弱肉
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「…銀獅子」
その怪物が現れると、少女は何かに取り憑かれたように一変した。
歪んだ表情に強張った身体…かつて噂で聞いた、悪魔憑きの様相。
強引に弓砲を構えると、少女は獣に対し狂ったように弾丸を浴びせかけた。
既に持ち込んだ弾丸が尽きていることは見て知っている。手当たり次第に装弾口へ岩石を詰め込む様には痛々しささえ覚えた。
しかし、その引き金から彼女の指が離れることはなかった。
「銀獅子…銀獅子…!」
疲労困憊だったにも関わらず彼女は木々を掻き分け高台に登る。
人並外れた身体能力で駆け回り牙を剥く様は獣そのもの。青年はその様子をただ目で追うことしかできなかった。
木々を超える体躯の化け物は少女の攻撃をものともせず進む。
対峙する両者。
咆哮。
混じる獣同士の憎悪。
手指から温度が失われる。身体がその場に縫い付けられ、胃の腑から臓物抜け落ちるかのような感覚。力の一片も沸き起こることはない。
饐えたような、独特の臭気が周囲を囲む。
視界の四隅が歪むような感覚さえ覚えた。
「あ…あ…」
その次に起きたことは至極単純で、一秒にも満たないものだった。
獣が少し首を傾けたと思った瞬間、乾いた打撃が耳骨に届く。
少女の細い身体はいとも簡単に宙を舞った。
無慈悲な暴力。
その前に敗北した瞬間だった。




