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黒煙
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鉛のように重い身体に鞭打って、青年は走っていた。
冷たい空気が容赦無く体温を奪い、腫れた喉はすっかり鉄の味を滲ませていた。
振り返ると一筋の煙。
狼煙…拠点を利用する際の合図で、居場所を知らせるためのものである。
青年の所業だった。
大きく開いた拠点の空洞は煙を良く排出する。狼煙を見た回収の馬車は残された少女を見て状況を理解するだろう。
馬車が村まで脱出するその間、青年は獣を引きつける必要があった。
開けた場所に立つと、青年は腰に回した荷物から歪な小包みを取り出した。
音響玉。
ハンターが古くから使うもので、周囲一体に劈くような音を放つ道具である。
表面の油紙を破ると小包みは熱を帯び始める。青年が目一杯に空中へ放ると、それは小さな破裂音の後に甲高い不快音を撒き散らした。
降り落ちる残骸に鳴き虫と呼ばれる蛭のような生き物が混じる。これが絶命時に放つ音を利用して獣の聴覚を麻痺させたり、また攻撃を行ったりするのが主な使用法だが…青年はよく目を凝らして林を見回すと、その方角の一つに土煙を見た。
目論見通り銀獅子はその音を宣戦布告として受け取ったらしい。
狼煙の方角をもう一度だけ見て、青年は反対方向に駆け出した。
林に消えた背が、それ以上振り返ることはなかった。




