として、青年が落とし罠周辺に仕掛けたものだった。

 続く二発目の弾ける音。間髪入れずに三つ目の爆弾が炸裂する。

 硝煙が抜けない視界の中、青年は得物を手に駆け出す。

 畳み掛けるには今しかない。

 視界の記憶を頼りに間合いを詰めより、刃を振り抜いた。

 刃先に手応え。

 さらに一歩踏み込み、柄を持ち替え連撃を加える。

 腹を蹴る獣の悲鳴。

 露出した脂肪が赤く滲み、切り裂かれた皮膚が飛び散った。

 酸素を求めた口腔に鉄臭い血飛沫が降りかかる。生臭く、粘りを伴った塩気が舌に広がる。

 構わず何度も振りぬいた腕の先で、白かった獣の体毛が赤血に染まっていった。

 その時だった。

 青年の立つ地面が少し盛り上がる。

 六感へ訴えるものに胃の腑を掴まれて青年は受け身を取った。

 勢いを伴って舞い上がる土埃。

 怪物が再び、地上に解き放たれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ