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敗走

次回 翌日0:00に更新予定

「しっかりしろ!おい!」

 緋色の日が渓流を照らす。

 青年は力の限り走っていた。

 視力は滲んでほとんど見えていない。冷たい空気が強張った喉を通過するたび、鉄臭い血の味が広がった。

 彼が背負っていたのは黒色の双剣ではなく、ぐったりとした少女の身体だった。

「もうすぐだ…すぐ拠点に着く…」

「…」少女は呼びかけに応じない。

 膝を抱える手はすでに感覚を失っている。汗と泥でべたつく皮膚は焼けるようだった。

 視界に赤いものが映り込む。

 それは一滴、ニ滴と青年の首をつたって血に落ちた。

 彼のものではなかった。

 背に力無く寄りかかる少女を背負い直し、歯を食いしばって足を前に投げる。

 後方から破裂するような大きな音がした。

 銀獅子の咆哮が混じる。

 既に距離は稼いでいるはずだった。それでもなお、悪夢は着いて回る。

 青年は運命を呪った。

 その呪詛には怒り、憎しみ、絶望、諦念が込められる。

「もう少し…もう少しなんだ…頼むから…」

 嫌悪は世界に向けられていた。

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